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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第15話「思い出のメニュー」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった… 


■ あらすじ

 豪華客船での午餐会に招待された東西新聞社の山岡・栗田コンビは振る舞われたドイツ料理に舌鼓を打つ。シェフの寺杉氏も本場で修行していた実力派で、「世界でも指折りの豪華客船のシェフが日本人だとは…」というサプライズと確かな腕で、日本に馴染みの薄いドイツ料理の魅力を客に十全に知らしめた。寺杉シェフがテーブルを周り客に挨拶をしているときもその反応は上々であった。山岡・栗田も激賞するのだが、山岡が一言だけ「この煮込みにはフランクフルトソーセージよりレバーソーセージの方がうまいんじゃないかな」と感想を述べると、寺杉シェフは日本人に合わせた工夫であることを説明し山岡もその心遣いに感じ入った。
 午餐会が終わりタダメシを食べた山岡・栗田コンビが下船しようとすると、寺杉シェフが2人を呼び止め、ドイツ料理の味が分かる人と見込んで、今晩ある店でドイツ料理を食べてほしいと頼む

 実は寺杉シェフは不幸なアクシデントとはいえ、殺人罪でブタ箱にぶち込まれていたのだった。しかも山岡らに食べに行ってほしいと頼んだ、ある店女主人と婚約しているさなかに!
 女主人の名はサビーネ。サビーネは寺杉シェフの師匠の娘で、サビーネは美味しいドイツ料理を客に提供しながらも、陰陰滅滅とした日々を送っているようで、表情も疲れを隠せないでいる。

食事をした客(山岡ら)を見送ったあとのサビーネ。人生に疲れているかのようにみえる。

 山岡らもその旨正直に寺杉シェフに報告するが、寺杉シェフは「サビーネは自分のことを待ってはいないのだろう」と痛嘆する。いやそんなバカな。
 根拠はサビーネの店のメニューにあり、寺杉シェフとサビーネの、2人の思い出の料理である「マッシュルームのスープと、ジャガイモのパンケーキ」がメニューに載っていない、だからサビーネは寺杉シェフを許しておらず「私のことを思い出したくもない」のだろうと一層悲しむのだった。

落ち込むのはいいけどさあ…

 見かねた山岡は、テレビ局を利用して「ドイツ料理の特集番組」を撮るというテイで寺杉シェフとサビーネを面会させる。山岡は「マッシュルームのスープと、ジャガイモのパンケーキ」を作ってみせるが、サビーネはダッと厨房に駆け込んだかと思うと、山岡の作ったものを上回る味を出してみせた。それを賞味した寺杉シェフは、てっきりサビーネは自分のこと、2人の思い出の味を忘れてしまっているという思い込みから、あんまりなことを言ってのける。

山岡さんの作ったのは(中略)だいぶ落ちる!!」 もうすこし、こう、手心…

 サビーネは過去を忘れてなどいなかった、むしろ何よりも愛していた。

特別だからこそ、メニューから外した
音信不通の相手を異国の地で待ち続けたサビーネ

 連絡も取れずに離れてしまった(だって刑務所だもんなあ…)かつての婚約者の心の中に、まだ自分はいるのだろうか。自分は想い続けているけれど…そんな寺杉シェフ。
 連絡も来ないまま何年の月日が経ったことか、かつての婚約者をいまも思い続けて、あえて日本で、あえてスペシャリテを外してドイツ料理店を営むサビーネ。
 想いはひとつなのだけど、いろんなことが重なってどうしようもなくすれ違ってしまい、疲れ果ててしまった2人。その2人の人生が再び交わる時に、心の奥底に秘めた愛だけでは足りないときもある。着火剤がなければシケった薪に火はつかない。その着火剤は思い出の料理であり、山岡の心配りでもあり…ハードボイルドなかっこよさが光る今回の山岡(と何にも気づかない栗田)でした。ごちそうさまでした。

◆ 『ザ・シェフ』 -1.0?

 みなさんは『ザ・シェフ』という漫画をご存知だろうか、1食の食事を作るのに最低100万円~(経費別)というとんでもない値段で腕を売る流れの一流フランス料理人の話だ。若干美味しんぼよりも後発だが、ほぼ同時代の作品だ。
 この話はものすごく『ザ・シェフ』っぽい。前回に引き続き、後世の料理漫画に影響を与えた回なのだろうか。遠く離れた地にいる想い人、距離と時間という悪魔が愛に疑念というタネを植え付ける。でも料理を媒介として、その疑念は払拭され… こういう話をやっているのは他にもたくさんあるけれども、なんか『ザ・シェフ』っぽいなと思ってしまった。わかる人にはわかるだろう。

この再開の演出は絶対に『ザ・シェフ』だと思うんだよなあ…無言の2人の間に電流走るっていう

 『ザ・シェフ』は1985年スタートなのでお互い意識し合ったのかなあなどと妄想。


◆ 今さら読む『美味しんぼ』

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◆ 私の本業は…

・実は、本業は…
 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。≠鉄道オタク の視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、もしよろしければ是非以下を…
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