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【SNS投稿和訳】ウクライナ戦況:ハルキウ州北部情勢(Emil Kastehelmi氏)

フィンランドの軍事史家でOSINTアナリストであるエミール・カステヘルミ氏が、Xにウクライナ領ハルキウ州北部の戦況分析を投稿しています(日本時間2024年5月17日11:12投稿)。

以下は、この連続投稿の日本語訳になります。なお、記事中の画像はすべて、カステヘルミ氏の投稿に添付されているものを使用しています。

日本語訳

ハルキウ攻勢は1週間続いている。ロシアは初期に一定程度の成功を収めたが、ウクライナはロシア軍がさらに奥へと進撃するのを抑え込むことができている。

ここの情勢を巡っては、いろいろな発言や主張がある。まず第一に、ロシアはなぜこれほど迅速に前進できたのか?

国境地域の「デジタル・スキャニング」が、ほぼ継続的に行われている。ロシア軍の航空偵察・電子戦・打撃チームは多くの地域で活発に動いている。このことは、国境付近においてウクライナが重厚な防御網を整えることを、もしくは、大規模な兵力を集結させることを難しくしている。

ウクライナ側の合理的な選択肢は、縦深を自らの利点として利用することで、実際にそれを行った。国境から数km離れると、ロシア軍は自国領内にある整えられた拠点やその他の施設に頼ることがあまりできなくなり、支援部隊を前方へと進めなければならなくなる。

現時点でロシア軍はリプツィ[Lyptsi]に向かう攻撃を進めているところで、それと並行して、ヴォウチャンシク[Vovchansk]を突き抜けようと試みているところでもある。リプツィを始点として、複数の村が列状に連なっている。この地理的特徴によって、ロシア軍は17kmを超える距離の住宅エリアを戦いながら通っていかなければならなくなる。一方、ヴォウチャンシクは兵站上のチョークポイントになっている。

ヴォウチャンシクを失うことは、ウクライナ側にとって不幸な出来事になるだろうが、広い視点でみると、この方面の戦略的重要性はかなり限られたものだ。たとえば以下の地図で示したように、ロシアは広大な領土を占領できるだろうが、このことによって、実際に戦略情勢全般が根本的に変わることはない。

リプツィ方面に及ぶ脅威のほうが大きいが、ロシア軍はハルキウ市をロケット砲の射程範囲に置くためだけでさえ、かなりの距離を進撃する必要がある。突進の第一波はおよそ5個大隊規模の戦力でなされた模様だ。しかし、ロシア軍がさらに進撃しようと考えた場合、もっと多くの戦力を投入する必要が生じる。

ロシアの目標:
主要目標として可能性の高いものの一つは、この「副次的」方面にウクライナ側予備戦力を縛り付けておくことだ。ここでの攻撃は、北部に部隊を動かすという対応をウクライナに強いる結果になっており、そうなることは、たとえばドネツク地方で、ロシアが前進するためのよりよい状況をつくることになる。

ほかの目標として、これはロシア軍がすでに述べていることだが、ベルゴロドとウクライナの間に緩衝地帯を設けるというものがある。

この緩衝地帯ができれば、ロシア領はウクライナ軍の襲撃から守られることになる。ウクライナ側の襲撃はこれまでロシア人義勇兵部隊によって、ハルキウ地方からベルゴロドに向かうかたちで行われてきた。

一方で、ロシアは国境から8kmも離れたところまで突入できており、もっと成果をあげたいとロシアが考えている可能性もある。ロシアはチャシウ・ヤール[Chasiv Yar]やポクロウシク[Pokrovsk]方面で攻勢を継続する能力を大きく損なうことなく、もっと多くの戦力を投入することができる。

最悪のシナリオとしてありうるのは、ロシア軍がハルキウ市を野砲の射程範囲内に収めてしまうというものだ。このような状況は、ハルキウ市全体を奪取する目的の将来の作戦に必要な土台を、ロシアに用意することになる。とはいえ、現時点においてロシア軍は、ハルキウ市を占領するのに必要な戦力を、この地域に十分有していない。

最善のシナリオは、ウクライナが予備戦力を極端に多く投入せずに戦線を安定化させることができるというもので、このシナリオが現実化した場合、ウクライナは、攻撃側のロシア軍が消耗し次第、ロシア軍を少し押し戻すことさえできるかもしれない。だが、ロシア軍をハルキウ地方北部から完全に追い払うような反撃の可能性は低い。

今回の攻勢は、ハルキウ地方北部で行われた行動のなかで、開戦初期時以降、最大規模の動きである。また、防御側の成功をひっくり返してしまう可能性のある不透明な要素もいくつか存在する。たとえば、ウクライナ軍防御陣地やほかの防御施設の質といったものが、それにあたる。

参考文書:現在攻撃中の戦力の詳細に関しては、私たちのグループのメンバーであるパシ・パロイネンの投稿[*注:以下の和訳リンクを参照]で確認できる。パロイネンはハルキウ方面のロシア軍戦闘序列の追跡に関して、常々立派な仕事をしている。

私たち「ブラック・バード・グループ」は継続的に情勢をモニターしている。このスレッドを作成するのに少々時間がかかったのは、最近、2週間ほどウクライナに行っており、その旅行から戻ったばかりだからだ。後日、ウクライナで知りえたことに関して、文章にするつもりだ。

以下、ブラック・バード・グループのウクライナ地図

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