2/21 バス

免許も持たずに極端な車社会で暮らしていると、外に出て済ませる用事がある時は必ずバスを使わなければならず面倒くさい。

田舎のバスというのは、なんとなくの時間で乗り場に向かっても都合よく乗れる都心の地下鉄とは全く違い、むしろ事前に時刻表をしっかり予習して、スカスカのダイヤグラムから少ないチャンスをものにしようとする揺るぎない意志のようなものが無いと絶対に乗る事が出来ない。ちょっと移動するだけでも都心の人間より何倍も苦労がある。

例えばちょっと近所のブックオフを冷やかしに行きたいと思った時も、こんな微細でカスみたいな用事のくせにちゃんとバスの時間を事前に予習する必要がある。なんなら身支度する時間まで考えるとアラームまでセットする場合もある。ブックオフへ行くために鳴らしてるアラームの音色を、もし他人に聞かれたらものすごく恥ずかしいと思う。

あまりに不便なので本数をもっと増やして欲しいのだが、何時に乗っても閑古鳥の車内を見るとその望みは極めて薄い。

しんとした車内で流れる暴力団排斥キャンペーンのcmが、頭の中で何度もループして気が狂いそうになる。フリーダイヤルで723-8930(なにさ ヤクザ0 )まで通話をかけると、暴力団員を無料で追放してくれるサービスを実施中らしい。

運転手の態度も大概悪く、マイクのスイッチが入った状態で痰の絡んだ咳を平気でするし、運転もめちゃくちゃ荒い。バックミラー越しに運転手と目が合うと、さっき車内で覚えたばかりの語呂合わせが無意識に頭を反芻する。

電子決済なども当たり前のように対応していない。運転手の顔が怖すぎて、電子決済というこんな便利なものが世の中にあるんだという事をいまだに誰も伝えられていないんだと思う。

忘れもしないが中学生の頃、降り場で運賃の小銭を出すのに少しもたついてしまった事があるのだが、それを見た運転手に軽く舌打ちをされた後、マイクに入らないギリギリの声量で「オマエ早くしろよ」とにらみを利かせながら恫喝された経験がある。これはすごい事である。思わず「すいやせんでした〜💦」とうろたえながらバスを駆け降りたが、今思えばサービス業がそんな半グレみたいな真似をやっていいわけがない。 『なにさ、ヤクザ0』のCMを、運転手にも聞こえるように改良すべきである。

地元の自虐話というのは大抵が自分でどんなにけなしても愛情の裏返しだったりするものだが、地元のバス会社に対してはどんなに感情をひっくり返しても真っ黒な暗澹たる憎悪の気持ちしか浮かんでこない。2時間に一本しか来ず、電子決済も使えない上に、ただ大型2種免許を持ってるだけの半グレが運転しているバスにどんな愛着を持てばいいのだろう。毎度乗るたびに2度と乗るかよこんなバスと思うが、喉元を過ぎるとまた衝動のようにブックオフへの欲が抑えきれず、また時間きっちりにアラームを鳴らして行儀よく乗車してしまう。今思ったが、もしかするとそこまでしてブックオフに通いたくなっている俺の方がおかしいのかもしれない。しびれを切らして俺がブックオフに飽きるのが先か、バス会社の体制が変わるのが先か、誰も注目していないチキンレースが本州最北端の地でまだまだ続きそうな予感がして、気が滅入っている。


おしまい。





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