抱きしめる東京
この本は東京オリンピックに至る時代の東京。1970年前後の東京、そしてバブルの絶頂期の東京を、森さんの「育った町」の「私生活」を通じて活写されたもの(「抱きしめる、東京」という題名に、森さんは少し照れていらっしゃるけれど)。
僕より7歳ほど歳上の森さんは、ちょうどバブルの絶頂期に30歳代も半ばを過ぎたあたりの年齢だったと思いう。平成以降に生まれた後輩たちには「オイシイ思いをした世代」と思われているかもしれないけれど、この本のなかに以下のような一節がある。
あの頃の僕については、確かに「棚ボタ」的だったなと反省している。
でも、だからといって全員が「棚ボタ人生」でもなかったということだ。森さんの文章は、そういうことを端的に説明してくれている。
確かにバブルだったんだけど、あの時代はあの時代なりに苦しい思いをしていた人も多かった。無責任に生きることができた若者や、銀行にのせられて、あれよあれよとビルを建てて、一時でも「オイシイ思い」をしたのは、むしろ少数の人たちだったのかもしれないと、今は、あの頃を、そんなふうに振り返っている。
なんだったんだろうね、バブル。
バブルな僕ら。
でもね。もうハッキリとは思い出せないんだ、あの頃のこと。
「抱きしめる、東京 」 森まゆみ 著/ポプラ社発行(ポプラ文庫) 1997年講談社文庫より発刊され、その後、絶版になっていた作品が2010年10月再販されたもの。今もときどき新古書店などで目にする。