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"Googleの20%のルール" の復権その可能性への期待と「兼務」という呪縛

 探索の話を立て続けに。「探索」が組織に一様に必要であるということをここまで述べてきている。

 このことを思い考え巡らせているうちに、そういえばと思い出した。「Googleの20%ルール」だ。

Googleの20%ルールとは、Googleの社員が自分の働く時間の20%を、自分自身の新しいプロジェクトや創造的なアイディアに費やすことが許されているというルールです。これは、従業員が自分自身の関心や情熱を追求し、新しい製品や機能を創出する機会を与えるためのものです。
このルールの結果として、GmailやGoogleニュース、AdSenseなど、現在Googleの主要な製品となっているものの多くが生まれました。このルールは、従業員の創造性とイノベーションを奨励し、会社全体の成長と発展を促進するために設けられました。

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 もう10年以上前だろうか。このルールの斬新さが、日本にも一定のインパクトを与えたのは。模倣しようとした組織もかなりあったのではないか。ただ、昨今はあまり耳にしない(その後の日本での実態は、私もよく知らない)。
 もともとは引用にあるように、新たな創造のきっかけに狙いがあったわけだが、日本での実際はどうだったろう。実際の適用でいくつか見聞きした中では、どちらかというと「従業員満足の向上」のほうに組織的な狙いは移っていったように感じる。

 冒頭のとおり、「探索」が日本の組織にとってほぼ共通として必要なこと、と捉えるならば、その取り組みはどうあると良いのか。「必要不可欠」とはいえいきなり組織全体で踏み出すには、様々な課題が考えられる。何よりも、探索を進めるためのケイパビリティをどう備えていくのか。既存業務との兼ね合いで大いなる調整もいるだろう。
 そう考えると、局所的な始め方を考えるのがセオリーだ。新規事業に近い部署での取り組みからだろうか。もう少し広げるなら、マーケティングのような不確実性の高い部署からだろうか(どちらもありえる)。

 しかし、探索の機会を作り出し、探索の方法を身につけていくことは、いまや特定の部署や個人にのみあてはめるべきものではないと思料する。デジタルトランスフォーメーションなる活動で、組織活動の奥深くまで迫っていくと新たな境地に達する。組織が、これまであまりにも「効率への最適化」をひた走ってきてしまってきたがゆえに、その弊害以上に、潜在的な「可能性」の大きさにもはや希望すら感じるのだ。
 目の前の顧客について、これまで踏み出してこなかった価値について考え、対話を始める。「それはうちの部署の仕事ではない」「それは俺の役割、業務ではない」は、あなたの組織の都合の話であって、相手にとっては何の関係もないことだ。
 組織をセンターに置くのではない、相手をセンターに置く。そんなことは何も珍しいことではないだろう? もう何十年も「顧客中心」という言葉を使ってきたではないか。相手をセンターに置くとは、どういうことか? それは組織の暗黙的な前提、都合、理屈を脇において、主語を相手にして状況を捉え直すということだ

 このように捉えると、探索が組織にいるすべての人で担って、然りとなる。だからこそ、冒頭の20%ルールを思い出した。組織の全員に探索の機会を与えるとは、まさにこのようなルールではないか。
 個人として創造を探求しよう、という本来の主旨が、組織の探索へと繋がっていく可能性を指し示してくれているではないか。個人への強制ではなく、組織の矯正なのだ。探索適応型の組織へとトランスフォームするためのね。

 それでも、日本でこのルールを適用するのは難しい。いくつもの組織の前線から大本営に至るまで何度も行き来しての実感だ。このルールを適用するには、組織内のリソースマネジメント("人"ではないよ、"時間"だよ)が相応行われなければならない。
 ところが、日本の組織はこのマネジメントが不足しているというか、存在すらしていないことも珍しくない。誰がどのようなプロジェクトにどのくらい時間を使っていくのか。この割合の概ねの整理がなければ、「兼務」という名の下に、いくつもの仕事を抱え込んで身動きとれなくなる状況を作り出してしまう。
 個人でどうにかするレベルを越えてしまうのだ。だから、組織として時間のマネジメントに手を打つ必要がある。さもなくば、20%ルールも「新たな兼務」の一つでしかなくなる。

 最後に。そもそも、時間のマネジメントを上手くできる「人」のほうが少ないのではないかと思う。だからこそ仕事術とかタイムマネジメントの情報、書籍が世の中には溢れ続けているのだろう。
 「人」が得意としないことは「組織」も得意としない。組織とは人の写像なのだと痛感する。だからこそ、大きな話を大上段に掲げるだけではなく。まずは、一人ひとりの「人」の話をしようではないか。自分の手元で、30分からでも、探索を始められないか。そのいざない。


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