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【連載小説】「心の雛」第十一話

【感謝の気持ち】
連載小説「心の雛」も全20話のうち早半分が終わりました。
続けてみて思うこと。優しいnoterさまに支えられて公開しているのだと切に思います。
毎回コメントをいただいて、誤字も指摘していただき(なかなかできないことです)、スキもいただけて。読者がいることがこれほど嬉しいと感じたことはありません。思うだけじゃなくてきちんと伝えようと思いました。
スキの数ではないのです。通知で見たことあるアイコンを見るだけで、すごく嬉しくなります。あぁまた読んでくれたのかなと思い、まるで当店の常連様がご来店された時の気持ちになるのです。

テーマは「心の在り方」。
最後に、優しいっていいな、と思えるような作品が届けられたら幸いです。
たくさんの人が優しい気持ちになれば、笑顔も増えて、周りの人にも優しくなれるのでは…?そういう大人が増えたら、次の世代に笑顔でバトンタッチできるのでは…?
もちろん私自身も未熟者。いつも平穏にはいきません。些細なことで悲しくなったり怒ったりします。でも前を向かないと。自分だけじゃなくて子供たちにもそれを伝えていかないと。
どうしても感謝をお伝えしたく、ここで本文並みに書いてしまうことをお許しください。本当にいつもありがとうございます。

こちらは5月末くらいが過ぎたら消去しようと思います〜

(第一話はこちらから)
https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519

※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。


(本文 第十一話 1,872字)


「何ですか、その禍々しいモノは」
 先生の声はいつもの穏やかなものではなく、何かもっと感情を押し殺したような声だった。モノをカバンから取り出したかのう様はくすっと笑って答える。
「あら先生、知らないのですか? 「捕獲ちゃん」ですよ」

 ——捕獲ちゃん。
 可愛らしい名前とは裏腹に、このモノをシンプルに表現するとしたら「虐殺道具」である。
 太い黒い棒で一見何の道具かは分かりにくい。人間の女性がカバンに忍ばせられるくらいだから、おそらくそこまで重たいものではないのだろう。
 私は過去に一度これを見たことがある。
 妖精シルフ狩りの時だ。
 父も母も兄弟姉妹も突然集落に現れた人間たちから逃れようと、蜘蛛の子散らすように飛び回った。人間の大人の手のひらサイズの私達。だけど人間らは驚く様子もなく捕獲ちゃんを高々と頭の上に持ち上げた。


「これさえあれば涙だって生き血だって、たやすく採取できます」
 叶様が言っているのが聞こえた。私はモノを見た瞬間、先生の胸ポケットに隠れてブルブルと震えてしまった。声でしか状況がよく分からない。
 先生が静かに言った。
「専門家の貴女なら分かっているはず。心の病からくる身体の不調を治すのに、薬は必要ありません」
「ふっ、自力で治せるというの?」
「治ります。人間の……生き物の身体は悪いところがあれば治るように創られているのです。治らないのは頭が余計なことばかりにエネルギーを使ってしまっているだけなのです」
「寝ててもちっとも身体は良くならないわ」
「上手に眠れていないからです」
 少し沈黙が降りた。先生が再び口を開く。
「生き物は狩りをする時は全神経を集中させています。狩りが終わればまた次の狩りのために身体を休めます。それは本能です。本能で、生き物は休める時にしっかり休めるようにできているのです」
「ふぅん それで?」
「……いえ、貴女ほどの方でしたら分かっているのですよ……」


 先生がどんな表情なのか見てみたいが、捕獲ちゃんのこともあるので私はじっとポケットに隠れるしかない。
 ギュッと目を瞑る。先生と出会ってようやく忘れかけてきた虐殺の映像が頭に思い浮かんでしまう。私の両親はこういう道具によって狩られた。私の目の前で首をはねられ、身体を逆さ吊りにされて生き血を搾り取られたのだ。
 でもそれは過去。
 過去はもう戻らない。
 私は心に傷を負った。
 でも先生に診てもらって前を向いて生きることができるようになった。

 叶様が話しているのが聞こえてきた。
「貴方は絶望するほど辛いご経験をされていないから、妖精の力に縋る気持ちが分からないだけです。……私が貴方を絶望に導いてあげましょうか? そうしたら貴方の経験も深みを増し、もっと良い診療ができるようになるかもしれませんよ……?」
 この人は悪魔なのか? ここに来る患者様はこんなこと言わない……。
 パタ、パタ、とスリッパの音がした。先生はいつも音の出ない靴を履いていたはずなので、女性が近付いてきた音だと確信した。
 ドキドキドキドキ……。
 何? やめて! 一体何をする気なの? 私はポケットの中で焦りまくっていた。

 焦る気持ちも伝播する。先生の心臓もより早く、より激しく鼓動する。
「……う、ぐっ……!」
 ゆらりと身体が揺れた。先生が呻く。ぐらんぐらんと私もろとも揺れた後、壁に背がついたのか、ドンっと音がして、それから急降下した。
「……こ、れ……は?」
「これは妖精たちの首だけを集めた小瓶です。別に心に触れるのに胸以外でも構わないでしょう。あら、心が飛び出して口から見えてしまっているものもありますね」
 「心」が飛び出る? 心って、飛び出したら目に見えるものなの?
「僕に触らないでいただきたい……」
「先生の心には触れていませんよ。先生の手を、小瓶の中のモノに当てただけです」
「もうやめましょう……。彼らに罪はない……」
 悲しげな先生の声がする。


 本当に、この女性は何をしにここに来たのだろうか。
 先生をこんなに悲しい気持ちにさせて、でも治してほしいだなんて、本当にどうかしている。治りたいならこんなことしないで素直に治療してもらえばいいのに。

「ぐっ……! や、め、て……く、ださ……!」
 先生の呻き声が聞こえてくる。さっき瓶の中身に手を当てたとか言ってたから、また同じことでもしたのだろうか? 私は焦り、心配のあまり飛び出してしまいそうになる。

 先生、先生……‼
 両手で口元を覆いながら、私は必死で祈り続けた。
 まるで、祈れば神様とやらがどうにかしてくれるかもしれないと願って。


(つづく)

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