10/12 イヌターネッコ

僕は犬が好きではない。さらに言ってしまうと、なんと猫も好きではない。

インターネットの世界を見渡すと、犬と猫が嫌いな人なんてただの1人も存在していない。仲間外れにされたくなかったので、あたかもそんな事無いかのように振る舞い続けていたのだが、己の心の奥底ではそんな事ありまくりだった。

正直、なぜ嫌い?と言われるとよく分からない。物心ついた頃から、犬と猫はもうなんかずっと好きじゃなかった。

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僕が青森の田舎で暮らしていた小学生の頃、実家の周りには犬を飼ってる人しか住んでいなかった。

土地柄もあってか、しつけも何もあったもんじゃない下品なバカ犬オールスターが勢ぞろいといった感じで、当然可愛いと思うはずもなく大嫌い、というか普通にめちゃくちゃ怖かった。全然噛まれたりしたからだ。

通学路では必ず彼らの前を通らなければならず、物音を立てずにそっと前を通り過ぎるために頭を悩ます毎日は、番犬ガオガオのようで全く面白くなかった。

犬に対する負の感情は、完全にそこで芽生えた記憶がある。

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逆に猫については、実を言うと特に何かをされたわけでもない。ただ、幼少期特有の過剰な思い込みによってか、無意識のうちに犬とセットで苦手になっていた。なんの理由もなく例のバカ犬オールスターと同じ熱量で怖がり、嫌っていた。自覚なき差別とか言うやつだと思う。

そんな中で小学3年生の頃に、友達のタカミヤくんちへ遊びに行った。完全に油断しきった状態で玄関を開けると、目の前のタカミヤくんと並んで3匹の三毛猫が行儀よくお出迎えしてきているのが目に入った。不意を突かれた僕は思わずその場で腰を抜かしてしまい、四つん這いの体勢で震えながら、オイオイとものすごい声をあげて泣いた。もうそのまま死ぬんじゃないかってくらい泣いた。最後の夏が終わった高校球児と同じ量の涙が出ていた。勝手に夏が終わった男をタカミヤくんはポカンと見ていた。僕はそれを見ながらさらに泣いた。男の子なのであと2回しか泣けなくなった。結局その日は公園で遊んだ。

その後、タカミヤくんとは絶交した。ポケットモンスターのエメラルドを盗まれたからだ。エメラルドの中には色違いのレックウザが入っていた。ポケモンは呆れるくらい大好きだったので、それ以降彼とは一切口を利かなくなった。玄関先で泣いて以降、猫の思い出が一切更新されていなかったせいで、猫の事を思い出すと彼もセットで思い出してしまう体になった。彼の事などもう一切思い出したくなかったので、僕と猫の距離はさらに離れるようになった。

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犬猫にまつわるトラウマ回想してみたつもりが、後半はほとんどタカミヤくんのトラウマ回想になってしまった。頭に残っていた恐怖の記憶と感覚を文字に起こしていったら、タカミヤくんの非道さ以外は何も反映されていなかった。13年経った今でさえも、やっぱり盗っちゃダメだろと思う。人のものをとったらどろぼう。

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僕がインターネットで知り合った人は、体感と印象だけで適当に言うと99%の確率で犬猫を愛している。その中で、そこそこ親密になった人はもう完全に100%の確率で犬猫を飼っている。僕のネット友達たちはみな、毎日犬猫と一緒に暮らしている。何度も言うように、僕は犬猫があまり好きではない。

最近ではインターネットを開くと毎日誰かしらの犬猫が目に入ってくる。もう毎日毎日流れてくる。僕は毎日毎日インターネットばかり見ている。そんな感じで半年くらい過ごした。どういう訳なのか、彼らが少しずつ可愛く見えるようになってきた。以前よりも前のめりで見るようになった。疑念が確信に変わってきた。めちゃくちゃ可愛い感じがする。凍結していた愛情がインターネットを介してじわじわと融解し、音を立てて溢れ出てきているのを感じた。最近、タカミヤくんの顔が思い出せなくなってきた。僕は、好きな人が好きなものを嫌いになれないタチである。学生時代に、同様の理由で好きでもないRADWIMPSを熱心に聴いていた時期だってある。その感情とは少し違うかもしれないが、少なくとももう嫌いではない。というかもはや正直に言ってしまうと、今の僕は犬が大好きだ。さらに言ってしまうと、なんと猫も大好きである。

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よくよく考えると僕は犬に触ったことが無い。同様に、猫もそうだ。

ちょうど似たようなサイズ感と質感を持った、ドラえもんのぬいぐるみなら触った事がある。ふわふわした手触りと腕に乗せた時の収まり具合が、結構いい感じでフィットしていた。もし本物の犬猫がこれと似たような心地よさなのであれば、ちょっとこれはとんでもない事になるかもしれない。

初めて彼らをこの手で抱きかかえてみた時に、一体どんな気持ちになるのか、正直見当もつかない。猫型ロボットには無い温もりを全身に感じた後、人間の感情がどういう風に動くのか、体験したことが無いので全く分からない。それが少し怖くもあったり、もの凄く楽しみでもあったりするのだが、こんな思春期みたいな思考回路になるのがそもそも久しぶりなので、考えてるだけで脳みそが落ち着かない。

期待のハードルだけが上昇しているが、いざ抱きかかえてみた時に全然普通に気持ち悪いと感じてしまったらどうしよう。

正直それでも全然、可愛いと思ってしまう気がする。

おしまい。

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