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【連載小説】「心の雛」第四話

(第一話はこちらから)
https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519

※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。


(本文 第四話 936字)


 私達、妖精シルフは、ずっと昔から世界のあらゆる場所で暮らしていた。
 魚だって爬虫類だって虫だって、それぞれがいろんなところで逞しく生きている。妖精だってそう。羽があるけれど断じて虫ではない。鳥……は美しくて憧れるけど、虫と間違えられて巣まで持っていかれた仲間がいるので、やっぱり怖い存在だ。

 気ままに花の蜜を吸い、思う存分羽ばたき戯れる。いざとなれば魔法を駆使してどうにか生き延びてきた。集落を作って協力して生きる妖精もいれば、小さな家族だけで生きる、自分一人だけでワイルドに生きる、いろいろ工夫をしながら生きてきた。

 妖精がもっとも恐れている天敵は「人間」だ。
 私達と人間の歴史には深い因縁がある。それが、妖精狩り。

『妖精の涙はあらゆる病を治し、生き血はあらゆる傷を治す薬になる』

 ある者は大切な人を一人ずつ目の前で殺され、永遠と涙を流すはめになり、またある者は生き血を吸い尽くされ干からびて捨てられた。
 妖精の数はだんだんと減ってしまっている。私とて親が目の前で惨殺され、首は捨てられ血だけ搾り取られていく様を今でもしっかり覚えている。忘れるわけがない。泣けと言われて涙は出ず、とにかく逃げた。お前だけでも生き延びろと父は叫び、そしてそれが最期の言葉となった。

 逃げて逃げて、羽を傷つけられてそれでも逃げて、やっと森まで逃げられたと思ったら木の枝に羽が刺さり、千切れてしまった。為す術もなく地面に叩きつけられ私は気絶した。
 気が付いたら先生の病院で手当をされていた。
『に、人間だ……‼』
 その時の恐怖といったら!
 逃げなければと羽を動かしたのに飛べなかった。死ぬ覚悟をして震えている私に、ふいに先生の中指が当たった。首をもがれると目をつぶったけれど、いくら待っていてもそんなことは起こらなかった。ずっと押し黙っていた先生が静かに尋ねてきた。
『いつも食べているものは何でしょうか』
 声の感じが他の人間と違った。バカ正直に私が花の蜜と言うと、なんと裏庭から取ってきてくれた。今咲いている花を一種類ずつ摘み取り、どれが好きか分からないのでどれでも好きなものを食べていいですよ、と言ったのだ。

 無我夢中で逃げてきたので喉はカラカラだった。

 花の蜜は喉に染み渡った。


(つづく)

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