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【Phidias Trio vol.8 “Journey, Wander…”】作品紹介: 黒田崇宏 《journey, wander; haziness, fogginess》

2023年7月1日にPhidias Trio の定期公演が行われます。
今回Phidias Trioは、ロシアの作曲家ガリーナ・ウストヴォリスカヤ、デンマークの作曲家ペア・ノアゴー、そして黒田崇宏さんの委嘱新作のプログラムを演奏します。

公演に向けて演奏作品について紹介をさせていただきます。

黒田さんによるプログラムノートを引用します。

”journey, wander; haziness, fogginess for violin, bass clarinet and piano”

各楽器は異なる音の連なりを演奏します(但し、ピアノはブル・タックというもので事前にミュートされた音から成る声部の音の連なりと通常の音から成る声部の音のそれを二つ、時折三つを同時に演奏します)。この音の連なりは、一音一音がある音の範囲内において特に決まりなく置かれていくものあれば、音階として順番に置かれていくものもあります。後者は音同士の間隔が広がっていく、もしくは狭くなっていくという特徴を備えている場合がありますが、両者とも目立ったリズム的特徴はなく素朴です。また、各々同じテンポや拍子を共有していますが、異なる拍の分割をしているため、恰も異なるテンポや拍子で演奏しているかのようになっています。更に、一つの楽器内でも分割が異なる連なりが挿入されることや、並行することもあります。楽器同士の或る音が合ってしまう部分もあります。但し、聴覚的にはこうした仕組みは恐らく目立ちにくい部分が多いでしょう。加えて、用いた奏法故に、各楽器が出す音も響きとして、何か「綺麗に」/「上手に」混ざり合うことはないはずです。この音楽自体は大きな変化が無く、同じような景色が最初から最後まで続いていくという様相です。しかし、そうした音の移ろいにただ身を委ねる、或いは聴こえてくる音から何らかの音同士の関係性を発見する、他には一つ一つの音を耳や記憶に刻み込むように集中して聴いていく、等といった聴き方/体験をする音楽であると私は考えており、私自身はこの音楽をそのように聴く/体験します。

さて、ここで作品の具体的な内容(の一部分)から違う視点へと話を転換させてみようと思います。とはいえ、この作品と無関係な話ではありません。
おそらく多くの人は、人生は旅である、という文言を見聞きしたことがあるでしょう。旅といっても目的に沿って歩く時もあれば、目的無くふらふら歩いている/みる時もきっとあります。立ち止まることや引き返すこともあります。個々の人が生来持つ道/人生を、歩く/生きるペースは各々異なるはずであると私は考えます(例え何かを強制されている中であったとしても…)。その歩いて/生きていく途上で他者との関わりに曝されることは屡あります。関わりのなかった他者と偶然出会うこともあれば、関係が生まれ暫く同じ道を共に歩む/生きることもあります。勿論、すれ違うだけの場合もあり、別れることもあり、再び合流することもあります。一見関係の無い他者とも、見えないだけで実は隣を歩いていた、つまり何かしらの関りがあったということもあります。そうした他者を認識することや関りが生まれるような出来事の頻度は人によって疎らです。このような道の上に人は立たされてしまっていますが、その歩く道は霧や靄がかかって周りや遠くが見えにくいかもしれません。将来に何があるのか、予想は出来ても完璧に見通せるものではないからです。
ここまで、長い道のりを行く旅のことを書きましたが、短い、狭い範囲をぶらぶら歩く散歩も私は好きです。そういった一時も人生で大事だと考えます。

黒田崇宏 プロフィール
作曲家。第29回現音作曲新人賞(2012年)、第37回入野賞(2016年)等を受賞。Music From Japan Festival 2019招待作曲家(ニューヨーク市)。
Bio: https://www.takahirokuroda-composer.com/biography

この曲を初めて音を出した時に感じたことは"呼吸"でした。
独特の時間の流れの中で感じる"呼吸"は時には一緒になり、時には別々になります。そうしてクラリネット、ヴァイオリン、ピアノは別の人生を歩んでいます。

この曲はその人生の時間の一部を取り出したように感じます。(Phidias Trio)


公演詳細

Phidias Trio vol.8 “Journey, Wander…”

2023年7月1日(土)
15:00開演(14:30開場)
KMアートホール (渋谷区幡ヶ谷1-23-20 京王新線幡ヶ谷駅より徒歩6分)
一般3,000円 / 学生2,000円

プログラム
ペア・ノアゴー:
Grooving for Piano (1967-68)
Within the Fairy Ring - and Outside for Clarinet (1999)
Libro per Nobuko - Sonata « The Secret Melody » for Viola (1992)

ガリーナ・ウストヴォリスカヤ:
Trio for Clarinet, Violin and Piano (1949)

黒田崇宏:
journey, wander; haziness, fogginess for violin, bass clarinet and piano (2023 委嘱新作)


独自の音楽語法や哲学を追い求め、作曲家たちは終わりのない旅に出る。
北欧の先達や中央ヨーロッパの前衛の潮流を受け継ぎつつも、それを新たな技法や神秘的な世界観に昇華させたノアゴー。師ショスタコーヴィチの影響を打ち破り、強靭な個性をむき出しにするウストヴォリスカヤ。極端なまでの静謐な音響から、独特な時間感覚を編み出していく黒田崇宏。
書かれた時代も背景も異なる3人の音楽が、フィディアス・トリオの視点を通して交差する。

出演
Phidias Trio (フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン・ヴィオラ 松岡麻衣子
クラリネット 岩瀬龍太
ピアノ 川村恵里佳

2017年に結成。これまでの主催公演では、現代の優れたクラリネット三重奏の作品を取り上げるとともに、 オーストリア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、トルコ、韓国、日本の若手作曲家の新作を初演し、 好評を博す。また、ハニャン現代音楽祭(韓国・ソウル)や、日本作曲家協議会主催「日本の作曲 家2021」等、数々のプロジェクトに招聘されている。2021年12月に出演した日本現代音楽協会 主催「ペガサス・コンサート vol.3」の公演の模様は、NHK-FM「現代の音楽」にて、2週に渡って放送された。
https://phidias-trio.com


お問合せ
phidias.trio@gmail.com

主催:Phidias Trio



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