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カウンター

最低限の注文のやり取りしかせず、毎日のように通っても、毎回「dポイントカードはお持ちですか」と尋ねられるような、キャッシュ・オン・ディリバリーのコーヒーショップは、そもそも「喫茶店」であることを拒否したようなお店だ。フルサービスか、セルフサービスか、の違いではなく、お客さんとの「人間関係」を拒否したようなお店。こんなお店は、都市、特に大都市に「孤独」を蔓延させる。

モバイルをひろげて仕事をする。自分の家に空間的なゆとりを持っていないから、ここで勉強をする。友だちとおしゃべるをする。

もちろん、そういうことには便利だと思うけれど

キャッシュ・オン・ディリバリーのコーヒーショップには

遠い故郷から東京にやってきて、大きな組織の部品になって収入を得る。コンビニで食べるものを買い、コイン・ランドリーで洗濯をし、1DKに一人で暮らす、そんな若者に出会いと、人との交流を提供していた、かつての「喫茶店」のような機能はない。

だからママさんやマスターと対峙して、珈琲を飲めるような「カウンター席」はない。そういうことを外して「喫茶店」をスタッフの質を問わず、誰にでも運営できるようものに改良し、マニュアルで補完して、組織的な「コーヒーショップ・ビジネス」に変質させたものだ。

だから、ああいうお店に「喫茶」の提供はない。座るところはあるが飲料やデザート、軽食を提供するだけの「売店」だ。

百貨店やスーパー、ショッピング・モールなどにある「イート・イン」ってやつも同じだし「居酒屋チェーン」も同様、そこで飲んだり食べたりしても、お店員さんに愚痴を言ったり、悩みを打ち明けることはできない。

そのあたりはセルフ・サービス。

でも

僕らも「値段」に釣られ、多少の「わずらわしさ」を嫌気して、「コーヒーショップ・ビジネス」や「居酒屋チェーン」の隆盛を支持してきたんだろう。

この「孤独」が蔓延していく時代に。

国立社会保障・人口問題研究所は、「日本の世帯数の将来推計(全国推計:2024年)」で、独身率は2040年に47%を超えると推計している。

うちだって、奥さんとおふたりさまなんだから、僕が死んでしまえば、奥さんはおひとりさまだ。

喫茶店や駅前スナックの「カウンター」は、大都市の孤独にとって、かけがえのない「出会い」の場であり「紐帯」そのものだったんだ。

まだ間に合うかもしれない。失ってから後悔するのではなく、何かできることを探そう。

誰と口をきくこともなく、毎日が過ぎていくのは切ないよ。
それこそ生き地獄だ。



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