見出し画像

いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第9話「舌の記憶」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングル(LINEマンガで30話ほど無料!)へ向かった… 
 そしてnoteの回を追うごとにあらすじの項目が長くなりすぎているのでできる限り簡素にしようと思います。


■ あらすじ

 美味しんぼのヒロイン、栗田ゆう子のおばあちゃん初登場回。こいつがこいつで結構な曲者なわけだが、今回は控えめ。栗田家ではおばあちゃんを喜ばせるために、おばあちゃんの思い出の詰まった鶏の水炊きの店に連れて行くところからストーリーが始まる。栗田家では、おばあちゃんはすっかり認知症が進んでしまった、いわゆる「ボケ」た老人の扱いをされていて、そのおばあちゃんが水炊きを食べたいと言うから希望を叶えてあげようという趣旨だ。
「新しもの好きで活発で陽気なハイカラ婆さんと言われたお婆ちゃんがさ…」
「鳥を食べて少しでもボケが良くなってくれたらな…」と店に向かう車中で、ゆう子の兄、ゆう子の父(つまりおばあちゃんの息子)はつぶやく。少しでもおばあちゃんに良くなってほしい、それが栗田家の切実な家族の願いなんだろう。栗田家はあったけえ。飛信隊よりはるかにうまいメシを食えそうだ。

原泰久『キングダム』より メシは2000年以上も前からめっちゃ大事だったらしい

 しかし、おばあちゃんの思い出の店「鳥玄」で出された水炊きでもおばあちゃんはお気に召さない。栗田家の面々はそんなはずはない、おばあちゃんのボケが一層進んでしまったんだと思い込み悲嘆に暮れる。
 翌日、そんなつらい経験を東西新聞社文化部の面々に打ち明ける栗田であるがその話を聞いた山岡は「本当にボケのせいなのかな…」と意味深長な問いを投げかける。
 山岡は「取材に行く…」と言い置いて社を後にするが栗田に「もたもたしてると置いてくぞ」なんて言っちゃったりして、おまえ確実に海原雄山の息子だな!ってツンデレ成分をムワァッと醸し出している。やっぱり君たちは親子だね。鶏の味を知るには、どこでどういった環境で鶏が飼育されているかを知らなければならない。山岡が取材といって栗田を連れていったのは最新鋭の大型養鶏場だ。しかしそこでは生物を扱うという点でにわかに納得しがたい「経済動物」としての鶏の生育環境を目にすることになる。

「鶏」口密度はインド並。

 そこで生育されている鶏は「ブロイラー」という品種で、経済効率や生産性に優れているのが特徴だ。その特徴を最大限活かすために、すし詰めにし面積当たりの生育頭数を増やすとともに、環境のストレスから病気になることを防ぐために飼料に抗生物質などを混ぜていた。

工場長は効率の良さに誇りを持っている。しかし栗田にはショックだった。

 栗田は言葉もないと言った感じであったが、養鶏場を後にするときに「これはまさに肉を作る工場といった感じだわ」と嫌悪感を露わにする。

 次に取材に向かったのは、昔海原家で働いていたおマチさんのお宅。そこでは鶏は十分に日光を浴び、元気に走り回り、そこらへんでミミズや虫、草なんかをついばんで食事をしている。最新鋭の養鶏場を目にした後の栗田のギャップが半端ではない。鶏肉を生産する工場とにいる鶏と比較して栗田は思わず両者が「同じ生き物かしら」と嘆息を漏らすのだった。

それを聞いた山岡は意味ありげに栗田を見返す。栗田の感性を徐々に認めつつあるのかも。

 このおマチさんの鶏肉を使った水炊きを、栗田のおばあちゃんに「鳥玄」でもう一度振る舞う。最初はおばあちゃんは嫌がっていたが、一口食べるとあまりの美味さに昔の生気を取り戻し、すっかりボケも治っちゃうほど。美味しいものを食べて、ボケも治って一件落着。「鳥玄」も昔の味を取り戻すと誓ってこの回は終わる。

■ 栗田の成長

 今回は身内絡みということもあって、栗田の成長が著しいように伺えた会であった。今までは料理の感想を言葉で表現することはあまりなかった。海原雄山大暴れ回(第7話)でも、料亭のお味がいまいちであることに気づきつも、心のなかで思うにとどめた。しかし栗田が大好きなおばあちゃんが愛した鶏、その飼育の現状を目の当たりにして、栗田の扉が一気に開くところは素晴らしい構成だと思う。こんなに激した栗田を見ることは今までなかった。もしかしたら一皮むけたのかも知れない。(良い方に向けたと信じたい)

とても自虐的に吐き捨てる栗田。その口調は山岡に似ている。

■ ブロイラーについて

 本文中でも述べた通り、ブロイラーというのは経済効率や生産性に優れているのが特徴の品種の鶏だ。成長速度も早く、病気に強く頑健なことがウリなのだ。この回はブロイラー飼育の非人道性をこれでもかと描くけれども、安定的に鶏肉を供給するという使命を帯びていることをわきまえていればこそ、鶏肉工場の工場長は誇らしげに山岡らの取材に応えて飼育システムを説明したのだ。
 安価に求められる庶民のタンパク源としてブロイラーを安全に最大効率で出荷する、その価値をこの作品は評価しないのだ。
 しかし、最悪なのはなんといっても、鶏肉工場の工場長ではなくて「鳥玄」の板長だろう。

食えたもんじゃないものを出すなよ

「あのおばあちゃんだけが本当の『鳥玄』の味を覚えててくれたんだな…」
「オレ(息子)や親父ですら忘れかけていたのに…」という自省の言葉の後に即、これである。わかっててやってたんじゃねーか!
一番タチ悪いのお前だ、お前!

■ 栗田ばあちゃんは美味しい鶏を食べて生き直す

 まあそれはそれとして、栗田ばあちゃんという強烈なキャラが美味しい鶏を食べて復活し、山岡に協力したり、させたり、濃密な人間関係を築いていくことになる。知らぬ間に山岡は、その知識や実直さから多くの人をファンにしていくのだ。山岡も捨てたもんじゃないぜ!っていうエピソード。

■ 今さら読む『美味しんぼ』

  たぶん初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素とは、このような時代のエッセンスや息吹なんだろうと思う。
  真剣に読んで損はしないのではないか、そう考えてこれから1話ごとに私見を交えつつ読んで感想をアップしていきたい。



・実は、本業は…
 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。≠鉄道オタク の視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも出しています、もしよろしければ是非以下を…
=============================================

ローカル線の存廃問題についての記事をまとめているマガジンです。
よろしければほかの記事もぜひ!

地方のローカル鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか|パスタライオン ~鉄道と交通政策のまとめ~|note


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?