9/1 歯

先週ぐらいから少し歯が痛むようになり、「生活に支障は無いけど、まあ悪化して手遅れになったら嫌だし早めに手を打っておくか」ぐらいの気持ちで近所の歯医者へ向かったところ、なんと虫歯が18本も見つかった。

18という数字は、少し多い。雑に言えば、ほぼ全部の歯が虫歯という事になる。衛生士さんから「虫歯が18本あります」と直接宣告された時は、思わず「ほぼ全部じゃないですか…」と呟いてしまったが、声が小さすぎて誰も聴き取れてなかったと思う。私は声が小さい上に虫歯も多いカスだ。

虫歯の検査をする前に行ったレントゲン撮影の時はあんなに和やかだったのに、一瞬にして重苦しい空気に包まれてしまった。担当した歯科助手さんも、さっきまでレントゲン程度でウキウキしていた自分が、大量の虫歯宣告でシナシナになっている様子を見てじわじわ込み上げてくるものがあったかもしれない。マスクをしているのでよく分からないが、俺だったら床をどつき回るほど爆笑していると思う。

今となっては信憑性の無い話ではあるが、大学に入るまで虫歯と診断されたことが無かった。大学1年の最初にある健康診断で異常ナシの判定を貰って以来、自分を過信し、以降の診断を4年連続ですっぽかしている間に虫歯側も急成長を遂げたのであろう。ITベンチャーさながらの凄まじい成長力には敵ながらアッパレである。

「僕ってこれからどうなるんですか?」と人生で初めて聞いてしまった。「どうにもなりません。残念ながらあなたは今すぐ死にます」という返答を心の中で覚悟していたが、返ってきたのは「1本ずつ地道に治していきましょう」という、ありふれてはいるが気の遠くなるような話だった。1回につき1本ずつ治していったとしても、合計で少なくとも全18回は歯医者に行く必要がある。(全18回て、愛の不時着じゃないんだからwww)と心の中でゲラゲラ笑って、その日の治療は終わりになった。

本格的な治療がまだ始まっていないにも関わらず、会計では4000円も取られてしまったが、見ず知らずの女性に私欲にまみれて腐りきったお口を見てもらった事への慰謝料と考えると、破格の安さなのかもしれない。毎回こんな額を払っていたら歯が綺麗になっても(お金が無くて)何も食べれんくなりますわな(笑)とつまらないジョークが口を出そうになったがぐっと堪えた。歯が終わっている人間はペラペラ喋るべきではない。

『18本虫歯があるぞ』と言われた直後から、突然18本分の痛みを覚えるようになった。「もともと痛みはそれほど無かったのに、なぜこんなに虫歯が…」と衛生士さんに聞くと「若いからじゃないですかね?」とぎこちない口調で言われた。おいおい無理すんなよ(笑)と思いつつ、彼女にチップを4万円渡して病院を出た。

嘘つきや不義理を重ねた人生であるために、将来地獄に落ちて閻魔様から舌を根こそぎ抜かれてしまう事までは想定内だったが、地獄に先立って永久歯も丸ごと抜かれてしまうのは聞いてない話だ。歯も抜かれて舌も抜かれて、このままだと自分の最期は、口の中が空っぽのバケモノになっちまうなあ。とぼんやり思いつつ、帰り道にあるスーパーでスポンジとラップとにんにくチューブを買い、生意気にもクレジットカードで支払いを済ませ、埃まみれの自宅へ戻った。

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