本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年5月14日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ウクライナ戦況:ハルキウ州情勢とロシア軍の新戦術
ハルキウ州方面戦況地図の一部日本語訳
(米国東部時間2024年5月14日15時現在)
5月14日にロシア側情報筋は、ロシア軍がルキャンツィ[Lukyantsi]を掌握したと主張した。
5月14日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ヴォウチャンシク[Vovchansk]から北西と北東の方向で、ロシア軍が前進したことが分かる。
5月14日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がルキャンツィで前進したことが分かる。
5月14日にロシア国防省は、ロシア軍がブフルヴァトカ[Buhruvatka]を掌握したと主張した。
5月14日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がブフルヴァトカで前進したことが分かる。
報告書の一部日本語訳
ハルキウ州北部のロシア軍攻勢作戦のペースは、ここ24時間で遅くなったように思われる。また、この地域におけるロシア軍攻勢行動が示すパターンは、ロシア軍がハルキウ州内奥への浸透突破よりも、国境地域に「緩衝地帯」を設けることのほうを優先しているというISWの評価内容と合致している。複数のウクライナ軍当局者が5月14日に伝えた話によると、ハルキウ州の情勢はゆっくりと安定化に向かっているとのことだ。これらの軍当局者の一人であるウクライナ国防省情報総局(GUR)の局長キリロ・ブダーノウ中将は5月14日の発言において、ウクライナ軍の増援部隊がハルキウ方面に投入され、ロシア軍の前進への抵抗を始めた5月13日から5月14日にかけての夜に、ハルキウ州の状況が安定化し始めたことを指摘した。ウクライナ参謀本部とウクライナ軍ホルティツィア部隊集団報道官ナザール・ヴォロシン中佐によると、ウクライナ軍はヴォウチャンシク[Vovchansk]市内にいる視認可能なロシア軍突撃集団を攻撃目標にすることで、同市内の「掃討」を始めているということだ。ロシア・ウクライナ双方の情報筋のなかには、ロシア軍がこの方面で新戦術を用いていることを伝える者がいる。その新戦術とは、5人ほどのかなり小さな突撃グループでウクライナ軍防衛網に穴を開けてすばやく前進し、その後、ほかの小規模突撃グループと一緒になり、より大きな打撃グループにまとまるというものだ。ヴォウチャンシクからのものとされるドローン撮影動画に、小型分隊規模のグループでヴォウチャンシク市内を行動しているロシア軍徒歩移動歩兵が映っており、これはウクライナ側からの報告内容と一致する行動だ。
だが、小規模突撃グループの投入は、ロシア軍の人的・物質的損失をより大きくし、この方面におけるロシア軍攻勢の全体的なペースを遅くさせる要因になっている可能性がある。過去に「シュトルムZ」部隊教官の任に就いていたロシアの軍事評論家はこの新戦術に不満の意を示し、ロシア軍の小規模突撃グループを撮影した動画は、訓練と戦闘準備の貧弱さを示すものであって、効果的な新戦術を示すものではないと述べた。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツ氏は、この方面でロシア軍の損失が増大した結果、攻勢作戦の全体的ペースが落ち込んできていると述べている。ウクライナ参謀総長アナトリー・バルヒレヴィチ少将は、ロシア軍がこの方面において、過去一日だけで最大で1,740人の兵士を失っていることを示唆したが、これが事実だとしたら、極めて速いペースで損失が増していることになる。この人数に関して、ISW自体で真偽確認はできないが、ここで主張されている損失ペースは、5月14日に観察された攻勢作戦の全体的なペースダウンと関連している可能性がある。ロシア軍作戦のペースが比較的遅いままで進捗する場合、ISWが過去に示した見解のように、ロシア軍はハルキウ州奥深くへと突進するのではなく、新たに獲得した地点を固めることに注力し、また、リプツィ[Lyptsi]方面とヴォウチャンシク方面の行動を統合して、国境エリアに「緩衝地帯」を設けることによって、ハルキウ州内に横広がりの突出部をつくりあげることに重点を置いていく可能性が高い。
報告書原文(英文)の日本語訳箇所