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【Phidias Trio vol.8 “Journey, Wander…”】作品紹介: ガリーナ・ウストヴォリスカヤ 《三重奏曲》

2023年7月1日に、Phidias Trio の第8回目の定期公演が行われます。
今回Phidias Trioは、ロシアの作曲家ガリーナ・ウストヴォリスカヤ、デンマークの作曲家ペア・ノアゴー、そして黒田崇宏さんの委嘱新作のプログラムを演奏します。

公演に向けて演奏作品について紹介をさせていただきます。今回はガリーナ・ウストヴォリスカヤの 《三重奏曲》についてです。

 ガリーナ・ウストヴォリスカヤは1919年、ペトログラード(現サンクトペテルブルクに生まれました。1939年よりレニングラード音楽院にて、D.ショスタコーヴィチに師事しています。
 ショスタコーヴィチはウストヴォリスカヤの才能を非常に高く評価しており、「君の天才ぶりにくらべれば、ぼくなどたんなる才人にすぎない」(※)とウストヴォリスカヤに対して発言していたといいます 。また、今回演奏する《三重奏曲》の終楽章の第2主題を、ショスタコーヴィチは複数の作品に引用しています。(余談になりますが、この二人は一時期恋愛関係でもありました。)

 ウストヴォリスカヤはきわめて寡作でした。その作品の大部分はピアノ曲と、ピアノを含む楽器編成の室内楽であり、その編成はきわめてユニークなものが多く見られます。
 初期の代表作である《八重奏曲》(1950)は、すでにオーボエ2本、ヴァイオリン4本、ティンパニ、ピアノという変則的な編成であり、また1970〜80年代に書かれたコンポジション第1-3番や交響曲2-5番もエキセントリックな編成の作品が続いています。例えばコンポジション第2番は、コントラバス8本とピアノ、木の箱(43cm×43cm)という極端さで、交響曲第4番は、交響曲と名付けられているにも関わらず、コントラアルト独唱、ピアノ、トランペット、タムタムという、たった4人の奏者による作品となっています。

 ウストヴォリスカヤの音楽には、どの作品にも一聴して分かるような強靭な彼女の個性があります。彼女の多くの作品に見られる具体的な特徴としては、
・同一モチーフ、もしくは同一音の執拗な反復
・四分音符の連続(これも執拗にテヌートやアクセント、スフォルツァンドが全ての音についている)
・トーン・クラスターの多用
などを挙げることができます。

 今回演奏する《三重奏曲》は彼女の創作初期にあたる1949年の作品ですが、既にその個性は確立されつつあり、先に挙げた1・2番目の特徴ははっきり見られます。また、クラスターはないものの、半音が強烈にぶつかり合う響きは随所に聴かれ、緊張感の高い音楽となっています。
 クラリネット、ヴァイオリン、ピアノの3人はそれぞれ独立した役割を持ち、衝突し、拮抗し続けます。決して調和することはなく、共に一つのゴールに到達することもありません。3つの楽器の独特な関係性は、何かを暗示するかのようであり、曲は謎めいた余韻を残して幕を閉じます。
(Phidias Trio)

※ソフィヤ・ヘーントワ著『驚くべきショスタコーヴィチ』より


公演詳細

https://phidias-vol8.peatix.com/

Phidias Trio vol.8 “Journey, Wander…”

2023年7月1日(土)
15:00開演(14:30開場)
KMアートホール (渋谷区幡ヶ谷1-23-20 京王新線幡ヶ谷駅より徒歩6分)
一般3,000円 / 学生2,000円

プログラム
ペア・ノアゴー:
Grooving for Piano (1967-68)
Within the Fairy Ring - and Outside for Clarinet (1999)
Libro per Nobuko - Sonata « The Secret Melody » for Viola (1992)

ガリーナ・ウストヴォリスカヤ:
Trio for Clarinet, Violin and Piano (1949)

黒田崇宏:
journey, wander; haziness, fogginess for violin, bass clarinet and piano (2023 委嘱新作)


独自の音楽語法や哲学を追い求め、作曲家たちは終わりのない旅に出る。
北欧の先達や中央ヨーロッパの前衛の潮流を受け継ぎつつも、それを新たな技法や神秘的な世界観に昇華させたノアゴー。師ショスタコーヴィチの影響を打ち破り、強靭な個性をむき出しにするウストヴォリスカヤ。極端なまでの静謐な音響から、独特な時間感覚を編み出していく黒田崇宏。
書かれた時代も背景も異なる3人の音楽が、フィディアス・トリオの視点を通して交差する。

出演
Phidias Trio (フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン・ヴィオラ 松岡麻衣子
クラリネット 岩瀬龍太
ピアノ 川村恵里佳

2017年に結成。これまでの主催公演では、現代の優れたクラリネット三重奏の作品を取り上げるとともに、 オーストリア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、トルコ、韓国、日本の若手作曲家の新作を初演し、 好評を博す。また、ハニャン現代音楽祭(韓国・ソウル)や、日本作曲家協議会主催「日本の作曲 家2021」等、数々のプロジェクトに招聘されている。2021年12月に出演した日本現代音楽協会 主催「ペガサス・コンサート vol.3」の公演の模様は、NHK-FM「現代の音楽」にて、2週に渡って放送された。
https://phidias-trio.com


お問合せ
phidias.trio@gmail.com

主催:Phidias Trio



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