【連載小説】「心の雛」第十三話
叶様が僕の目の前に持っている瓶をぐいぐい近付けてきた。目を逸らすが、彼らの心は僕の中に容赦なく流れ込んで来る。
瓶の中には妖精の顔がみっちりと詰め込まれていた。顔。首から下は、ない。生き血を採取する際に身体と頭部を切り離したせいだろう。
ものすごくグロテスクだ。
僕は大きく息をついて、彼女に問いかけてみる。一度に大量の心に触れてしまうと僕はいつも吐き気を催してしまう。
「私達の、心の医者の成すべきことは何でしょう」
叶様はせせら笑った。
「患者たちの心の病を治すこと」
「そうです。今もたくさんの方が日々苦しんでいます。貴女もそうでしょう。貴女の心は苦しみに満ち溢れている。立場上、無理をされることだってあるでしょう。貴女が今お辛いことは十分に分かりました。辛いなら辛くならないよう治療しましょう。身体が休みたがっていることに気が付きましょう」
「私の部屋には、こういった頭部のコレクションがたくさんあるわ。今まで狩った妖精たちのね。それでたくさんの患者たちが楽になっていった……」
「そうかもしれませんが、今はその話ではないはずです。まず、治療をしましょう。妖精のことは一度置いておいて、その手に持っている道具も一旦しまって、ゆっくりと貴女の身体の不調を整えていきましょう」
今朝彼女がここに来るなり、捕獲ちゃんを取り出してきたのには驚いた。
妖精が……雛がここにいることは誰にも知られてはいないはずだ。
胸ポケットから雛の小さな震えを感じる。一緒にいた方が安全かと思っていたけれど、逆に危険に晒してしまっているのではと、背中に汗が流れ出た。
今僕にできることは叶様を整えて差し上げること。彼女とて、不調や気持ちが和らげば穏やかに過ごすことができるはずだ。
彼女が棒をもう一度掲げた。
「貴方、こんな森の奥に住んでいるのだから知らないかもしれないわね。技術の進歩は素晴らしいのよ。最新鋭のこの道具、近くに妖精がいるかどうかが……」
棒の先端が鈍く光り始めた。
「分かるのよ」
ビィィィーーーッと耳障りな音がして、棒から音が発せられた。
二歩ほど離れたところに彼女が立っている。手を伸ばせばすぐ僕に届く距離だ。
叶様が僕の白衣に手を伸ばし、バッとめくり上げた。
——雛‼
僕の胸ポケットが膨らんでいる。聡い彼女のことだ、そこに何が入っているのかすぐに分かってしまうだろう。妖精に反応までしてしまうという最新鋭の道具が鳴り響いているのだから。
「見つけたわ」
僕の顔が歪んだ。彼女の表情はまるで……いや、まさしく「狩る者」の顔だった。
(つづく)
次のお話はこちら
連載小説「心の雛」マガジンはこちら
この記事が参加している募集
数ある記事の中からこちらをお読みいただき感謝いたします。サポートいただきましたら他のクリエイター様を応援するために使わせていただきます。そこからさらに嬉しい気持ちが広がってくれたら幸せだと思っております。