陰性時になんて説明する?   ~薬局における新型コロナウィルス抗原定性検査キット販売について~

薬局で購入した医療用抗原定性検査キットを使用して検査を行った場合、その結果をもとに何らかの判断を行うのは医師ではなく使用者。

その判断のための十分な情報を薬局で提供する必要がある。

テストラインが発現したら、陽性者に対応できる医療機関を受診(通常は受診の前に連絡が必要だと思います)するようにお願いする。(福岡ではまず受診・相談センターに連絡)

テストラインの表示がうっすらしか出ない場合もありうるが、これは上記と同様。

テストラインが出なかった場合、その後の行動にかかわる何らかの判断を使用者にしてもらうために薬局では以下の情報を購入者(使用者)に提供する。

〇新型コロナウィルス感染した際にもみられる典型的な症状がでている場合

→もし実際に新型コロナウィルスに感染しており、かつ典型的な症状がでているのであれば、鼻腔ぬぐい液にも新型コロナウィルスがある程度量存在していることが考えられます。したがって、典型的な症状が出ているにも関わらずテストラインが発現しなかったということは、陰性と判断するある程度の材料となります。医療機関を受診し、発現している今の症状が他の疾患によるものと判断されれば、新型コロナウィルス感染を否定するためのさらなる材料となります。ただし、他の疾患と新型コロナウィルス感染の併発の可能性もあります。また低いとはいえ偽陰性の可能性もあります。他の疾患であったとしてもその疾患そのものも感染性があると考えられます。今の症状にかかわる感染症を他の人にうつす可能性があることを考えて行動してください。

〇症状がない場合(無症状での検査は非推奨となっていますが、薬局で販売する以上、無症状で使われる可能性を考慮しておく必要があります。)

→症状が出ていない場合には、新型コロナウィルスに感染していたとしても鼻腔ぬぐい液には十分な量のウィルスが存在しないことが考えられます。そのため、この検査でテストラインが発現しなかったことをもって、新型コロナウィルス感染を否定するのはできません。ただし、そこそこの感度はあり、無症状者でかつ新型コロナウィルス感染者をこの検査で見つけられることも結構あるので、無症状時にこの検査を行うことにまったく意味がないわけではありません。


以下は考察のメモ

病院、診療所(以下病院)で行うインフルエンザの抗原定性検査(簡易検査)でも、テストラインが出なかった場合の説明に窮する場合があることが知られていた。

病院で簡易検査を行う場合、その結果は、医師が行う診断のための材料の一つであり、症状や環境など多くの材料の一つに過ぎない。

インフルエンザの簡易抗原検査は感度が低かったこともあり、テストラインが発現しない場合でも、症状や家族の感染状況からインフルエンザ陽性と診断すべきシーンが多々あった。その場合、簡易検査の結果を他の診断材料に比べて軽視することになる。となると、そもそも簡易検査が必要だったのか、ということになる。

病院でインフルエンザの簡易検査をする理由はいくつかある。一つは患者希望によるもの、これが結構多いと聞く。また、病院の方針として、それらしい症状があれば簡易検査を行うように決めているところもある。

インフルエンザ陽性となると、外出を避け、急変に注意しつつ休養してもらうのが基本となり、その他必要や希望に応じて抗ウィルス薬を処方ということになる。これが本人や周囲の人を守ることにつながる。

患者希望で簡易検査を行う場合、もとよりその結果を患者本人が重視していることとなるため、簡易検査の結果と異なる診断を医師がつけることに対して本人を納得させるのはなかなか骨が折れるところと思う。

病院の方針で簡易検査を行う場合も、結果を医師が重視しない検査をなぜ行ったのか、患者に説明するのは難儀だと思う。

そのような背景もあって、簡易検査は、その他の材料からインフルエンザ陽性と考えられる場合に、抗ウィルス薬を処方するかどうかを判定するためだけに使う、という方針をとっているところもある。

かように感度の低い検査の結果は取り扱いが難しい。他の診断材料と合わせて考慮すべきものであり、その比重は高いものではない。(最近はインフルエンザの簡易検査の感度も上がってきており、その結果の重みは増してきているようではあります。)

一方薬局で販売した新型コロナウィルス抗原定性検査キットを使用した状況においては、医師が病院で簡易検査結果や他の情報も含めて診断を下す場合と比べて、検査結果が判断に与える影響は大きい。

つまり新型コロナウィルス抗原定性検査キットを自己使用してテストラインが発現しなかった場合には、新型コロナウィルスに感染していないと自己判断してしまう可能性が高い。

とはいえ、そこそこの感度もあり、擬陽性(検査結果で陰性だが、実際には新型コロナウィルスに感染している状態)が生じる可能性が高くないことを考えると、そのリスクは社会的に許容しうるというのが、今回の特例販売の背景にあるのだと思う。つまり、建付けとして、「抗原定性検査で反応がなかったとしても、実際に陰性であるとは安易に判断しないでください」となっており、そこは我々薬剤師が守っていく必要があるが、社会的には、「一応自己検査はして陰性でした、まずは一安心です」くらいな感じで受け入れられるのかもしれない。

また、今回の特例的な販売が、経団連からの要望で認められたことは興味深い。医師会や薬剤師会をはるかに凌駕する政治力を持つ印象のある経団連が規制改革推進会議経由で厚労省に影響を与えた事例であり、チェーン薬局を運営する企業が経団連に加わっていることを考えると今後薬局を取り巻く状況は大きく変わっていくのかもしれない。




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