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『 LIFE GOES ON 』

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鬱を体験した7年間の記録。今は元気です。
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青春

青春

駅に着いたら寂れた飲食店街を抜けていく。約束の時間にはぎりぎりだ。

参考書とノートPCがパンパンに入ったトートバックの紐はもうとっくに限界を迎えているけれど、今の私みたいだなと思ってからはそのままにしている。

そこだけ光が差し込む時計広場に着いたら、友人が手を振っていた。

「久しぶり!」

「ごめん、今日は私が遅れました・・・。」

「いえいえ。」

発達障害とか、その“け”があるとかなんと

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対話

対話

実家での暮らしは3年ぶりくらいになる。

立地を優先して建てられた細長い狭い家に、姉妹それぞれの部屋などない。部屋のほとんどを埋め尽くす大きな二段ベッドに舞い戻ってきた私は、我が物顔で寝転がった。

「調子はどう?」

下の段に寝ている妹に問いかけてみる

「悪くないよ」

「そっか。ねーちゃん、あんたに色々聞きたいことあるよ」

「うん」

何かを悟ったような返事。姿は見えないけれど、毛布をぎゅ

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退去

退去

妹のあんな姿を見たからか、私は自分自身の不調のことをすっかり忘れて過ごしていた。

今日は、2年半住んだ家を退去する日。

先のことは何も分からないので、ベッドもデスクもソファも捨てた。

そう言えば一人暮らしを始めた時も、勝手に家を決め、引越し業者さえ使わず、家電はレンタルして身一つでやってきたんだ。

やっぱり私の原動力ってADHDの衝動性だったのかな。

古い学生マンションでは、部屋の隅から

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決断

決断

病院に来てから、何分経過しただろうか。

真っ暗で広い総合受付。
私たちだけが、今夜の主役であるかのように照らされている。

妹は車椅子に乗せられ、膝にぬいぐるみを乗せたまま運ばれていった。その姿はまるで小学生のようで。つい最近振袖を着たとは思えない。

自販機から戻った彼氏に、グレープフルーツの果汁が入ったジュースを手渡される。あまりジュースは好まないが、これだけは売っていたら手に取る思い出の味

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尊重

尊重

父親のことに思いを馳せていたからか、実家から着信が入る。

「そちらは体調どう?こっち今ちょっと、大変で」

母親の声は、明らかに焦っている。

すぐに思い浮かんだのはやせ細った妹の姿。

「私は大丈夫。ねーちゃんになら色々話せるかもしれないし、声掛けてみるね」

私も全然大丈夫ではないが、そのまま電話をきった。

妹はご飯を食べない。

少食だとかそういうレベルではなくて、鳥の餌のような鶏肉と葉

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将来

将来

おかげさまで、眠れてはいる。眠剤はむしろ、効きすぎている。

毎日12時間は眠ってしまい、起きた後もほとんど床と同化していなければならない。次の受診まで、まだ数週間ある。とにかく体が重いが耐えるしかない。

そんな私にできることといえば、寝っ転がってYouTubeを見ることくらいだ。この世のほとんどのジャンルを網羅しているのではないか?などと宣いながら石鹸をカッターで粉々にするだけの動画を見ていた

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告白

告白

20年、生きた。必死だった。

通知表が全て"よくできました"の子供だったもの。

義務教育なんてほぼ皆勤賞だったし、部活も勉強も真面目にやった。塾と進研ゼミも掛け持ちしてさ。習い事も7〜8年続けたものばかり。

だけどどれも身にならなかった。

家では手がかかるから、いつも暴力を振るわれていた。

なんだかそのカラクリを知ってしまったよなあ。

周りがスッとできることも、その何倍も何倍も努力して

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癇癪

癇癪

精神科で渡された冊子の中身はこうだ。

多動性、衝動性、不注意などのADHD症状。自分の注意や行動をコントロールする脳の動き(実行機能)の偏りが関係していると考えられるが、詳しい原因はあまりわかっていない。

自閉症スペクトラム症。社会的コミュニケーションや対人関係の問題、強すぎるこだわりなどの症状がある。

限局性学習症。知能に問題がなく、目も見え、耳も聞こえているのに読み書き計算という学習機能

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結果

結果

10月18日に発達検査を受けた結果が11月1日には聞けることになった。

またあの綺麗なお姉さんに会うんだよな。専ら美女好きの私は、本来の目的からは遠いことしか考えられないでいた。

だって、自分が「そう」であるということに興味が持てない。今まで20年間自分のことを「普通だなあ〜」とか認定して生きてきたわけではないのに、カテゴライズされた瞬間から「普通」とか「障害者」とか色々に対する疑問が湧いてく

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身震

身震

しばらくして、久しぶりに友人に連絡をした。

唯一、心身の不調について話が出来そうな大学の同級生。彼女が精神科に通院していることを知っていた。

「久しぶり。元気にしてる?卒論全然進んでないんだけど、精神科に行かなくてはならなくなったてそれどころじゃないかも。」

陽気な彼女。あまり重い雰囲気にならないよう心がける。

「ひさしぶり。私が行ってる病院で良かったら、紹介するよ。待ち時間は長いけど、良

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真実

真実

目が覚めると夕日が差している。毎日こんな景色から一日が始まる。

起きたらすぐにYouTubeを開く。
同い年くらいの男の子たちが、私と同じようなワンルームで無茶な遊びをしている動画を見た。

こんなの、まともな大人が見ていたら叱るだろう。それでも布団に根を生やしている私よりはずっと立派だ。そして幸せそうだ。

キッチンまで、少し残っているはずのチョコビスケットをとりに行く。「さくさくぱんだ」だ。

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疑念

疑念

寝つきの悪い子供だったとは聞いていた。あまりに寝ないので、怒った母親は「朝まで起きていなさい」と叱ったそうだ。それで、本当に正座をして朝まで起きていたという。

気づけば3日くらい寝ていない。流石にまずい。人間はやめたくない。

スマホで情けない検索をかけてみる。
「不眠 どうする」

当たり前だが、目に入ってくるのは病院の文字。
とりあえず一番近い病院に行くしかない。

精神科ってなんだよ、私は

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予感

予感

1Kで暮らす大学生。

ある日突然起き上がることができなくなった。

別に毎日朝が来るのを楽しみにしてたわけでもないけど、そういうのじゃなくて。
どうやって抜け出すっけ布団って、的な感覚で。

その日からか?
世界が眩しくて、他人が発光して見えたりしたのは。

なんで生きてるんだろうとか、なんかあっちこっち痛い気がするとか、そんなことを考えてた頃にはもう鬱になっていたのだろうか。

最悪だ。今日も

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