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五月待つ ネロリの香をかげば

 五月待つ 花橘の香をかげば
 昔の人の 袖の香ぞする

古今和歌集 夏歌139

五月を待って咲く花橘の香りをかぐと昔愛した懐かしい人の袖の香りがする。

こちらの歌も、なんとなく耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

耳触りが美しく、まるで橘のお花の香りまで薫ってきそう。
柑橘のお花の爽やかながら甘い香りの表現が、この歌を悲しいものではなく、切ないながらもロマンチックなキュンとする感じにしてるなぁなんて感心しております。

この歌の存在により、平安時代には橘=追憶が定着したそうで、基本的には昔を思い出す文脈で橘は平安文学に本当によく出てきます。

和泉式部日記の中には、まさにこの上記の歌をベースに和泉式部と敦道親王(新しい恋のお相手で、亡くなった元恋人である為尊親王の兄弟)のなんとも知的で妖艶なやりとりが書かれていますが、それもその亡き為尊親王を『追憶』する場面においてです。

あるいはかの有名な清少納言の枕草子にはこんな一文が。

四月の末や五月の初めのころ、橘の葉が濃く青いところに花がまことに白く咲いているのが、雨の降っている早朝などは、世に類がないほど風情がある様子で美しい。

枕草子 三五段

雨でその葉の色もより鮮やかになり、花の香りも濃く漂ってくるような情景が目に浮かびます。

橘のお花の香りはなかなか日常生活で触れる機会はなかなか現代では少ないのではないかと思います。
神社で右近の橘があるところにお花の季節にお伺いすれば香りを体験することができるくらいではないでしょうか。実を言うとわたし自身タイミングが合わずまだ橘のお花の香り知らないのです。

お花がまだの橘。奈良の萬葉植物園にて

でもエッセンシャルオイルのネロリ(ビターオレンジのお花)の香りが同じ柑橘系のお花として香りもとてもよく似ているようです。
わたしも大好きな香りです。
香水にもよく使われていますよね。

現代のわたしたちがネロリの香りを自分の気分を良くするために香らせてみたり、あるいその香水を誰かを想って纏ってみたりするように、1000年前の人は、花橘の薫香を衣に焚きしめ、自分の気持ちを癒したり、あるいは想い人の腕の中にいたりしたのだと思うと、もちろんネロリと花橘は全く同じではないけれど、甘やかな柑橘のお花の香りに心惹かれる本能は今も昔も、そして洋の東西変わらないのだなとしみじみ感じます。

もう5月、来月で今年ももう半分ですね。

日々色んな感情が沸きますが、セロトニンを分泌させ、気持ちを落ち着かせるというネロリの精油の香りに包まれながら眠りにつこうと思います。

昔の人も天然の橘のお花の香りにきっと心癒されていたのでしょうね。



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