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乱雑さの美学

ジェイン・ジェイコブズさん(1916〜2006年)は、アメリカのノンフィクション作家でジャーナリスト。郊外都市開発などを論じ、また都心の荒廃を告発した運動家でもあった人。彼女が最初に注目を集めたのはケネディ大統領がいた1960年代初頭のアメリカ。
彼女は「魚市場の隣に美術館があるような都市が好き」といい、「異なるいくつかの目的で異なる時間帯にさまざまな人が利用すること」を「都市が発展するための条件」の第一にあげている。

(そういえば、「沈黙の春」のレイチェル・カーソンさんと同じ時期だ)

彼女に大きな影響を受けたという、リチャード・フロリダ(都市社会学者)さんは、彼の著作「クリエイティブ都市論 創造性は居心地のよい場所を求める」(2009年 邦訳出版)の中で

「居住地がきれいに手入れされていることを望む人は多いが、私がトロントで気に入っている点は、むしろ『都会的な乱雑さ』である。高層マンションの隣に今にも倒れそうなビクトリア朝様式の家が建っており、高級ブティックの隣には家族で細々と経営する店舗が並んでいる。緑の木々に囲まれた道は突如として車の行き交う幹線道路にぶつかり、ゴミゴミした都会のなかを雄大な景観を呈す渓谷が横断している。さらに自転車通勤の人々が、バスや高級車と並走しているのだ。」

と述べている。

フロリダさんは別の著作(「クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭」2008年 邦訳出版)でこうもいっている。

「地域の経済成長は、多様性があり寛容で新しいアイデアに開放的な場所を好む人々が原動力となる。多様性があればその場所は、さまざまなスキルやアイデアを持つクリエイティブな人々を惹きつける可能性が高くなる。クリエイティブな人々が混じり合う場所では、新しい組み合わせを生みやすい。その上、多様性と集中が重なることで知識の流れが速くなる。より大きな、多様性に富むクリエイティブ資本の集積が、イノベーションの可能性を高め、ハイテク企業の設立、そして雇用の創出や経済成長に結びついていく。」

「多様性に富むクリエイティブ資本の集積が、イノベーションの可能性を高め、ハイテク企業の設立、そして雇用の創出や経済成長に結びついていく。」 については、ちょっとビジネスっぽい言い方で、あんまり好きではないけれど「多様性が都市の命脈である」という考え方には大賛同。

これじゃダメだっていことだ。再開発ではなく、むしろ滅びに向かわしめているのでは

都市が「雑多」を捨て「統一」な感じのアーバンデザインに染まり始めたとき、すでに都市は斜陽。ヨコハマのこの30年間を思い出すと、まさに、そんな感じ。
映画「月曜日のユカ」(1964年 日活 加賀まりこ 主演)の背景に出てくる、あの頃のヨコハマの方は面白そう、行ってみたくなるような、まち。多様な人々との出会いに恵まれていて、chemistryにも富んでいそうな。

僕が子どもの頃のヨコハマには残ってたかな。

1960年代末のヨコハマを記録したノンフィクションの中には、港の見える丘公園でいっときの開放感を味わうベトナム脱走米兵がいて、そんな彼らが立ち入るのを怖がる中華街があったりする。実際、今は肉まんで売り出しているお肉屋さんの裏に、ブラックジャックみたいなお医者さんがいたなぁ(でも、みんな頼りにしてた)。

今はすっかり漂白されてしまって、何も起こりそうもない街だ。

圧倒的に情報量が減ってしまった。
塗り壁とのっぺら坊とカオナシの街だ。

金太郎飴なチェーン店が並んでいるだけ。空虚。