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経験と勘で行なっていた売上予測をデジタルで可視化したことで売上向上を実現

コロナ禍によって、様々な産業でDX(デジタルトランスフォーメーション)が一気に加速しています。そして、小売業界でもデジタル化の勢いは増すばかりです。
ただ、一概に「小売業界におけるDX」と言ってもその捉え方やアプローチは様々あるなかで、Patheeでは「小売業界におけるDX」をいくつかのステップで捉えています。
その上で、まず最初のステップとして重要なのが、店舗に関わる様々な情報をデジタル化し、マーケティングに活かすことだと考えています。
そこで今回の連載企画では、Patheeのマーケティングマネージャーの原嶋が、「いま小売業界がデジタル化するべき情報は何か」をテーマに、最前線で活躍するキーパーソンにインタビューしていきます。

人の意識改革を促す手段の1つとしてのデジタル活用

原嶋:
ホームセンターグッデイを運営している株式会社グッデイで、柳瀬さんが行ったデータドリブン経営について、またその際に利用したデータなどを含めて、お話を聞かせていただきたいと思っています。まずは柳瀬さんが入社されてから取り組んだことについてお聞かせいただけますか。

柳瀬:
2008年にグッデイに入社した際に、私がまず会社で課題に感じたことは内向きな組織風土でした。
具体的にお話にすると2000年ぐらいまではホームセンター業界全体自体が成長していたこともあり、社会の変化に対応するよりも、ルーチンワークをしっかり繰り返すことが重要だという風土になっていました。ルーチンワークを重視することで、失敗を恐れて新しいチャレンジをすることができなくなっていましたし、考え方もお客さまに目を向けていないように見えて、自分たちのために働いてる内向きな思考を感じました。

業績は2001年ぐらいをピークに下降傾向になっており、ズルズルと下がっていっていましたが、今のままやっていれば、そのうちよくなると楽観している雰囲気がありました。DXという言葉が話題ですが、私としては人のトランスフォーメーションの方が先だと考え、それをする手段の1つがデジタル活用だと考えて、活用したことで結果データドリブン経営のような形になりました。デジタル以外にもコーチングや企業文化の浸透で組織を変えていく取り組みはしていましたね。

原嶋:
組織が変わると自ずと会社の売上も変わっていきますよね。
デジタルを利用した組織改革というのはどのようなことをされたのでしょうか。

柳瀬:
私の入社した2008年当時は、誰もWebやメールなどを使えないし、会社のWebサイトも弊社のお客さまで見てくれる人はいないだろうという考えからサイト自体を持っていなかったのです。
ただ業務システムは1990年代に自社で構築したものを使っていて、このシステム自体はよくできていたので、あまり変える必要もなかったです。ただその現状維持の考え方が、クラウドなどの次の新技術活用をしていこうということに消極的にさせていました。そんな状況でしたので、デジタルの活用といってもどこから手を付けようかという状態でしたね。

まず何をやろうかと考えたときに経験と勘で行っていた部分をデジタル化しようと考えました。
小売業はデータはもちろん見ているのですが、バイヤーやエリアマネージャーの頭の中の方が重要な情報が多く、経営側から見るとブラックボックスになっているなんてことが多いです。話を聞きに行かないと情報を知ることができないけれど、一人一人に聞くのは現実的ではないと感じていて、この情報を一覧で見れるダッシュボードを作ればいいのではないかと思いました。

実現するためにどうしたらかいいかを探しているときにTableau *1とGoogleWorkspaceを使えば実現できるのではと思って早速導入しました。
R、Pythonというデータサイエンスに必要な言語や、統計学、データベースから欲しい情報を集めるためにSQLを独学でまず学びました。私1人だけ理解しても組織は変わらないので、社内の勉強会をしたり、より詳しいエンジニアの中途採用もして社内全体のITリテラシーをあげていきましたね。

*1 Tableau (タブロー):https://www.tableau.com/ja-jp

原嶋:
データの可視化は重要ですよね。
開発したダッシュボードを利用して、どのようなデータ分析をされたのでしょうか。

柳瀬:
店舗営業の場合は一番やりたいことは売上、利益を上げることです。競合や季節の影響だったり、今であればコロナの影響など、いろんな変数が絡んで売上という数字ができているので、変数と売上を機械学習のデータとして利用して、売上予測を行えるようにしていきました。
どんな行動を増やすと売上、利益が上がるのかということを考えて、実験を繰り返していくという形です。小売業に関しては、店舗だったり売り場だったり具体的に実験できる場があるので、データを活用する環境が整っていると思っています。

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売上と気温の相関を分析したデータを利用することで売上高24%増

原嶋:
売上・利益が上がったという具体的な事例を教えていただけますでしょうか。

柳瀬:
分かりやすい事例としては、季節品の予測があります。
気温と売上が相関しているのは、感覚的に理解している方が多いと思いますが、具体的な売上予想までを話せる方はなかなかいないと思います。商品カテゴリと数年間の気温のデータを機械学習させることで、気温を入れると売上が予測できるっていう仕組みを作りました。

2020年の夏物に売上予測モデルを活用した事による成果をお話しすると、2019年と比較して売上高はプラス24%で、平均在庫はマイナス16%でした。平均在庫が減少しつつ売上が大幅増となりました。導入以前は在庫消化の為の値下げが数千万円単位で発生していましたが、適切な需要予測と在庫管理を行うことで、それほど多額の値下げをしなくてもよくなりました。この結果、売上自体はそこまで変わらなくても大幅に利益は上がっています。

予測モデルが100%正確だと思っているわけではないですが、下降傾向だった売上利益が上昇傾向に転じることを実現することができました。またその結果など成果を社員が感じることで、新しいことを楽しむという組織文化も高まり、社員のモチベーションも上がってきたと思います。

たまにデジタル化の反発はなかったんですかという質問をいただくことはありますが、実際社員からのデジタルに反発はなくて、可視化できたことでむしろ楽しんで働くようになっていると思います。グッデイの企業理念は「家族でつくるいい一日」なのですが、コロナの影響もあったと思いますが、お客さまは家族でいい一日にするためにグッデイに買い物にきているんだなということをより実感できたようで、自分たちの仕事に今まで以上にやりがいを感じてきていると思います。

原嶋:
天気は来店には影響するのではと漠然と思っていましたが、気温を分析することで売上、店舗在庫に良い影響を与えられるというのが、実際の数値をお聞かせいただくと確証を持って受け入れられますね。
天候以外で売上などに影響がある外部要因はありますでしょうか。

柳瀬:
一番大きいのは天候ですが、他には競合店の出店状況だったり、コロナももちろんあります。天候以外の要素については結構突発的に起こるものが多いですね。ホームセンターは災害とか台風とかの影響も大きく受けます。

外部要因ではなくなりますが、値段、売り場の接客、改装は影響度が高いです。
店舗の改装は、売上に対する影響が一番大きく売上が上がるので、今後も老朽化した店舗は改装をして売上を上げていきたいなと思っています。

小売業はどこでもそうだと思うのですが、大きな影響を与えるのは結局「価格・品揃え・サービス(接客)」です。これを向上し続けることによって売上が上がると言われていますが、それは本当です。

原嶋:
「価格・品揃え・サービス(接客)」の中で価格・品揃えは可視化しやすいと思うのですが、接客の可視化はどのようにされているんでしょうか。

柳瀬:
Googleマップのクチコミを毎週収集して、データとして蓄積しています。
1年分のクチコミ情報を見れるようにしているのですが、評価が高いコメントを分類していくと「価格・品揃え・サービス(接客)」についてのコメントになります。評価が低い方も同様です。店舗の立地で最低の評価がつくことはまずないです。

飲食で考えると、お店選びをする時にクチコミのレーティングで決めることはみなさん多いと思います。クチコミはお客さまの行動が変わる重要な情報なので、知っておく必要があると思ってます。各店長にも自店のクチコミがあった場合はメールで自動送信される仕組みを作っています。返信するとクチコミの件数も増える傾向がありますし、一番大事なのは私が何度言うよりも「お客さま目線で仕事しましょう」と言う気持ちの醸成ができることだと思っています。即効性があるものではないですが、継続して日々意識していると変わっていくと思います。

原嶋:
今まで経営としてのデジタル活用でしたが、店舗集客のデジタル活用はどのようなことをされているいんでしょうか。

柳瀬:
グッデイでは店舗集客にLINEを積極的に活用していて、LINEの友だち数が九州の中で実は3番目に多いです。
友だち数を増やすために、昨年1億円キャンペーンという試みもしました。友だちになっていただくと1,000円分のお買い物券をプレゼントするというものです。他にもLINEで商品クーポンの配布やアンケートに答えていただいた方へのクーポン配布もしています。アンケート結果はマーケティング調査にもなりますし、「今どこの商品を使っていますか」など、返答内容をメーカさんにフィードバックして商品開発に役立てたりもしています。チラシにお金を使うよりはLINEを使った販促に力を入れた方がいいかなと思います。

久留米野中店外観

デジタルを利用したデータは事実しかないので公平に物事を見れる

原嶋:
これからデータの可視化を始める方に、どういうふうに進めていけば良いかアドバイスをいただけますか。

柳瀬:
弊社もデータはあるけれど使えていないという状態だったので、それをなんとか分析に使いたいと思うところからはじめました。
データを蓄積し、分析・加工するために弊社の場合はTableauというツールを導入して、可視化、また表やグラフなどのビジュアル化を行いました。グラフもほんの数秒とかでできるようになったのですが、逆にどんどんグラフが出来すぎちゃうので、数字の使い方を学ばないと全く意味がないなと思い、統計のことを改めて勉強したんです。
統計ってどんなことができるんだろうということを学んだところ、回帰分析などできることは4つか5つぐらいのことしかなくて、この組み合わせでいろんなことが分析できるんだということに気づきました。

原嶋:
まずは可視化、分析の仕方を理解していくことから始めていくことが重要ということですね。

柳瀬:
はい。
社内でデータの分析や見方の認識共有をしたタイミングで、売れ筋商品だったパンジーとビオラの苗の仕入れのコントロールをデータを元に調整してみました。結果売上は上がって、在庫が減ったという先程の季節品と同じ結果が出ました。
ダッシュボードでこのテストの成功を社員全員で見れるようにして、業務にいかしていこうと意識づけをしました。やれば結果が出るとわかると、利用する習慣は根付きますね。

また社長自ら実際にダッシュボードをみて、店長とのコミュニケーションでも「このグラフでこういうふうになってるからこうしたらいいんじゃないか」と定期的に話しているので、社長がそれを見て意思決定しているということに皆が気付いてくると、やっぱり皆も見るんですよね。

原嶋:
代表自らダッシュボードをみてコミュニケーションを取るようになると、社員としても代表への提案は数字を使って説明していくように変わっていきそうですね。

柳瀬:
そうかもしれませんね。
経営者は直接手を下すことは出来なくて、社員の行動に依存してしまうものです。最初はすべての話に介入していこうと思っていたのですが、それは経営として正しい選択ではないと感じてデジタル化をはじめました。
デジタルを利用して集めた数字は、事実しかありませんので、すごく公平に見ることができます。あまり人の意見とか意思が入る余地がないので、数字を見ながらどうやったらこの数字が上がるのかっていうのをやり始めて、社員それぞれのポジションでやるべきことがはっきりして、役割分担もすっきりしてきたと思っています。

原嶋:
小売業界は実はデータはすでに保有していて、活用できていないだけだという話を聞くのですが、まず会社全体でデータを見れる環境を作って、データを活用していくことが重要だと感じました。そしてそれが会社としての意識改革にもつながるということも理解できました。
本日はありがとうございました。

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