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歴史マンガセット 各社の比較(2021年春版)

はじめに

 昨年、「歴史マンガセット 各社の比較(改訂版)」という記事を公開しました。結構反響があり、皆さん歴史マンガの情報が欲しかったのだな、と感じます。2021年になり、講談社版が出た、学研にDVDがついたなど、いろいろ動きがありましたので、2021年版として公開します。刊行年が古い順に紹介します。長い記事ですので、時間がない人は最後までジャンプすることを推奨します。

小学館「少年少女日本の歴史」(1988年、平成版は2018年)

 初版刊行は1988年、98年に増補されています。もっとも歴史があるシリーズですね。全22巻+別巻2巻(人物事典、史跡・資料館事典)、計24巻です。
 このシリーズの最大の特徴は、全24巻と分量が多く、内容も最も詳しいことです。コマ内の情報量が多いこと!注釈も多いこと! 大学受験にも対応できます。

 利点その1は、内容が詳しく、かつ「歴史学」に基づいて描かれていることです。当時の歴史学で「わかっていないこと」をはっきり示しており、学問的に誠実です。一方「わかっていること」は可能な限り入っています。1988年当時の歴史学の叡智を結集した、文句なしの大名作といえるでしょう。(画像は1巻)

小学館1巻中身

 利点その2は、他社と違い、最終巻以外は一人の作家(あおむら純)が描いているところです。次に述べるように絵も表現も古いのですが、巻ごとのばらつきはなく、同じペースで読むことができます。文字で読むだけではわかりにくいことを、マンガで説明しているのもよいところです(定免法とか足高の制とか)。歴史に本格的にはまった子には、より深い楽しみを教えてくれる、いわば「歴史沼」や「学問」の入口ともいえます。

 ただこのシリーズは、明確な問題点もあります。
 問題点その1は、とにかく絵もマンガ的技法も古いことです(1枚目、16巻)。2018年に出た平成編も2枚目ですからねえ(22巻。88年の本と統一感を出すためでしょうが)。今のお子さんに合うかどうか…。

小学館16巻幕末中身

小学館平成中身

 問題点その2は、詳しい分、内容をつかむのが簡単ではないことです。そのため、歴史に苦手意識を持っている子に最初に提案するのには、あまり向いていません。

 問題点その3は、2018年に追加された平成編(第22巻)は、明らかにそれまでの巻や、角川版より見劣りすることです。作画は森本一樹。ご覧の通り、人物はあまり似ていませんし、描写もあまり正確ではありません。バブルの描写がものすごいのですが…これは皆さん直接見ていただきたいところです。

小学館24巻中身

 問題点その4は、現在の学習指導要領の内容から見ると、古くなっている描写が目立つところです。第13巻のタイトルは「士農工商」ですが、現在は「士と農工商」と教えます。慶安の御触書は幕府の命令として描かれていますが、今はその説は否定されています。そのため塾のテキストや授業で最新の情報を手に入れ、受験は新しい情報をもとに答えていく必要があります。近現代が少なめ(27.2%)なのも気になります。

 小学館版は、歴史マンガの金字塔なのは間違いなく、内容も文句なく高度です。その一方で問題点もあります。さすがに刊行から30年以上経っているので、内容が古くなっているのは否めません。お子さんの状況を考えて、選ぶ必要があると思います。

利点と問題点
◎ 大学受験まで対応できる内容の高度さ
◎ 歴史学、歴史沼の入口としても有効
△ 表現が昔のマンガ的で今の子には合わないかも
△ 高度なため入門には向かない
× 平成編は明らかに見劣りする
× 古くなっている情報が目立つ

<情報・購入リンク>
22巻+別巻2巻セット、税込み21758円です。
内容紹介はこちら。→https://www.shogakukan.co.jp/pr/manganichireki/
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朝日学生新聞社「日本の歴史 きのうのあしたは…」(2010年)

 2006年から「朝日小学生新聞」に連載された作品をまとめたものです。日本の歴史を、小学生の男の子と女の子、案内役の妖精・レキシーが旅するという設定です。「小学生が見た/経験した歴史」を描いています。

 利点その1は、絵柄がすっきりと現代的で、性を問わずに楽しめるところです。マンガは絵柄によって男性向け、女性向けと、ジェンダーがはっきり現れがちですが、この本はどちらにも偏っていません。絵が古いと感じられることもないでしょう。

朝日学生新聞社6巻1

 利点その2は、章の終わりごとに音読コーナー、漢字書き取りコーナー、振り返りテストがあることです。知識を定着するための仕掛けがあるのです。これは他の本にはないものです。

朝日学生新聞社漢字練習

 利点その3は、マンガの中に同時期の世界の動きへの言及がある点です。他の本でも、解説部分や巻頭に世界の動きが書いてありますが、マンガの中で説明するのはこの本だけです。

朝日新聞出版社6巻P192

 利点その4は、分量が少なめな分、内容を理解しやすいところです。文字も大きく読みやすいです。歴史が苦手な子、流れをつかんでいない子には向いているでしょう。

 一方、問題点1は、ボリュームがかなり少ない点です。中学受験にはなんとか対応していますが、上位校向けにはやや不足です。大学受験には対応していません。
 問題点2は、近現代の分量が少ない点です。全7巻のうちの6巻後半と7巻で、明治、大正、昭和、平成を語っているのですから、相当圧縮されることになります(近現代の割合21.5%)。特に戦後はかなり駆け足です。

 内容とはちょっと離れますが、主人公の男の子が、感受性が強く、繊細な心を持っているのがよいのですね。また「きのうのあした(=現在と未来)をよくしていきたい」という、作者の願いが現れているのも好感が持てます。

 出版されてから時間がたっているため、店頭では買えない可能性が高いです。朝日新聞出版社は、歴史マンガの重点を後述する「タイムワープシリーズ」に置いているため、今後絶版になる可能性もあります。一方、他のシリーズにはない良さもあります。歴史を初めて学ぶ人や、大まかに歴史をつかみたい、という人に向いているでしょう。

利点と問題点
◎ 絵柄がすっきりして読みやすい
◎ 漢字練習コーナー、確認テストがついている
× 巻数が少ないため説明が少ない
× 近現代史が少ない
× 入手手段が限られてきている

<購入・情報リンク>
7巻セットで9680円です。
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*Kindleなど電子書籍版は大幅値引きしていることがあります。

角川書店「日本の歴史」(2015年)

 現在の日本のアニメやマンガをリードする、角川書店が刊行した歴史マンガです。大きな特徴は、表紙を吉崎観音や小畑健といった、ヒット作を出したマンガ家が描いていることです。先行する他社の本が菊判(A5より少し小さい)、ハードカバーなのに対し、ソフトカバーで軽く、小さい(四六判)のも特徴です。その分お値段もお安めです。この大きさは講談社が採用し、集英社版もこの大きさに変更する予定です。歴史マンガの新しい流れを作ったシリーズです。

 量的には本編15巻、別巻4巻(歴史まるわかり図鑑+よくわかる近現代史1~3)と、集英社、小学館、講談社には少し及びませんが、すらすら読めるように工夫されているので、歴史の入門に適しています。また最新の学習指導要領の改訂にも対応しているので、受験にも十分対応できます。

 利点その1は、集英社版と違い、表紙と中身のギャップが少ないことです。表紙の作者とマンガの作者は違いますが、表紙絵に近い絵柄になっています。また巻ごとのばらつきも比較的少ないです。全体的に現代的な絵柄で、今の子どもにも広く受け入れられると思います。一番目の図は1巻の表紙、二番目の図は中の絵、三番目の表は表紙の作者と中のマンガの作者を示したものです。

角川1巻表紙

角川1巻33p

角川表紙&中身

 利点その2は、別巻4巻のうち「よくわかる近現代史」3冊が非常によくできていることです。本編15巻では、近現代はかなり駆け足ですが、別巻で補足しているのですね。戦争に至る流れが十分に説明されていますし、戦後の政治状況や国際関係もわかりやすいです。他社の歴史マンガを持っている人でも、この3冊だけ追加で買ってもいいと思います(近現代の割合37%)。

 問題点は、講談社が出た現在、少々内容の薄さが感じられるようになったことです。大学受験にはちょっと足りないと感じます。
 ただ、この他の問題点はあまりないと思います。内容的な問題点は少なく、オススメできるシリーズになっていると思います。

利点と問題点
◎ 表紙は今人気のマンガ家
◎ 表紙と中身のギャップが少ない
◎ 表紙も中身も現代的な絵柄
◎ 近現代別巻3巻が非常によい
△ 単体で大学受験は難しい

<情報・購入リンク>
全19巻まとめて税込み16720円です。15巻セットもありますが、19巻セットを強く推奨します。世界の歴史と似ているので、間違わないように注意!(世界の歴史は全20巻)
試し読みはこちら。→https://mangagakushu.kadokawa.co.jp/nihonnorekishi/lineup.html
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集英社「日本の歴史」(2016年、コンパクト版2021年)

 集英社も、小学館と同じ時期に歴史マンガを発行していましたが、学研、角川の新版発行を受けて全面改定しました。最新の内容に対応し、全20巻と分量も多く、取り上げる内容も比較的詳細です。

 重要な特徴は、表紙絵を岸本斉史、荒木飛呂彦、久保帯人、椎名軽穂、樋口大輔などの、ジャンプ系を中心とする著名なマンガ家が手掛けている点です。荒木飛呂彦が歴史マンガの表紙を描いているとなると、読んでみたくなりませんか? 表は表紙絵と中身のマンガの作家の一覧です。さすが集英社といえる人選です。

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 利点は、20巻のうち近現代が8巻を占めることです(近現代40%)。最近の受験は、中受も大学受験も、近現代の割合が大幅に増えています。学校や塾の授業ではフォローしきれないことが多いのですが、集英社版ではこの部分をカバーしています。近現代の割合はすべての歴史マンガセットの中でトップです。

 ただ、このシリーズには大きな問題点があります。問題点1はなんといっても、「表紙と中身の絵が全然違う」巻が多い点です。画像は18巻。表紙は荒木飛呂彦ですが、中身はたなかじゅんによるもので、大きく違います。

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 画像は10巻。表紙は「東京喰種」の石田スイですが、中身は藤田竜介によるものです。読んだ人は驚くかもしれませんね。

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 画像は、集英社版の表紙絵の作者、中身のマンガの作者、そして筆者が感じたギャップの大きさをまとめたものです。表紙絵と中身が同じなのは、8巻の樋口大輔のみです。

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 全体的にキャリアが長い作家が多く、マンガとしてわかりやすい巻もあります。また6巻(幡地英明)、8巻(樋口大輔)のように、絵も見せ方も非常にうまい巻もあります。一方16巻(海野そら太)のように、テーマと絵柄が合っておらず、見せ方も上手ではないと感じる巻もあります。巻ごとに大きなばらつきがあるのですね。

 表紙絵に著名なマンガ家を採用するのは、その作家のファンである親の目を惹くためでしょう。ですが実際に読むのは子どもです。表紙と中身のギャップを、子どもはどう思うでしょうか。子どもに違和感を抱かせるような編集方針を受け入れられるかどうかで、判断が分かれると思います。

 問題点2は、全体的に絵に余白が多い点です。このためかなり読みやすいのですが、その分内容も薄めです。中学受験には十分対応できますが、大学受験には不足だと感じます。

 表紙サギ、と言われてしまっても仕方ない内容です。内容的には中学受験に十分対応できるので、学びの役には立つでしょう。中身をよく確認してから買うことをオススメします。
 このシリーズは、小学館と同じ、ハードカバーで、大きいサイズの本でした。2021年6月に、角川、講談社と同じサイズのコンパクト版が発売されます。このセットには別巻「試験に役立つ!超重要テーマ11」が付属し、全21冊になります。持ち運びやすく、値段も安くなるでしょうから、購入するならコンパクト版を購入するのが良いでしょう。

利点と問題点
◎ 近現代の割合が最も多い
○ 表紙は今人気の作家
× 表紙と中身のギャップが大きい
× 巻ごとのばらつきが大きく、面白くない巻もある
× マンガに余白が多く読みやすいが内容は薄い
× 大学受験には不足

<情報・購入リンク>
コンパクト版は20巻+別巻1冊、税込み17380円です。
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朝日新聞出版社「歴史マンガ タイムワープシリーズ 通史編」(2017年)

 小学生に大人気のマンガ、サバイバルシリーズ。このシリーズは、「歴史マンガサバイバルシリーズ」として刊行された本を、学習指導要領に合うよう増補したものです。

 サバイバルシリーズに共通して、①子どもが主人公、②子どもがトラブルなどに巻き込まれる中、解決・対策手段を見いだしていく、③オールカラー という特徴がありますが、それはこのシリーズでも同じです。

 利点その1は、常に「子どもの視点」で歴史が描かれ、あたかも自分がその時代に行ったような感覚になることです。そのため歴史への「親しみやすさ」は、ほかの歴史マンガより抜群に高いです。

 利点その2は、絵柄が非常に現代的でかわいらしいことです。性や好みを問わず幅広く受け入れられると思います。

タイムワープ5中身

 利点その3は、歴史の出来事がマンガ全体のストーリーに組み込まれ、非常に理解しやすくなっている点です。低学年から読んでもOKでしょう。

 ただ欠点もあります。問題点1は、描写が客観性に欠ける点です。中心に描かれる人物に感情移入しやすく、対立している側に良くない印象を持ちがちになるのです。例えば鎌倉編では、義仲、義経中心に描かれるため、頼朝が悪役に見えるのです。一応対立している陣営両方から描くようになってはいますが、客観性には欠けます。

 問題点2は、分量が圧倒的に不足している点です。コラムなどで学習指導要領に対応してはいますが、マンガだけでは中学受験に求められる知識を得ることはできません。また近現代が3巻しかなく(近現代の割合21%)、この点でも不足です。

 あとは全体的なノリが、サバイバルシリーズらしく、ヤンチャというか、子どもらしいというか…まあ下品なんですね。まあ読むのは子どもなので、お子さんが判断すべきだと思いますが。

 このようにこのシリーズは、歴史の入門や、苦手な子が流れをカバーするのにとても向いていますが、単体では受験に対応できません。そのため別のマンガの入口、という位置づけになります。買う際には注意する必要があります。

 なお、このシリーズは大きく「通史編」と「テーマ編」に分かれており、BOXとして売られているのは「通史編」です。「テーマ編」は現在も続刊中です。

利点と問題点
◎ とっつきやすい。歴史の流れを理解しやすい。
◎ 絵柄がかわいく性に関係なく受け入れられる
◎ 低学年から読んでも大丈夫
△ 独特のノリは好き嫌いが分かれる
× 分量が少なく単体では受験に対応できない

<情報・購入リンク>
通史編BOXセットは15冊で税込み17160円です。
内容紹介ページはこちら。→https://publications.asahi.com/original/shoseki/rekishi/tw/
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成美堂出版「マンガ日本の歴史」(2019年)

 成美堂出版から全8巻で出たこのシリーズ、これまでの歴史マンガとは明らかに一線を画しています。表紙を見ればお分かりかと思いますが、すべて「極端に今風の絵柄」になっているのです。

成美堂出版一覧

 試し読みのページを見てみますと…皇極天皇と蘇我入鹿がこういう絵柄で描かれています。強烈な衝撃を受ける方もいらっしゃるのでは? 髪型? 考証? 細かいことは気にするな、という感じでしょうか。またマンガ部分はオールカラーで、わかりやすくなっています。

成美堂中身1

 成美堂出版は、歴史人物をすべて今風の絵柄で示した「日本の歴史人物事典」などを出しています。マンガ好きな、オタク気質のある子どもに受けそうですね。その流れで歴史マンガも出したのだと思われます。

 ですからこのシリーズの最大の利点は、「今風の絵柄が好きな人」に強烈にアピールすることです。「古い絵柄は全然ダメ」という子にも向いていると思います。またマンガ自体の描写はあっさりしていますが、コラムなどで学習指導要領の内容はクリアしています。中学受験には対応できます。

 問題点1は、全8巻なので、内容がかなり圧縮されていることです。中学受験でも上位校は不足で、ほかのシリーズとの併用が必要となるでしょう。近現代が2巻しかなく(近現代の割合25%)、その点でも不安です。
 問題点2は、巻ごとの絵柄のばらつきが大きく、マンガとしてもこなれていない表現が多く見られることです。表紙の雰囲気は統一されていていいのですが…。

 今までの歴史マンガとはまったく雰囲気の違う、衝撃的なシリーズですが、私はこれはこれでアリだと思います。歴史マンガの役割は「歴史に親しむ」こと。その役目は十分に果たしていると思います。表紙だけ現代的な集英社、10年ほど前に活躍した作家を集めた講談社と違って、明らかに「新しい」絵柄を志向しています。また角川とは新しさのアプローチが違います。こうした「多様性」を求める動きは、応援したくなりますね。

 「こういう絵柄がすごく好き!」というお子さんには、非常に強く訴えると思います。一方内容的にはかなり薄口なので、上位校を目指すならほかのマンガとの併用も考える必要があります。お子さんに合わせて選ぶ必要があります。

利点と問題点
◎ 絵柄が新しい!
◎ オールカラー
○ 学ぶべき内容はクリアしている
× 分量が大幅に少ない
× 絵柄や内容にムラが多い

<情報・購入リンク>
8巻セット税込み8360円です。
セットの紹介ページはこちら。→http://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415327891/
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講談社「講談社の学習まんが 日本の歴史」(2020年)

 大手各社から新しい歴史マンガが出る中、満を持して講談社から刊行されたシリーズです。全20巻で、一番目の売りは「最新の研究に携わる若手研究者が監修」「最新の学習指導要領に対応し大学受験にも対応」です。中世の担当は、中公新書「応仁の乱」がヒットした呉座勇一。70年代~80年代生まれの、比較的若手の研究者が監修しています。
 二番目の売りは、週刊誌連載の経験がある作家が中心になっている点です。表は担当作家の一覧で、14人中10人が週刊誌連載の経験があります。「週刊少年マガジン」で活躍した作家が多いですね。「MMR」で一世を風靡した石垣ゆうきなど、懐かしい人も多いのではないでしょうか?

講談社作家

 利点その1は、情報の密度が高く、欄外までみっちり注やマメ知識が書き込まれている点です。情報の密度は小学館を超えています。マンガのコマ内の情報だけだと中学受験プラスアルファ、欄外の情報を合わせると大学受験レベル、という構成になっています。小学館、角川を強く意識した内容ですね。近現代が6巻あり(近現代の割合30%)、比較的充実しているのもポイントです。本の大きさは角川と同じであるため、ちょっと詰め込みすぎに見えるのは間違いありませんが、お得ではあります。

講談社内容見本

 利点その2は、最新の研究を踏まえた記述になっている点です。例えば倶利伽羅峠の戦いでは、火牛の計(牛の角にたいまつをつけて崖を下る)は描かれていません。長篠の戦いでは、マンガでは三段撃ちが描かれていますが、「信憑性が薄い」と注記されています。関ヶ原の戦いは、「小早川秀秋に家康が問い鉄砲を撃ったのは疑問」「満を持しての戦いではなく、すぐ決着がついた説がある」と説明されています。図は桶狭間の戦いですが、最新の学説が書かれています。ここ10年ほどで、日本の歴史は多くの発見と研究によって書き換わっていますが、それが反映されているのです。これは大きな利点です。

講談社桶狭間

 利点その3は、マンガとしての完成度が高く、面白い巻が多い点です。どの作家も実績がありますが、1巻の寺沢大介、10巻の石垣ゆうき、13巻の能田達規は特に面白いですね。ベテランを揃えただけのことはあります。

 一方問題点もあります。問題点1は、大学受験を意識した結果、中学受験のバランスとは異なってしまっている点です。例えば平安時代が2巻半ほどありますが、これは中学受験では多過ぎです。中学受験だけを考えた場合、情報を取捨選択する必要があります。
 問題点2は、10~20年前にマガジンで活躍した作家が中心のため、今の基準ではちょっと絵が古く感じられる点です。深刻な問題ではありませんが、「鬼滅」とか「呪術廻戦」とかに親しんでいるお子さんには、ちょっと合わないかもしれません。
 そして問題点とはいえませんが、考えるべき点があります。中世の監修を担当した呉座勇一氏をどう見るかです。彼はTwitterの鍵アカウントで、女性研究者を中傷・誹謗する発言を繰り返していました。また従軍慰安婦は性暴力ではなかったという立場の論者を肯定的にとらえていました。「応仁の乱」で、歴史学者として一躍脚光を浴びた人ですが、その言動には大きな問題があったのです(謝罪はしましたが)。もちろん彼の人柄と、研究業績は別という見方もあります。一方で人柄と業績は切り離せないと考える人もいます。このシリーズではきちんとした仕事をしていると思いますが、買う際には考慮すべき事柄だと思います。

 まとめてみると、先行する小学館と角川を強く意識し、両者を超えようとしているのは明らかです。小学館はいよいよ役目を終えたか、と感じます(おそらく新装版を考えていると思いますが)。大学受験にも本気で対応しようとしています。中学受験だけでなく、大学受験まで考えると、講談社が第一選択になると思います。
 一方、中学受験だけを考えると分量が多すぎますし、絵柄が合わないお子さんもいるかもしれません。中身をお子さんがよく確かめてから、選ぶと良いでしょう。

◎ 内容は非常に高度。大学受験にも対応。
◎ 最新の研究を反映している
○ マンガとしての完成度が高い巻が多い
△ 細かすぎ、中学受験とバランスが合わない
△ 歴史が苦手な子の入門には向かない
△ 今一つ絵が古い。絵柄は角川の方が現代的。
? 中世担当の呉座勇一氏の言動をどう考えるか。

<情報・購入リンク>
全20巻税込み18700円です。
内容紹介と試し読みはこちら。→http://rekishimanga.jp/
Amazonでの購入はこちら。→https://amzn.to/39RSulC
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学研「DVD付き NEW日本の歴史」(2021年)

 2012年に刊行された歴史マンガのシリーズに、その巻の内容を説明するDVDが追加されたものです。
 2012年に刊行されたときは、歴史マンガを現代風の絵柄で描き、しかもオールカラーということで、大きな話題を呼んだものです。結果的にこの学研版から、各社の歴史マンガのリニューアルが始まりました。その意味で、歴史マンガに大きな転機をもたらしたシリーズといえます。全12巻+別巻2巻(現在売られているセットには別巻が付属しません)。巻末には動画へのリンクとパスワードがあり、DVDの再生装置を持っていない人も動画を見ることができます(DVDより内容は少ないそうです)。なお、マンガの内容は2012年版と同じです。
 内容は、人物に焦点を当てているため(例えば第11巻は平塚らいてうと昭和天皇)簡潔で読みやすく、入門に向いています。
 マンガの作者はそれほど名前が知られていない人が多いですが、同人誌や商業誌で実力が知られていた人たちです。作家の一覧と代表作をまとめたのが次の表です。

学研作家

 最大の利点は、DVDが付属することです。DVDは、①その節のマンガに動きと声をつけたもの、②オリジナルキャラのハニックとドギーが、その時代のことを調べる、③その節に関連するNHKの映像を紹介、の3つの要素から成り立っています。これがまあ出来がいいんです。例えばハニックとドギーが吉野ヶ里遺跡を訪れるシーンがあるのですが、吉野ヶ里の柵の高さ、堀の深さが実写映像で出て来るのです。「これでは攻めるのが大変だっただろう」と、一目で分かるのですね。これは他社にはない、超絶大きなアドバンテージです。

吉野ヶ里

(柵からちょっと頭が出てるのがハニックとドギー) 
 今どきSD画質の映像があったり、CG草創期の映像があったりもしますが、「動きがある」「音がある」だけで、伝わる内容がはるかに多いのです。これでお値段据え置きなのですから、お買い得感はきわめて高いです。

 ただ、以前から引き継いだ問題点もあります。問題点1は、分量が少なめいう点です。欄外にぎっちり書き込みがあり、巻数の少なさをカバーしていますが、講談社や小学館にはやはり劣ります。中学受験には十分対応できますが、大学受験はちょっと厳しいと思います。
 問題点2は、近現代が少なく、特に太平洋戦争と戦後が一冊にまとまっている点(近現代の割合25%)です。他社に比べると、この時期はかなり駆け足なのですね。この部分は他社のマンガを併用する必要がありそうです。
 問題点3は、巻ごとの絵柄のばらつきが大きく、巻によって好き嫌いが出る可能性があることです。

 DVDが付属することで、お買い得ランク&オススメランクが一気に急上昇しました。やはり映像の説得力は圧倒的です。歴史が苦手な人の入門にも向いていると思います。

利点と問題点
◎◎ DVDが超強力。わかりやすく歴史を理解できる。
○ すっきりして読みやすい。オールカラー
△ 巻ごとの絵柄のばらつきが大きく好き嫌いが出やすい
× 戦中・戦後史が少ない

<情報・購入リンク>
12巻セットで税込み13200円です。DVDが付属しない前のバージョンもあるので、そちらを買わないように注意する必要があります。14巻セットにはDVDが付属しません。
内容紹介と試し読みはこちら。→https://manga.gakken.jp/
Amazonでの購入はこちら。→https://amzn.to/3t1GYLR
楽天での購入はこちら。→https://a.r10.to/hwrz3E

オススメできない歴史マンガ

一方、オススメできない歴史マンガのシリーズもあります。
・名探偵コナン、ドラえもんなど、アニメやマンガのキャラを使った歴史マンガ
 こうした歴史マンガはオススメしません。ストーリーの進行が既存のキャラクターに引き寄せられ、中立的な描写になりにくいからです。その作品が好きな人には、歴史を学ぶ入口として良いと思います。
名探偵コナンのセットはこちら→https://amzn.to/3rXIH3B

・集英社 まんが版 日本の歴史 全10巻セット (集英社文庫)
 今の版が出る前の集英社の歴史マンガです。新しいものが続々出ていますので、中古で安くなっていても、買う必要はないと思います。

・石ノ森章太郎 マンガ日本の歴史 新装版(中公文庫)
 2021年に新装版が出ましたが、これは明確にオススメしません。そもそも大人向けで、中学受験にしては細かすぎます。前半は石ノ森が描いていますが、晩年で線が荒れており、キャラクターの見分けがつきにくいです。後半はシュガー佐藤が代筆しています。そもそも述べられている説が古すぎます。大人が読むには良いですが、中学受験生向けに買うべきではありません。
1巻はこちら→https://amzn.to/3cYAojT

おわりに

 まずは各社の比較を見てみましょう。

各社比較

 2021年になって、小学館と角川が覇権を握っていた歴史マンガ界に、大きな変化が起こりました! 小学館の古さが目立つようになってきた中、講談社が量と新しさで正面から勝負を仕掛けてきました。また学研は「映像で学ぶ」という新しいコンセプトを提唱し、おそろしく理解しやすいDVDをつけてきました。細かさと新しさの講談社、読みやすさと近現代の角川、映像の学研が3強という状況です。他社がすごいシリーズを出すか、小学館が新しいシリーズを出せば状況は変わるでしょうが、ここ数年は大きな変化は起こらないと思います。
 判断基準は、予算、大学受験に使うか否か、収納スペース、そしてお子さんが気に入るか否か、です。もっとも重要なのが「気に入るか否か」です。とにかくお子さんが気に入って、積極的に読むものを選ぶべきです。ここであまりオススメしていないシリーズも、お子さんが気に入るようなら、買うべきだと思います。どのシリーズも、中学受験にはおおむね対応できますから。

 歴史マンガは、セットで買うと結構大きな買い物になりますが、1セット持っておくと、いろいろ役立ちます(大人が読んでも楽しいですよ!)。皆さんの判断の一助になれば幸いです。
(有益な情報だと思ったら、投げ銭をお願いします!)

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