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石神井で「フィッシュ&チップス」

 作家・開高健は、1958年芥川賞受賞後から1974年まで井荻に住んでいた。井荻は杉並区になるけれど、石神井のすぐそばだ。開高ファンにはよく知られたくだりだが、小説「夏の闇」の中では、ロンドンの屋台の「フィッシュ・チップス」について言及されている。2019年開催の開高健のイベントでは、小説にちなんで新聞紙(風の包装)に巻かれて提供されていた。

 フィッシュ&チップスは、白身魚のフライにポテトを添えたイギリスを代表する料理だ。少し前に出された本だが、林望著「イギリスはおいしい」でも、もちろん触れられている。広く親しまれた味として語られているが、大皿に巨大なカレイがのることもあるそうな。

開高健のイベントにて

 石神井公園駅から富士街道沿いを行ったところに「WELDERS DINER(ウェルダース ダイナー)」という、クラフトビールを出すカフェバーがある。「ダイナー」は「軽食堂」、「ウェルダー」の方は「溶接工」の意味だろう。店の壁にはアビイ・ロードを渡るビートルズの鉄のオブジェが見える。イギリス出身の世界的アーティストからの連想ではないが、メニューにある「フィッシュ・アンド・チップス」を頼んだ。
 店は黄色いテーブルが印象的で、赤坂あたりで開いていそうである。何回か行った中では、客層は比較的若く、家族連れや年配が目立つ石神井では珍しい。奈良県のクラフトビールを合わせてみたが、ウィスキーを頼んでも美味しく頂けると思う。

「WELDERS DINER」にて黒ビールと

 ハンバーガー店「ブッチャーズテーブル 石神井公園店」の存在には、オープンの時から気づいていた。石神井公園駅南側の目立たないところに、若い人たちが集まっていたのは、大泉学園本店からのファンか、口こみのおかげだったのだろうか。吉祥寺ならばありそうな光景だけれど、学生街のない石神井では不思議に感じたものだ。
 先日、昼時にブッチャーズテーブルに入ってみると、カップルや小さい子を連れた親子が、紙に包んだグルメバーガーに美味しそうにかぶりついていた。ここでハンバーガーを注文しなかったのは変化球ではあったが、フルサイズのフィッシュ&チップスをほおばりながら、辛口のジンジャエールを飲んだ。ビールやワインも置いてあるし、夜はこんなところで過ごすのもいいな、と考えた。

「ブッチャーズテーブル 石神井公園店」

 石神井公園駅は高架化し、駅前は大きく変わった。私が石神井で引っ越してからでも、昔の面影をよく残しているのは、「寿し処 さつき処」が入っている中村ビルのあたりだけという気がする。その中村ビルの二階に入っているのが、「SHAKU SHAKU クラフトダイニング」という居酒屋さんだ。いつの頃からか看板が変わっていたが、駅近くにありながら、今まで入ったことがなかった。
 土日は昼から営業している。ドリンクもフードも種類がたくさんで、飲み比べやお一人様メニューなんてあって、迷ってしまう。ビールを頼むと、ここにもメニューにフィッシュ&チップスがあった。
 SHAKU SHAKU からは二階からは駅前のロータリーが見渡せる。昨今の南側の駅回り工事はほとんどを見てきたわけだ。

ロータリーのバスが写り込んでいる

 料理とは全く関係のない話だが、南口は古い駐輪場があって、手元の写真の日付を調べると、2012年が最後になっている。新しい駅舎とは全くそぐわないし、取り壊しもむべなるかな、ではあったが、フィッシュ&チップスを食べる間に思い出してしまった。旧石神井公園駅の雰囲気を残すものは本当に少なくなってしまった。再開発で、今年はさらに変わることになる。

駅前に駐輪場があった頃


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