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祈ることもお仕事


「あの…、本当に、大丈夫…でしょうか…、」

悪い癖だと分かってはいても、いつも口をついて出てしまう言葉に長官である鵜沢さんは片眉を上げてこちらを見上げる。

自分が手に入れた情報を元に、組織の人達が動くことが僕はいつも怖かった。
もし情報が間違っていたら?自分が今もなお敵の掌で転がされているだけだったとしたら?
そのミスは仲間の命に直結しているのだから。

モニター越しの雑音や、敵地に潜入する仲間の声、それに指示をする声、様々な音が飛び交うその部屋で、小さく漏らした声を聞きとった長官は流石だと思う。
申し訳なく思い、そっと視線を逸らす。

「直は本当に心配性なことだけが玉に瑕だよなぁ…」
「…ん…しかし、…」
「安心しなあ?みんなちゃーんと直を信頼してる。1番最初にあちらさんに接近するのは直なんだぞー?誰よりも危険なお仕事をお前はしてるんだからね」

僕の武器はこの身体。なにも纏わずに敵の懐に入り込む。

優しい仲間達の為なら、自分の命など投げ打っても構わないと思っている。けれど、仕事をやり遂げ自分が戻ることでこの組織が動き出せることも知っている。死ねない、失敗できない。
いざ仕事をする時頭はちゃんと切り替わるのに、こうして前線に出ず、仲間を見守る立場に立った時、不安は湧いて止まらない。
それも理解をして、長官は僕を此処にいさせる。

「直があの子らを想う気持ちは、ちゃんと届いてる。だからあの子らも直を想っているんだ、自信を持ちなさい。」

「大丈夫だって、あの子らだってやわじゃないだろぉ?それは直もわかってることだな?」

僕は頷く。みんな強い。分かっている。
気持ちを、切り替えなければ。
やれるだけのことは、やった。痕も残さなかった、はず。考えない。
まだ不安な顔をしていただろうか、長官は不意に僕の腰を抱く。

「…!ちょ、ちょっと…」
「直に"お願い"してんのは俺なんだから。俺のことも考えて?な?」

情けないお顔ですね。という言葉は飲み込む。
こんなだから、僕この人に着いていくしかないんだ。本当に、誰よりも皆んなのことを気にかけているのは彼なのだから。この人の足枷にはなってはいけない。
皆んなを信じよう、僕自身のことも。

「…はい、」

モニターが次々に映像を映し始め、
長官は笑うととん、と僕の背を叩いて前に向き直った。
やっとここまできて僕は
祈ること、それも大切な仕事だと思い出す。

どうか、皆んなが無事でありますように。
そしてここに帰ってきてくれますように。

作戦が、始まる。


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奈月の軍パロディのファンアート、です…。