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【ウクライナ情勢記事和訳】「崖っぷち:砲弾不足と情勢全般を検証する」(Frontelligence Insight)

はじめに

上記リンクの記事は、ウクライナを拠点とする戦争・紛争分析チーム「Frontelligence  Insight」によるウクライナ戦況分析記事です。

以下は、上述の英文記事の日本語訳になります。また、このnote記事で用いた画像は、すべて原文記事からの転載になります。

日本語訳  「崖っぷち:砲弾不足と情勢全般を検証する」

ここ数カ月間、私たちのチームはウクライナの国内問題に関する議論を公にしないようにしてきた。それは、ロシアがプロパガンダ目的で悪用する可能性を防ぐためであった。だが、諸課題の存在はますます明らかになり、公に知られるところになっているため、私たちのチームは、これらの問題に関する議論をオープンにしていくことに決めた。第一部では、ウクライナ側視点での情勢分析を示し、諸課題と想定できる解決策の概要を説明していこうと考えている。後日、発表する予定の続編パートで、ロシア側視点での情勢分析を示す予定だ。

注意してほしいのは、この記事は第一部に過ぎないという点だ。ウクライナ側からみると情勢は厳しくみえるかもしれないが、ロシア側の展望が格段に明るいわけでもない。なお、ロシア側の展望は、第二部で論じていく予定だ。

第一部

ロシア軍がアウジーウカのウクライナ軍将兵に対して執拗に圧力を加え続けるなか、明白になりつつあるのは、アウジーウカの陥落が、「もし」という仮定の問題ではなく、「いつ」という時間の問題になったということだ。アウジーウカと並行してロシアは、クプヤンシク、バフムート、ビロホリウカの各地域においても、攻勢作戦を継続している。私たちのチームは、このテーマでの議論を進めるうえで、作戦・戦術レベルの情勢から離れてみることに決め、よりマクロなレベルでのさらなる見解を提供し、ウクライナ・ロシア両国の各国内問題を取りあげていくことにした。

2024年の防衛計画

ウクライナ軍夏季攻勢の結果が明らかになって以降、ロシア軍は戦略的主導権を取り戻し、戦線上のさまざまな地域で攻勢作戦を再開している。2024年のウクライナ側計画として想定されるものは、領土的・人的損失を最小化するために、塹壕を掘り、強化防御陣地を構築するというものだ。この計画は、「そうせざるを得ない」ものであるとはいえ、外国からの大規模な支援が届き、劇的な動員措置が実行に移されない限り、不幸なことだが、2024年のウクライナにとって唯一見込みのある計画といえる。この計画は合理的なものであるが、理想的な選択肢ではない。砲弾欠乏の結果、ウクライナ軍将兵は、念入りに防御された陣地内にいるとはいえ、基本的には砲弾にさらされるがままの陣地守備者の状態に置かれている。これは士気低下を招く状況であって、国民の戦う意欲や軍に入隊しようとする気持ちを損なっている。塹壕を保持するという行動は、そこが掩蔽壕や防御強化された陣地であったとしても、絶対に安全とはいえない。それは、ドローンが投下する爆発物、航空機が投下する500kgのFAB爆弾、救護班や交代兵員を狙ってくる砲弾というものがあるからだ。この危うい状況が、ウクライナが前線において継続的に領土と兵士を失っているという危険な言説を生む結果になる可能性があり、それは2022年後半の明るい傾向をひっくり返すことになるかもしれない。なお、2022年後半に起こったことは、かなり大きく領土が解放されたということだ。滑空式航空爆弾への対抗措置と敵側砲撃への効果的な対応に必要なのは、西側諸国からのどうしても必要な数量の砲弾と兵器の供給であると、私たちのチームは確信している。そうであるがゆえに、ウクライナは、これらの問題をうまく克服するために、緊急の砲弾支援パッケージを受けとる必要があるのだ。

動員

軍部隊に適切な兵力を充当させる件に関する問題は、長い間、存在している問題だ。個々の将兵は2年近くの期間、戦闘に関わっており、兵員ローテーションはまれで、行われても組織的でなく短い。そのようなローテーションは、完全な肉体的回復には不十分で、さらに重要なのは、精神的に良好な状態へと完全に回復するにも不十分であるという点だ。2022年に軍に加わった人々が、その仲間の兵士で2024年現在もまだ生きている、もしくは五体満足な身体であるのが、当時の人数の半数を割っていると知ったとき、そのことは彼らの士気を深刻なほどに低下させ、軍から逃れられる唯一の道は、死ぬか四肢のいずれかを失うしかないという認識を生んでしまう。ウクライナの最近の動員法はこの問題に対処することを目的としているが、依然として深刻な問題が残されている。

ウクライナの動員遂行の必要性が急がれているのは、従軍中の何十万人もの人員の置き換えだけでなく、新たな攻勢能力の構築も目的にしているとはいえ、メディアや専門家の多くが論じたがらないこの取り組みを、複数の問題が妨げている。

公式見解では、ウクライナが10対1の比率で敵側に人的損失を与えている場合もあるとのことだが、実際の現実はかなり憂鬱な気持ちにさせるものだ。ウクライナがロシア軍に多数の死傷者を生じさせているのは本当のことだが、この両国の間には人口面での不均衡が存在することを心に留めておくことは重要だ。ウクライナの人口に関する公式統計数字には、多くの場合、クリミアとほかの被占領地域に住む人々も含まれている。これらの地域は法的にはウクライナ領であるが、実際には、ウクライナの動員対象外になる。2014年から2021年の間に、多くの個人がウクライナを去って、侵攻開始時点で国外に在住していたという事実もあり、人口に関する問題は悪化している。それに加えて、2022年の侵略以降、何百万人もの人々が国外に逃れた。もちろん、そのほとんどが女性と子ども、そして高齢者であり、帰国している人もいる。ウクライナの人口ピラミッドを調べると、20〜30歳が最少人数のグループに属しており、それ以下は75歳以上のグループしかないことが分かる。20〜30歳代の動員は必要なのかもしれないが、このことは、ウクライナ国家の将来に関して、今後何世代にもわたって、長期的なマイナスの結果をもたらすことになるだろう。

Tweedleで作成したグラフ。データは国連世界人口推計ポータルより取得。

動員の問題に関する真実の根幹は、多くの障害や失態に直面している軍隊に参加するのは難しいという点にある。メディア上の言説は、[ロシア]黒海艦隊の崩壊をウクライナの実質的な大勝利として強調するかもしれないし、その見方に関して私たちのチームも同意するが、塹壕にこもっている兵士たちの見方は異なる。日々の現実は、兵員不足と砲弾不足、敵の砲兵と空軍に対する無力によって特徴づけられたままであって、目の前の樹木線をめぐる終わりの戦いという認識で固められている。このような情勢は、これからの新兵が自分自身を、ドローン投下擲弾、そして戦車と火砲から飛来する弾頭を避けることが任務の、単なる陣地守備者とみなすようにさせている。その結果、進んで軍隊に入ろうという国民の熱気は冷める方向に向かっている。

もし米国が2022年にウクライナ支援をゆっくりとした限定的な手法で行っていなかったならば、この問題の解決がもっと早くできたかもしれないことが想定できる。同様に、欧州が砲弾生産の促進に失敗したことは、ウクライナ軍が戦場で直面している砲弾不足をさらに悪化させている。確かに、うまくいかないことの要因を西側だけに求めるのは不公平であるのかもしれない。なぜなら、ウクライナ指導部も適切な強化陣地を構築できなかったからだ。さらにいえば、反転攻勢をめぐる非現実的な期待もあったし、敗北は多くの場合、ウクライナ軍がすでに膠着状態に陥ってしまったことを認めないという姿勢が伴って、オブラートに包まれたようになってしまった。後日、ザルジュニー大将は「エコノミスト」紙の論考のなかで、これらの困難な問題について説明を示し、有益なビジョンも提示した。

基本的に重要なことは、ウクライナは砲弾を急ぎ必要としており、ウクライナが目下の状況に対して有効に対処することを可能にするのは、西側の決定的な行動のみだということだ。

ほかにも不愉快な真実がある。それは、バフムート作戦と南部での反転攻勢の際にウクライナが被った死傷者のことが、多くのウクライナ人の脳裏から離れないままになっているということだ。例えば、バフムート作戦の期間のことだが、2023年における最も激しい市街戦の中心地であったこの都市に、ごく基本的な1カ月間の訓練を受けただけで投入された兵士からのレポートが存在した。このようなレポートが出された頻度を確認するのに必要な正確な数値の入手はほぼ不可能であるが、半包囲下のバフムートに送られた最低限の訓練しか受けていない兵士からの噂話や報告は、広く社会のなかに流通し始めていた。バフムートは当初、ウクライナのサクセス・ストーリーとして明らかにされ、それにはロシア軍の莫大な死傷者数、時には1対7か1対10の交換比に達するほどのロシア側死傷者が含まれるものであったが、状況はすぐに変わった。ロシア軍が苦闘の末、ウクライナ軍の両側面を占領し、ウクライナ側補給路を妨害し始めるとすぐに、死傷者数の比率はほぼ等しくなった。基本的に、最も技量の高い、勇敢なウクライナ軍兵士は、ほとんどが受刑者で構成されるワグネル隊員との間で命の交換をしていた。ウクライナの人口がロシアのそれと比べてかなり少ないという背景を考慮に入れると、ウクライナにとって受け入れがたい人的損失があったにも関わらずバフムートを失ったことは、かなり重大かつ悲惨な局面を招いている。

特定のウクライナ軍将軍の評価は、思慮の浅い正面突撃を実施させたことで知られるロシア軍のカウンターパートと、今や結びつけられるくらいに下落している。また、ウクライナ側の失敗もしくは誤った指導のもとでのアプローチに関する説明の欠如によって、この状況はさらに悪化している。

ここで示した分析を疑ってかかるのは容易なことだが、ウクライナの募兵センターをちょっとだけでも見てみる必要がある。そうすれば、そこに募兵に応じる人の列がないことが確認できる。このことから一つの疑問が論理的に浮かび上がる。もし、万事順調であるなら、国家存亡のために戦っている国において、最近、募兵センターに志願者の列がないということが、果たしてあり得るのだろうか?

まとまらない戦略的ビジョン

大統領府とヴェレリー・ザルジュニー総司令官との間で緊張が高まっていることについて、一年間を超える期間、私たちのチームは情報を得ていた。けれども、この件が公の関心を集めることになったのはつい最近のことだ。軍と政治指導部との間での見解の相違という現象は、戦争という文脈において例外的なものではない。このような政治の優位とみられかねない事態は、純粋に軍事的な視点からみて、肯定的に受け取られない可能性があるが、その逆もありうる。この難しい問題はウクライナ特有のものではないが、この問題はある到達点に達してしまっており、ゼレンシキー大統領はザルジュニーを交代させるつもりでいるという噂が立つまでに至った。この種の議論を呼ぶ噂話は、ゼレンシキー本人によって一部、事実だと裏付けられた。というのも、ザルジュニーを交代させることを検討していると、ゼレンシキーは認めてしまったからだ。

Frontelligence Insightは、ザルジュニーを交代させることが起きた場合、そのことが将兵に対して著しく悪い衝撃を与える可能性があると評価している。あまり見識の深くない人々は、将軍という人たちを、職務を遂行するために任命された人々とみなすかもしれないが、現実はもう少し複雑だ。ザルジュニー大将は、あらゆるレベルの将兵の間で高まった自身の名声を享受している。この名声は彼に独特な能力を与えており、それによって、必ずしも受け入れられやすいものではないが、特定の軍事目標を達成するのに必要な行動を遂行することができている。彼はまた、兵士の福利と生命を真剣に考慮する将軍として知られており、それにより、兵士たちの犠牲は単なる統計上の数値ではないという信頼が、兵士たちの間に植え付けられている。この信頼感はとても重要なものだ。なぜなら、兵士たちは人目も引かず重要そうにも思われない地点を占領するために、自らの命を危険にさらしたくはなく、それも、国政指導者のほうをみている高級将校や将軍の利益のためだけに、そのようなことはしたくないからだ。この問題はロシア軍を蝕んでいるもので、不幸なことにウクライナ軍内にも生じている問題である。私たちのチームが掴んださらなる問題に、単に将軍を交代させようとするだけでなく、ザルジュニーのチームも交代させようとしているということがある。そこに加わるのは、軍事的必要性よりも政治指導部が描くビジョンを優先して遂行するかもしれない人物が任命される可能性があるという問題だ。

楽観的な展望

ありえないほど困難な状況のなかではあるが、解決できない問題はなく、致命的なレッド・ラインをまだ踏み越えてはいない。必要なリソースと兵器が与えられれば活用することができる潜在的な動員力を、ウクライナは保持している。なぜなら、必要なリソースと兵器が供与されることで、単にロシア軍の砲弾の的になるだけだと国民が考えることを防ぐことができるからだ。政府は、政治的忠誠心ではなく実績に基づくかたちで、軍と法執行機関内のポジティブな変化を示さねばならない。政府内部の腐敗と戦う一方で、政府は最終的には、不人気な措置を執行する必要があるだろう。具体的には、動員の遂行に必要な資金を優先するための予算削減や全国のさまざまな部門から集めたリソースの割り当て変更といったものだ。ウクライナ政府は状況の深刻さを協力国に至急、伝えねならず、規模の大きな即時支援の必要性を強調しなければならない。情勢のゆゆしさを軽くみることは、今後、問題を悪化させることになりうる。西側からの時宜にかなった援助が、後戻り不可能な入り口をまたいでしまうことを避けるうえで、極めて重要である。アウジーウカでの事態が想起させるように、ウクライナが占領という事態に直面する可能性は、単に「もしかすると」という仮定の問題ではなくなっており、西側からの適切な支援がなければ、ますます「いつ」という時間の問題になりつつあるのだ。

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