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オーバーオールの冒険





オーバーオールの冒険

海洋に出て、世界を目指し

天空に羽ばたき、宇宙を目指す

遠くまで

はるか遠くまで行けるよう


名付けは祈り

名は十字架


どうせ、捨てるのに、なぜ?

どうせ、傷つけるのに

どうせ、殺すのに、なぜ、名付けた?



暗い顔

濡れた髪

まるで、マリア・マグダレナ


常に見張られ、裁かれる

見えない礫に打たれる者


そうか

そうすればいいのか……


赤ん坊を、野に、置き

みんなで寄って集って、守り、育む


そうか

誰でもいいのか……


凍えないよう子を抱きあげるのも

名のない子に名付けるのも

哺乳瓶を綺麗に洗って並べるのも

泣く子に、乳を含ませるのも

傷つけてごめんね、と謝るのも

生まれてきてくれて、ありがとう、と伝えるのも……


そうか

誰でも

彼女でなくても、よかったのか……


彼女の、ありがとう、が聞きたくて

ずっと、彼女を待っている僕たちは

だから、ありがとう、が言えない


彼女の、ごめんね、が欲しくて

ずっと、ずっと、ずっと……

彼女を待っている僕たちは

だから、ごめんなさい、が言えない


彼女に、全ての罪をなすりつけながら、その罪を裁こうとしている僕たち


僕たちは、彼女の白い腹の中央をズタズタに走る大きな傷から生まれた

一番初めに、僕たちに捧げられた、十月十日という彼女の命

いつまでも、それ以上を要求しつづける僕たち


子どもの、弾ける笑い声

これさえあれば生きていける、という瞬間

オーバーオールの子どもたちの冒険を守るためだけに、僕たちは存在している


彼女も、彼女から生まれた子ども

今、新しいつなぎを着た彼女の冒険を見守る


誰でもいいのだ

みんなで、寄って集って、育み合う


求めるべきは、友だった



許さない、と言うために、彼女を待っているのではなかった

むしろ、その逆……



2023/1/23






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