見出し画像

【Phidias Trio vol.7】曲目紹介: 牛島安希子《浮遊都市 I》

2022年11月12日のPhidias Trio 定期公演「Phidias Trio vol.7 "Live on…"」、いよいよ今週となりました!
7回目の定期公演となる今回は、今を生きる、日本人作曲家の作品を集めたプログラムです。今井智景、牛島安希子、北爪道夫、松平頼暁、森紀明、森田泰之進、渡辺俊哉各氏の楽曲を演奏します。チケットご予約も受付中です。(以下のリンクからご購入いただけます。)

公演に向けて、引き続きこのnoteでは演奏作品についての紹介をしています。
今回は牛島安希子さんに委嘱したクラリネット独奏のための新作、《浮遊都市 I 》です。
牛島さんによるプログラムノートを引用します。

この作品は一曲として成り立っているが、次章に続くものである。今回はタイトルの「浮遊都市 Ⅰ」は自分が育った新興住宅地を指している。私が育った住宅地は山を切り崩して造られた。そこに住んでいる人々は皆、別の土地から移り住んできている。住宅地ができてから30年ほどしか経っていないため、そこには古くから続いている歴史はない。街の中心地からは離れているが、山奥でもないという場所は、住みやすさと共に帰属意識の薄さのようなものを感じる。現代のコロナ禍以降の生活において、地理的な帰属意識に着目することがどこまでリアリティを持つのかという問いも生まれるが、幼少期にインターネットがなかった自分にとってはこの住宅地が故郷の一つと言える。美術家のさわひらきは新興住宅の構造における幻想と現実の差異に言及しているが、この帰属意識の薄さ、差異の移ろい、揺らぎが、この作品の背景となっている。

前半の4度跳躍が多く含まれる旋律は、春にロンドンで初演されたピアノとエレクトロニクスの作品「Materia」の中でも近い音型が使用されている。この音型はごく自然と自分の身体から生み出された感覚がある。後半のセクションにおいて、マルチフォニック、トレモロ奏法は最近のクラリネットの作品において、欠かせない要素となっている。ハーモニーを中心に曲を構成する自分にとって、管楽器ソロという編成はいつも挑戦だ。軽やかで透明な音楽が聴き手に伝われば幸いである。

牛島安希子

このプログラムノートを読む前、楽譜と向かい合っていた際に、蜃気楼に浮かぶ景色が浮かんできました。明確だった記憶が時間を経て曖昧になっていく過程を表現しているように感じました。
この曲を聴いていると、誰にでもある、忘れていきそうな自分の心の中の記憶に触れることができるのではないかと思います。

牛島安希子 プロフィール
作曲家。愛知県立芸術大学大学院音楽研究科作曲専攻修了。ハーグ王立音楽院作曲専攻修士課程修了。作品はノヴェンバーミュージックフェスティバル(オランダ)、アルスムジカ音楽祭(ベルギー)、Focus現代音楽祭(ニューヨーク)、マサチューセッツ現代美術館(アメリカ)でのコンサート、ボンクリ・フェスティバル(東京)他、イギリス、ドイツ、オーストリア、チリなどの音楽祭にてBang on a Can アンサンブルやアンサンブル・ノマドなどにより演奏されている。2022年、ミュージック・フロム・ジャパン委嘱作曲家。作品はイギリス、オランダ、日本のラジオで放送されている。第六回JFC作曲賞入選、Excellence Composition Competition (Expert Level) 2011、ICMC 2013,2014、MUSICA NOVA2014、CCMC2016で入選。日本著作権協会、先端芸術創作学会会員。名古屋芸術大学非常勤講師。

公演詳細
Phidias Trio vol.7 "Live on…"

2022年11月12日(土)
15:00開演(14:30開場)
KMアートホール (渋谷区幡ヶ谷1-23-20 京王新線幡ヶ谷駅より徒歩6分)

一般3,000円 / 学生2,000円(当日券は各500円増し)

プログラム
森田泰之進:Soaring in Circles (ReincarnatiOn Ring V-a) (2021) 舞台初演
牛島安希子:浮遊都市 I (2022・委嘱新作) 初演
松平頼暁:秋山邦晴のためのメモリアル (1997)
北爪道夫:トリプレッツ (1999)
渡辺俊哉:あわいの色彩 I (2017)
今井智景:Weaving (2018)
森紀明:Warum ist das Fragen sinnlos? (2018)
※プログラムが当初の予定より変更になりました。

演奏家の役割のひとつが、楽譜を手掛かりにさまざまな解釈を導き出すことだとすれば、作曲家との直接的なディスカッションは、極めて有意義なもの。演奏は常にアップデートされ、作品は生き続けていく。今回フィディアス・トリオがご紹介するのは、いずれも作曲家との濃密な共同作業を経た、7つの作品。今井智景、牛島安希子、北爪道夫、松平頼暁、森紀明、森田泰之進、渡辺俊哉ら、個性派揃いの作曲家達のユニークな楽曲を演奏する。いま聴きたい、そして後世に残していきたい音楽が体感できる、刺激的な二時間。

チケット購入
https://phidias-vol7.peatix.com/

お問合せ
phidias.trio@gmail.com

主催:Phidias Trio
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?