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『珠玉』by 開高健

開高健の最後の作品と言われる『珠玉』を読み終えた。

『掌のなかの海』
『玩物喪志』
『一滴の光』

この三編からなる。
アクアマリン、ガーネット、ムーンストーン。この3つの貴石へのオマージュのような短篇となっている。

1989年10月、最後となる入院の前に編集者に原稿を渡し、亡くなったのが12月。『珠玉』発表されたのが亡くなった直後の1990年1月の『文學界』だったそうで、これが絶筆となった。

開高健は最後の入院となるこのとき、まだ自分の病気を正確には伝えられていなかったという。
とりあえず、入院前に原稿を渡し、おそらく次の構想もあったのではないかと思うが、病状は快方に向かわなかった。
そして、夫人の牧羊子から思わぬ形で食道がんであると知らされた開高健は『出て行け』と一言発し、その後ほとんど会話をしなくなったという。
夫人の差し金により、佐治敬三をはじめ親しい友人達の見舞いもすべて断られ、スマホなどない時代に外部と連絡を取る術もなく、開高健が最期のときをどんな気持ちで過ごしていたのかと考えると切ない。

親友の谷沢永一によると、開高健はああ見えて非常に繊細な性格で、あんな伝え方をするとはなんてむごいことをしたのかと夫人の言動に激怒したそうだ。開高健を同人誌「えんぴつ」に誘い、結果的に牧羊子を引き合わせる形になったのは谷沢永一だが、夫人とは犬猿の仲だったらしい。ソクラテスの妻になぞらえられる夫人は、コアな開高健ファンからは蛇蝎のごとく嫌われていたと聞く。
私はこの夫人の名前くらいしか知らないが、昔インタビューを観た母曰く、なんて偉そうなものの言い方をするのだろうとすごく感じの悪いひとだったという。(苦笑)

それにしても、開高健には何人もの女性がいたらしい。
最後の『一滴の光』のモデルとなった女性はいまどうしているのだろう?とふと思った。

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