胚盤胞期のヒト胚には染色体異常は多発している

論文

Chavli EA et al. Single-cell DNA sequencing reveals a high incidence of chromosomal abnormalities in human blastocysts. J Clin Invest. 2024 Jan 4:e174483.

要旨

染色体異常はヒト胚に一般的に見られ現象で、染色体異常を持つ胚の移植は、着床失敗や流産の主要な原因になります。本研究では、55個の胚盤胞から1057個の細胞を分離し、シングルセルDNAシーケンス(scDNAseq: Single Cell DNA Sequencing)により染色体コピー数解析を行いました。その結果、82%の胚でモザイク染色体異常が検出されました。ほとんどの染色体異常は20%未満のモザイク率でした。この発見は、PGT-Aでは正常胚として同定されるような良質の胚盤胞においてもモザイク状態が普遍的であることを示しました。

方法

55個の胚のうち、52個の胚はTE(栄養外胚葉: Trophectoderm)とICM(内部細胞塊: Inner Cell Mass)を分けることに成功しました。そのうち41個の胚では、TEとICMで少なくとも1個の染色体コピー数解析結果が得られました。11個の胚はて、TE(N=9)もしくはICM(N=2)からのみ染色体コピー数解析結果が得られました。3つの胚は生検することができず、胚全体の解析を行いました。合計で2322個の細胞のうち1057個(45%)が解析に成功し、そのうち535個に染色体異常が認めました。

結果

55個の胚のうち、11%は染色体正常な細胞のみを含み、7%は減数分裂由来であることを示すフルの染色体異常を有していました。モザイク染色体異常は82%の胚で観察されました。モザイク染色体異常の内訳は染色体正常と異数体モザイクの胚(58%)と異なる2種類以上の異数体モザイクの胚(24%)(受精後の最初の体細胞分裂でトリソミーとモノソミーの細胞に分裂したような症例)が含まれていました。染色体正常と異数体モザイクの胚のモザイク率の平均は40%でした。またモザイク胚のうち、1種類の染色体異常のみが観察されたのが、31%、2種類の染色体異常が観察されたのが24%、3種類の染色体異常が観察されたのが16%、4種類の染色体異常が観察されたのが29%でした。

染色体異常を持つ細胞がTEまたはICMのいずれかに優先的に割り振られているという証拠は見つかりませんでした。TEとICMの両方から染色体解析の結果が得られたモザイク胚(N=35)において、TEまたはICMのいずれかに限局された体細胞分裂異常について調べました。モザイク胚の46%(N=16/35)では、2つのTEとICMの系統間で共有する染色体異常は見つかりませんでした。このことは、体細胞分裂エラーは胚の系統がICMやTEに分化された後に起こった可能性が高いことを示しています。一方でモザイク胚の54%(N=19/35)では、ICMとTEで同じ染色体異常を共有しており、この体細胞分裂エラーはICMやTEに分化される前に起こったことを示しています。

染色体異常の異数体と構造異常を比較しますと、減数分裂由来の異数体と体細胞分裂由来のモザイク異数体は、それぞれ同程度ほど確認しました(全ての染色体異常の30-40%程度)。またモザイク構造異常も30%程とモザイク異数体と同程度に見られました。一方で減数分裂由来の構造異常は全く観察されませんでした。

まとめ

本研究では、品質の良い胚盤胞においてさえもモザイク染色体異常が一般的であることを示しており、モザイク異常の存在はPGT-Aにおいて過小評価されている可能性があります。PGT-Aで検査された胚に染色体異常を持つ細胞の低い割合を持つモザイク胚は、染色体正常胚と示されています。しかしながら、PGT-Aで染色体正常と判断された胚がすべて出産に至るわけではなく、モザイク異常の胚が妊娠につながった報告もあります。TE生検によるPGT-Aの結果は胚の核型を代表していない可能性があり、PGT-Aした胚の移植後の予期せぬ臨床結果の説明となる場合があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?