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No.122 1992年~2012年 外国のNIEから学ぶ旅

 NIE(Newspaper in Education)は国際的な教育運動です。1930年代、アメリカ合衆国のニューヨーク・タイムスが始めたという説もありますが、一般的には、文字離れを深刻に考えたアイオワ州のデモイン・レジスター紙と米国教育協会とが、1955年に共同で始めたとされています。私は1954年生まれですので、NIEの始まりと私の人生がほぼ重なることになります。1997年の世界新聞協会の「第4回世界NIE調査」によると、35ヶ国でNIEが行われていました。2001年の世界新聞協会の「第5回NIE調査」では17ヶ国増えて、52カ国でNIEが行われていました。2006年の「第6回NIE調査」では64カ国に増えました。 そして、2011年NIE実施国は74カ国になりました。しかし、この数年のインターネットの教育活用、活字離れ・新聞離れで実施国は減っている可能性もあります。
 日本でも新聞を授業で活用してきた歴史はもちろんあります。私が中学や高校の時社会科の授業ではよく使われてきましたが、多くは新聞の切り抜きを教師が提示するというような形態であったように思います。諸外国のNIEの特徴は新聞の切り抜きを使うのではなく新聞を丸ごと活用することが一般的です。そのような意味でNIEを位置付けるのならば、日本のNIEの始まりは、1985年10月静岡市で開催された日本新聞協会新聞大会で新聞界がNIEを提唱したことです。
 日本新聞協会が『ご存じですか NIE NEWSPAPER IN EUCATION』を1987年に発行し、それが学校に配布され私が読んだ時に、外国のNIE授業を見てみたいという考えが漠然と浮かびました。その後、日本新聞協会や新聞各社のNIE担当者と交流する中で、1990年にニューヨークで「国際NIEの日」が開催されたことを新聞で読み、ぜひ見てみたいという思いに駆られ、1992年5月「NIE国際大会」「米国NIE大会」小学校と高校のNIE授業視察の機会に巡り合いました。その後1997年までは欧米・オーストラリアの視察が、1996年から2012年までは韓国のNIE視察の機会を得ることができました。1992年から2012年まで21年間海外NIE視察の経験を積むことができました。
 多くの外国への視察を許可して頂いた聖心女子学院に感謝申し上げます。

 私の外国NIE視察の経緯は以下です。
1992年5月 アメリカ視察
国際NIE大会 サンフランシスコ  
アメリカNIE大会 サンフランシスコ  
学校 ロサンゼルス 私立パインクレスト小学校 
   メンフィス 公立ウッディール高校 
新聞 ロサンゼルス デイリー・ニューズ 
   ヒューストン ヒューストン・クロニカル 
   メンフィス コマーシャル・アピール

ロサンゼルスの小学校
メンフィスの高校

1992年8月 オーストラリア視察(環境教育視察が目的でしたが視察した学校ではどこでもNIE的な手法が行われていました)
学校 ブリスベン 公立ミルパラスクール(移民子弟の学校)
   シドニー 私立インターナショナルグラマースクール(高校)
   シドニー 公立マンリーベイル小学校 

シドニーの小学校

1995年3月 アメリカ視察
学校 サンディエゴ 公立ルイス中学校 
   サンフランシスコ 私立プレシディオ・ヒル小学校 
   サンフランシスコ 公立マリーナ中学校 
   シアトル 公立オリンピック・ヒルズ小学校 

シアトルの小学校
サンフランシスコの小学校

1995年9月 スウェーデン、ノルウェー、イギリス視察
国際NIE大会 ストックホルム                  
学校 ストックホルム 公立ヘルスコーラン小学校 
   オスロ 公立カンペン中学校 
   公立ハイネンホール中学校 
   バーミンガム 公立ボルドメーア幼児学校(幼稚園~小学校低学年)


ストックホルムの小学校
オスロの中学校
バーミンガムの幼児学校

家庭 ストックホルム ブロブルスキーさん      
           アウエルバックさん 

ストックホルムの家庭

新聞 オスロ ベルデンス・ガング メディアセンター 
   オスロ ノルウェー新聞協会 
   バーミンガム ポスト&メール 
   ロンドン イギリス地方新聞協会 

1996年11月 韓国視察
学校 高陽(ゴヤン) 公立城底(ソンチョ)初等学校
新聞 ソウル 中央日報 
 ソウル 韓国言論研究院

高陽(ゴヤン)の小学校

1997年3月 アメリカ視察
学校 フィラデルフィア 公立フレッチャー中学校
   ニューヨーク 公立スミスタウン中学校
新聞 ワシントン ワシントン・ポスト
   ワシントン アメリカ新聞協会
   フィラデルフィア フィラデルフィア・インクワイアラー
   ニューヨーク ニューズデー

フィラデルフィアの高校
ニューヨークの中学校

1999年3月 韓国視察
学校 ソウル 公立広壮(ガンジャン)初等学校
2000年3月 韓国視察
学校 ソウル 私立金星(クンセイ)初等学校
   高陽(ゴヤン)公立知道(チード)初等学校   
   仁川(インチョン)公立西串(ソーコット)中学校
家庭 城南(ソンナム)鄭(チョン)さん 
2001年3月 韓国視察
学校 ソウル 公立九宣(クーダン)初等学校
   高陽(ゴヤン)公立白馬(ペンマ)中学校
家庭 高陽(ゴヤン)李(イ)さん
2002年6月 韓国視察(日韓ワールドカップ)
学校 坡州(パジュ)公立汶山(ムンサン)初等学校 私が授業をしました。
図書館 ソウル 陽川(ヤンチョン)図書館
2003年9月 韓国視察
学校 高陽(ゴヤン)公立松浦(ソンポ)初等学校
家庭 ソウル 南(ナム)さん
図書館 ソウル 陽川(ヤンチョン)図書館
2004年3月 韓国視察
学校 ソウル 私立景城(キョンソン)高等学校
家庭 ソウル 琴(クン)さん
図書館 ソウル 陽川(ヤンチョン)図書館
2006年9月 韓国視察
学校 ソウル 私立大光(デークァン)初等学校
家庭 ソウル 崔(チェ)さん
   ソウル 丁(チョン)さん
図書館 ソウル 陽川(ヤンチョン)図書館
2007年3月 韓国視察
学校 ソウル 私立明知(ミョンジ)外国語高等学校
家庭 金(キム)さん
図書館 ソウル 子ども図書館
2011年11月 韓国視察
学校 金浦(キンポ)公立月串(ワルゴッ)初等学校 私が授業をしました。 
図書館 ソウル 陽川(ヤンチョン)図書館 
2012年10月 韓国視察
学校 金浦(キンポ)公立月串(ワルゴッ)初等学校 私が授業をしました。
家庭 朱(ジュ)さん

 アメリカ合衆国視察が3回、オーストラリア視察が1回、スウェーデン視察が1回、ノルウェー視察が1回、イギリス視察が1回、韓国視察が11回(視察順)になります。
 欧米、オーストラリア、韓国のNIE視察を通してどんなことを学べたでしょうか。以下箇条書きにして述べます。
① 教室の雰囲気が教師と子どもたちのやり取り、掲示物も含めてとにかく明るいことです。楽しみながら学習している様子がどこでも見られました。
② 教師のプレゼンテーション能力がとても高いことがどこでも見られました。
③ 新聞を丸ごと活用し、新聞の読み方をしっかり学んでいました。
④ 新聞を読むだけでなくその後研究に発展させている方法がよくとられていました。
⑤ 学校に限定せず、家庭や図書館などの地域社会でも取り組まれていました。
 
 ソウルでの図書館や家庭での取り組みをご紹介致します。
 2003年9月、ソウルの陽川(ヤンチョン)図書館、ソウルの南回貞(ナン・ヘジョン)さんの家庭、ソウル近郊高陽(コヤン)の松浦(ソンポ)初等学校を訪ねました。6回目の韓国とのNIE交流です。陽川図書館では、2000年2月から母親、子どものNIE講座に取り組んでいます。1期5か月の講座で毎週1回行い、講座が終了すると親子で取り組んだ新聞を活用しての作品展覧会を開きます。2002年6月に訪問したときのテーマは「韓日ワールドカップ」、今回は「環境」でした。多様な表現でのプレゼンテーションが見られました。母親や子どもを指導している金英花(キム・ヨンファ)さんは、「親はやり方が分かれば家庭で取り組む。家族で記事を探していくとお互いの考えが分かるようになる」と語っていました。南回貞さんと小学校5年生の息子さん、2年生の娘さんのファミリーフォーカスを見ました。その日の一般紙朝刊を使って家族でのNIEです。(1)それぞれ関心のある記事を探す(2)声に出して記事を読む(3)分からない言葉を辞書などで調べる(4)キーワードにしるしをつける(5)分かったこと、自分の考えを書く。体系的な方法が展開されています。父親の姜正琪(カン・ジョンギ)さんも新聞記事の見出しや内容、データをもとに「すごろく」を作成したり、韓国の歴史を年表に整理したりして、子どもがニュースに関心を持ち新聞を読むことにつなげています。南さんは「親子でのコミュニケーションがとれ、新聞に載っていた場所や博物館など一緒に行くようになった」と話していました。

 私の最初の韓国NIE訪問は1996年でしたが、その時から学校・家庭・社会教育の生涯学習としてNIEを捉えていました。日本のNIEは欧米とともに、韓国から多くのことを学べるのです。

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