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【ガラスに描く春の景色】松村淳 インタビュー


松村淳 個展「春の朝」を、2024年3月13日(水) – 3月24日(日)の期間にピカレスクギャラリーで開催いたします。
今回は、松村淳にご自身のことや制作エピソード、今回展示される作品などをインタビューしました。ぜひお楽しみください。


ー 自己紹介をお願いします。

ガラス作家の松村淳です。新潟県に住んでいます。
日常の心の揺らぎや忘れられない景色を、積層ガラスと色鉛筆を使って描いています。

ーどうしてガラス作家になったのですか?

小さい頃からお絵描きや工作が好きで、「つくる仕事」ができたらと思っていました。

高校生のとき、「工芸」という分野を知りました。木材、金属、布、陶芸など幅広い素材の中で、「そこにあるだけで綺麗」なガラスに惹かれました。

美容師さんやミュージシャンの手の動きとか、専門的な技術を持つ人に憧れていたこともあり、「吹きガラスをやってみたい」と興味を持ち、ガラス制作を学べる大学に進みました。

そこから人との交流やさまざまな経験を経て、今に至ります。

ー作品の世界観が生まれたきっかけを教えてください。

世界観という言葉はあんまりピンとこないのですが、「物語を感じる」と言っていただくことが多いです。ガラスを削って、磨いて、風景を描き、色鉛筆で着色して、重ねていくと、自然と物語がついてきます。

「この物語について描きました」と言えたらいいのですが、自分で物語を創作することが苦手なんです。なので、いくつかの要素を組み合わせて、 「なんだか物語が生まれそうだな」と思いながら制作しています。作品が出来上がったとき、見てくださった方それぞれの物語を感じてくれたら嬉しいです。

ー現在使っている素材や技法について教えてください。

積層ガラス
もともと憧れていた吹きガラスは、実際やってみたらとても楽しかったです。しかし、同時に不安にもなりました。基本的に吹きガラスというのは、二人以上で制作するチームワークです。温度管理に失敗すると割れてしまうし、熱いうちにしか形は変えられないという制限もあります。

私は優柔不断なので、即座に判断することができませんでした。人に見られながら作るっていうのがどうしても苦手だし、熱いから直にガラスに触ることもできないし、ガラスが自分の遠くにあるような気がしてしまったんです。

だったらもう、黙々と自分のペースで作ろうと思いました。ガラスを削ったり磨いたりするのも好きだったので、今もそれを続けています。

その後もいろんな技法を試してみましたが、積層ガラスに戻ってきたのは、やっぱり自分の性格に合っていて、ガラスを近くに感じられる方法だからだと思います。

色鉛筆
色鉛筆を使うと、自分とガラスの距離が、ますます近くなります。自分が描きたい世界を、作品に落とし込むことができるからです。

大学2年生までは決められた技法とテーマで制作することがほとんどだったので、3年生になって、「好きな技法でやってごらん」と言われたとき、正直戸惑ってしまいました。

そんなとき、授業で海外のアーティストの作品を見る機会がありました。絵の具や色鉛筆でガラスに着色している作品に出会い、「もっと自由になっていいんだ!」と自分の中で枠が外れたんです。

それまでは「ガラス専用の材料で着色しないといけない」と思い込んでいましたが、もっと違う方向から考えてみようと一歩を踏み出しました。そこから、「積層ガラスに色鉛筆で着色する」という今の技法に繋がります。

色鉛筆は、芯の硬さもさまざまです。硬い質感の色鉛筆だと、色がしっかり乗らない分、透明感がある仕上がりになります。一方で柔らかい色鉛筆だと、しっかり濃く塗れるけれど、ちょっと不透明です。

たとえば、水の透明感を出したいときは、硬い色鉛筆。霧のような重みを表現したかったら、柔らかい色鉛筆。そうやって使い分けを意識しています。

ー制作の流れを教えてください。

はじめに、正面からと真横からの色の見え方を考えて、色鉛筆でさっと下絵を描きます。その後、色をつけながら板ガラスを重ねて、見え方を調整しつつ、制作を進めています。

下絵を描かずに色をつけていたこともありますが、制作途中で迷いが出てきたり、イメージ通りにならなくてやり直すこともありました。
その反省を活かして、今では最初に大まかなイメージや方向性を決めてから、 ちょっとずつ調整を重ねています。

一方で、色鉛筆の色の見え方は接着の前後で変化しますので、全て計算してできるわけではなく偶然性によるおもしろさもあります。台に置いたときと、浮かせた状態での見え方とかも、やっぱり違うんですよね。

ー普段、何からインスピレーションを受けていますか?

日常生活の中で「楽しいな」「美しいな」と感じたことのかけらを拾い集めています。印象に残ってる風景を思い出すこともあります。

子どもが3歳なので、早起きして作業することが多いです。私は子どもを寝かしつけてからもう一度起きることができないので、子どもと一緒に寝て、朝5時くらいに起きます。まだ暗い空がだんだん明るくなって、色が変わってくる様子などを、そのまま作品にしています。

葉っぱを裏返したらこんな色なんだとか、アリの行列を見つけたりとか、子どもを通して発見することもあっておもしろいです。自分ではあまり意識していませんが、知らず知らずのうちに、作品にも反映されているかもしれないですね。

ー好きな場所・もの・作品などを教えてください。

場所
二十代の時、青森県のガラス工房で働いていました。そこで一人暮らしをしていたときに見た風景が、今でも忘れられません。

青森県の日本海側で、山と海がせめぎ合っているところです。どこからアクセスしても遠くて、コンビニまで車で30分。家のすぐ目の前が海で、車がすぐに錆びてしまうのですが、景色が本当に綺麗なんです。朝・昼・夕方・夜にかけて、そして季節によっても全然海の色が違います。白神山地にある十二湖も大好きな場所です。

今回出展する作品で、春になると山が色づき、 桜が咲き、新しい芽が出てきて、いろんな色に彩られる景色を描いたものがあります。青森で初めてこの景色を見たときの印象深い記憶からヒントを得ました。
10年近く経った今も作品制作の礎となっている大切な場所です。

詩・小説
最近とても心に響いたのは、長田弘さんの『世界は美しいと』という詩集です。何気なく目にする日常の風景が本当に美しい文章で描かれていて、心に沁みて頷きながら読んでしまいます。

小説では、高校の現代文の教科書で短編を読んで以来、小川洋子さんの作品が好きです。童話のようなフィクションの世界なのに、リアリティも感じる。すごく激しいシーンなのに、情景はすごく静か。言葉運びも魅力的です

絵本
好きな絵本はいっぱいありますが、1つ挙げるなら『よあけ』(ユリー・シュルヴィッツ作)です。

数年前に友人から「この絵本、松村さんの作品にすごく合っている。私も好きだから送ります」と頂いた本なんです。
言葉は少なく、刻々と夜があけていく様子が水彩画で描かれています。子どもの頃にも読んだのですが、大人になって読んだら、色や情景の切り取り方が心に響いて感動しました。

以来、行き詰まったときにはこの絵本を手に取ります。心を静めたり、自分の過去の風景や記憶を思い出したり、色彩の捉え方を参考にしたり、いつも近くに置いています。

画家
木版画家 清宮質文さん(せいみや なおぶみ)の作品が好きです。私の好きな、静かな雰囲気を感じます。

お客さまから「作品の雰囲気が似ていますね」と言ってもらったことがあって、そこからとても好きになりました。

ーこれからつくりたい作品を教えてください。

たとえば、色をつけず、接着剤も使わずに、ガラスを重ね合わせた作品。どうやって固定しようかという問題がありつつも、削ったガラスの白く曇った表情だけを重ねたら綺麗かなと考えています。

ガラスの端材を使った作品もやってみたいです。具体的には考えられていないのですが、ただ捨てるのは心苦しいので、何かに活かしていけたらと思います。

もちろん、今作っているような作品も増やしていきたいです。これからも、日常の本当にちょっとした心の揺らぎからヒントを得て、制作を続けたいです。

ー今回の出展作品のコンセプトを教えてください。

ひとひらの風景-春の朝-


展覧会の始まる頃のことを想像しながらカレンダーをめくると、七十二候では「桃始笑(ももはじめてさく)」とありました。
昔の人は花が咲くことを「笑う」といっていたそうです。のどかで明るく穏やかな情景が浮かび、展覧会全体のイメージを込めて作りました。

朝、窓を開けたときに「あ、暖かくなったな。日が昇るのが早くなったな」と肌で感じる季節の移ろいや、心がほぐれる感覚を描きました。

ひとひらの風景-朝に染みる-


横にガラスを積層するときの色の見え方に着目し、山の形に落とし込んでみたいという思いからこの作品が生まれました。

夜明けの頃、朝日に染まった山の刻々と色が変化していく姿を想像して描きました。見る角度によって色が混ざり合い、さまざまな印象を楽しめます。

輪郭の反射による揺らぎ、落ちる影の色など、ガラスならではの表情にも注目してみてください。

ひとひらの風景-午前の散歩道-


一辺約2.5cmと、展覧会の中では一番小さな作品です。あたたかな光の中で散歩をする情景を描きました。

以前住んでいたところの近くには畑があり、春になると菜の花が一面に咲いていました。
吸い込まれそうなほどの青空のもと歩いたときの、菜の花の黄や緑との色のにぎわいが印象的で、春になると思い出す風景のひとつです。

皆様の思う色の風景を重ねていただけますと嬉しいです。

ー お客さま、ご来場予定の皆さまにメッセージをお願いします。

私は春が苦手なんです。「新しいチャレンジをしよう」という空気にソワソワして、希望を抱いたかと思えば、急に不安になったり、結局途中で疲れてしまう…なんてこともあります。

そんな季節ですが、心が静かになるような展覧会にできたらなと希望をこめて、優しい色の作品をつくってみました。ちょっと一呼吸置けるような時間を過ごしてもらえたら嬉しいです。

積層ガラスの魅力は、いろいろな角度で見て楽しめることです。ぜひ手に取っていただき、光に透かしてみてください。「ひんやりと気持ちいい」「意外に重いんだな」という質感も味わってもらえたら嬉しいです。ぜひ、いろんな楽しみ方を見つけてみてください。

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松村淳さん、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。
皆さまはどのエピソードが心に残りましたか?
ピカレスクスタッフは、「ガラスを近くに感じる」という言葉が印象に残りました。
松村さんのガラス作品を見て、どこか懐かしさを感じたり、美しい景色を見てハッとした時の感覚を思い出す方も多いのではないでしょうか。松村さん自身が「ガラスを近く感じる」方法で制作されているからこそ、見る人にとっても「この作品、なんだか私の心の近くにある」と思えるのかもしれません。
松村淳さんの展示作品実物を一堂に鑑賞できる貴重な機会です。皆さまのお越しを、お待ちしております。

松村淳 個展「春の朝」


〈会期〉2024年3月13日(水) – 3月24日(日)

〈詳細〉https://picaresquejpn.com/junmatsumura_exhibition_2024/

〈松村淳 公式SNS〉
Instagram https://www.instagram.com/jun__matsumura/
HP http://matsumurajun.com

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【基本営業日時】
*営業 水 - 日・祝 11:00 - 18:00
*定休 毎週月火
*会場 Picaresque Gallery
*住所 東京都渋谷区代々木4-54-7
*電話 070-5273-9561

■開催中&過去に開催した展示一覧
https://picaresquejpn.com/category/information/
■開催&開催予定の展示一覧
https://picaresquejpn.com/exhibition-calendar/
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