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※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 ※全二十話 39,890文字 (本文 第一話 1,183字) 「はい、本日はありがとうございました。お大事になさってください」 朗らかに笑って先生が患者様を見送っている。 ペコリと患者様が——来た時よりは幾分明るい表情で——一礼して帰って行った。玄関のドアがゆっくりと閉じ、先生と私はほっと一息つく。 「あと二回、というところでしょうか、先生」 私が尋ねると、先生はゆるゆると首を横に振った。 「さ
いらっしゃいませ。 数多くの記事の中からこちらをご覧くださり、ありがとうございます。 連載小説「心の雛」全20話の公開が終わり、ようやく気持ちも落ち着いてきました。途中、心身共に不調であらゆる情報から逃げ出すこともしましたが、それでも最後まで見届けてくださった優しい方々に支えられ、こうしてまた「あとがき」をしたためております。 「あとがき」では物語のちょっとした補足を書くことにしました。 本編を読んでいない方も、ぜひ。 公開にあたっての感謝の言葉は文末に書いております。
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第二話 861字) いそいそと先生が裏庭から花を一輪持って帰ってきた。それを私専用の豆皿にそっと置いた。 「あぁ、もうお皿に出してくれたんですね」 先生が私の前のお皿を見て目を細めた。私が小さな人差し指で開けっ放しの冷蔵庫をピッと指差すと、扉がゆっくりと閉じた。私は少しなら魔法を扱え
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第三話 1,438字) あっという間におやつの時間が終わってしまった。幸せな時間というものは何とも儚いものである。私は魔法で食べ終わったお皿たちを台所の流しに移動した。 人差し指に意識を集中させ、浮き上がったことを確認したら指をスイっと移動したい場所へ向ける。僅かにお皿たちの周りが光
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第四話 936字) 私達、妖精は、ずっと昔から世界のあらゆる場所で暮らしていた。 魚だって爬虫類だって虫だって、それぞれがいろんなところで逞しく生きている。妖精だってそう。羽があるけれど断じて虫ではない。鳥……は美しくて憧れるけど、虫と間違えられて巣まで持っていかれた仲間がいるので、
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第五話 1,688字) 先生がプリンを作っている。 シュンシュンと音を鳴らした四角く銀色の蒸し器も準備万端だ。無駄のない手つきで蓋を取り、固まっていないプリンを並べた。濡らした布巾で包んだ蓋をし、先生がタイマー代わりの砂時計をひっくり返した。 私はいつものごとく、テーブルの上にち
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第六話 1,502字) 今日は朝からずっと雨だった。 本日の予約状況は、午前に二名、午後に二名と割と忙しい日だった。 午後枠の二人目の患者様は口がきけない方のようだった。 目も見えて耳も聞こえているようなのに、先生からの質問への応答は頷くか首を横に振るだけだった。これで五度目の
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第七話 1,777字) 先生の手が血だらけになってから数日後。 ゆっくり養生し、先生の治癒力のおかげで手はもうすっかり元通り……にはさすがにならず、私はどうにか頼み込んで一滴だけ私の血を水に落とし、先生に飲んでもらうことに成功した。 「ぐ……。に、苦い……ですね……」 甘党の先生が
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第八話 2,919字) ある日の昼過ぎ、新しい患者様が来た。 先生がざっと問診票に目を通し、今気になっているという症状を再確認する。 今日の先生の出で立ちはいつもの白衣と、その下に紺色でストライプのシャツと淡いグレーのニットを重ね着していた。シャツにニットの組み合わせ。鳶色の瞳。
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第九話 2,564字) 森の奥にひっそりと佇む心の病院。 院長は奥野 心。患者様からは 心先生、と呼ばれ親しまれている。 街から遠いこの場所にやって来る患者様は皆、心の病を抱えている。 老若男女を問わず、誰もが心先生の治療を受けたくて足を運んで来る。 本日の新規患者様は先生と
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第十話 2,172字) コポコポコポ……。 ハーブティーをティーカップに注ぎ入れる音がする。私のお気に入りのハーブとひとつまみの塩も。 ちらりと見ると、ちょうど先生が人差し指でカップの中の温度を確かめているところだった。 「はい。お風呂ができました」 「はぁい」 私は返事をして
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第十一話 1,872字) 「何ですか、その禍々しいモノは」 先生の声はいつもの穏やかなものではなく、何かもっと感情を押し殺したような声だった。モノをカバンから取り出した叶様はくすっと笑って答える。 「あら先生、知らないのですか? 「捕獲ちゃん」ですよ」 ——捕獲ちゃん。 可愛らし
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第十二話 2,064字) 昔から、人とぶつかった時などに意識が途切れることが多かった。 孤児院で育てられた僕は、両親はもちろん自分がなぜそこに存在するのか、ずっと分からないまま生きてきた。はるか昔の話である。 「心くん。ほら、◯◯くんと手を繋ぎなさい」 散歩の時間などははぐれない
(第一話はこちらから) https://note.com/pekomogu/n/ne7057318d519 ※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。 (本文 第十三話 1,084字) 叶様が僕の目の前に持っている瓶をぐいぐい近付けてきた。目を逸らすが、彼らの心は僕の中に容赦なく流れ込んで来る。 瓶の中には妖精の顔がみっちりと詰め込まれていた。顔。首から下は、ない。生き血を採取する際に身体と頭部を切り離したせいだろう。 ものすごくグロテス