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裏梅の色

日本には伝統的な配色である「重色(かさねいろ)」というものがあります。「重ね」とか「重ねの色」とかいくつかの表現があります。これは袷(あわせ)仕立ての衣の生地を用いたときの色の配色であり、平安時代の美意識と染めの文化を感じられるものです。平安時代、優れた色彩感覚を持つことは大事な教養のひとつでした。

春に夏、秋と冬、重色は四季それぞれのものがありますが、特に春の重ねは多く、どれも色彩豊かです。新緑が萌え上がる夏の前、色が芽吹いてくる季節、それが春なのです。

「梅」「梅重ね」「紅梅」「莟紅梅」など春には梅の重ねがたくさんあります。そのひとつに「裏梅」という重色があります。衣の表側が紅梅の色で、裏が紅です。

この重ねは梅の花を裏側から見たものとされています。花の色を多彩な角度から楽しんでいたことがわかります。美しい花は表からばかり見てしまいますが、ちょっと角度を変えてみることで別の美しさを知ることができます。もしかしたら、美しさは表だけではないですし、裏側を見てまた違う良さを感じるのも良いかもしれません。これは花であり、人なのかもしれません。「美しさ」というものは表だけでなく、違う角度からでも見られることがあります。裏梅のように、人の美しさや優しさは表だけではわからないかもしれません。

この配色は実際、どの時代から使われてきたものなのか文献が残っていません。これは残っていないからこそ大事に口頭で伝承された秘密の配色の可能性も考えてしまいます。

そんなことを思って梅に触れると、また梅の見方が変わると思います。いろいろな楽しみ方ができるといいなと思います。視点を広く持ってみること、この配色はそれを教えてくれるのです。



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