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地方の現状を知ってほしい〜広がる都市部との格差

2023年1月、岸田首相が「異次元の少子化対策に挑戦する」と宣言してから、少子化対策が話題を集めています。2023年6月に公開された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)には少子化対策の内容が盛り込まれ、より詳細な少子化対策や財源の考え方を示した「こども未来戦略方針」も同時期に決定しました。

前回の記事(その1)では、中央大学の山田 昌弘教授に少子化対策についてお話をうかがいました。

今回の記事では、日本における少子化の要因や課題、少子化対策におけるマッチングアプリの可能性などを山田先生にうかがっています。また、山田先生が最近研究しているホットなトピックについてもお話しいただきました。

山田 昌弘(やまだ まさひろ)氏 プロフィール 1981年東京大学文学部卒。1986年同大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。 東京学芸大学社会学教授を経て、2008年より中央大文学部教授。内閣府・男女共同参画会議専門委員、東京都社会福祉審議会委員など公職を歴任。専門、家族社会学。愛情やお金を切り口として、親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。 「学卒後も基礎的生活条件を親に依存している未婚者」の実態や意識について分析した著書「パラサイト・シングルの時代」(ちくま新書、1999年)は話題を呼んだ。新書『「婚活」時代』の中で、白河桃子氏と共に「婚活」という造語を考案・提唱し、流行させた。

いまの制度を根本的に変えない限り少子化は止まらない

――2023年6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)が発表されました。異次元の少子化対策と打ち出しているだけあり、重要度は高く推進されている印象を受けます。政府の対策のなかで、少子化対策の優先順位について、山田先生のご意見をうかがえますか。

25年にわたって政府とお付き合いがありますが、毎回同じようなことを言っている気がします。少子化対策と女性活躍のどちらに関しても、従来の延長ですので「異次元」とは感じません。

若者の収入の底上げを謳っているのは、方向性は間違っていません。非正規雇用を正規雇用にすることやリスキリングなどはいいと思います。ただ、具体的にどのくらいの規模でやるのかは打ち出されていません。

男性の育休についても触れられていますが、これは正社員でパワーカップル向けの対策ですよね。非正規雇用やフリーランスなどの男性が育休を取得できるでしょうか?できませんよね。

これが少子化の1つの要因になっている、と内閣府・男女共同参画会議で首相にも申し上げました。政府も気にはしているのでしょうが、いまの制度を根本的に変えない限り少子化は止まりません。

――骨太の方針では結婚後や産後のサポートについては記載がありますが、結婚数を増やしたり出会いを創出したりといった、結婚前の観点があまり盛り込まれていない印象です。山田先生のご意見をうかがえますか。

いろいろな形で結婚しやすくなるようなサポートは必要です。経済的な面だけでなく、出会いも含めてサポートしなければなりません。日本の約4分の1の人が結婚しないことが少子化の原因ですから、ここをサポートしないと意味がないと思います。

特に地方の現状を知ってほしいですね。地方では出会いが本当にありません。ペアーズのようなマッチングアプリでも、地方を強化してほしいです。

都市部よりも地方の対策が重要

――「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」(女性版骨太の方針)については、どう感じましたか?

私は以前から「地方について考えてほしい」と強調していました。今回発表された方針では、結構地方における男女共同参画の推進について書いていただけているので、ぜひ実行していただきたいですね。地方にいるやる気のある女性は、一度都市部に出てしまうと戻りたがりません。なぜかというと、地方の風土で職についても差別されがちですし、正社員の仕事も見つけにくいからです。

女性版骨太の方針には、プライム市場上場企業を対象とした女性役員比率の話もあります。しかし、それ以上に地方の中小企業の裾野で女性活躍の場を広げないといけない、と私は提言しています。

育休に関してもそうですが、大企業から推進していくと、ますます大企業が集中する東京などの都市部に人が集まりますよね。地方では、男性は正規雇用で女性は非正規雇用という企業が山のようにあります。

こうした状況では、地方の女性が都市部に出てしまって戻らないのは変わりません。ますます地方と都市部との格差が広がるのではないか、と懸念しています。

――やはり地方の対策が大事なのですね。

東京に比べて地方の出生数は、信じられないほどに減っています。特に東北の減少率が高いです。25年前からの「出生数減少率」を比較すると、秋田県では58%も減少しています。若い女性が、女性差別されない職を求めて、近場の仙台や東京といった都市部に移動してしまうんです。

――弊社などが運営しているマッチングアプリは、出会いの場の提供を通じて少子化対策に貢献したいと考えていますが、さらに貢献するには何が必要でしょうか?

このままマッチングアプリが普及していけば、それなりのプラスになると思います。

マッチングアプリの最大の特色は、いままで出会えなかったような方と出会えることですよね。愛媛県の調査では、いわゆるオタクであることをプロフィールに書いて、それでお互いが気に入って結婚したというカップルに何組も出会いました。アメリカではマッチングアプリが普及したことで、同性愛者の方々が交際相手を見つけやすくなりました。私がおこなった中高年独身者の調査でも、マッチングアプリで出会って交際している方々が多いです。

このように、マッチングアプリは多様な方々が出会える場になり始めていると思います。

一方の課題といてあるのは、様々なリスクの低減です。プロフィールなどで嘘をついている可能性を完全に排除するのは難しいですが。

日本人は欧米の人と比べて、とにかくリスクを恐れます。やり直しや失敗をとても恐れますよね。あくまで「いまの日本人」はという話ですが。

なぜ、いまの日本人はリスクを恐れるのかというと、高度経済成長期があまりにも安定していたからだと思います。加えて、「やり直しコスト」が高すぎることも挙げられます。

――やり直しコストというのは、具体的にどのようなコストでしょうか?

欧米の場合はお互いに自立していて、収入も別々に管理している夫婦が多いです。日本では結婚すると夫婦が一体となって、かつ男性が女性を養うケースが多く、別れるとなると大変ですよね。

山田先生が研究しているホットなトピック

――現在、先生が研究されているなかでホットなトピックがあれば教えてください。

バーチャル関係についてです。これは、恋人や配偶者以外との親密関係のことです。例えば、ペットやアイドル、スポーツ選手など、個人が恋愛感情を投影するような関係がこれらに該当します。性別や年代等ごとの特徴に関する調査等も実施しました。

あと、先ほど述べたように、中高年独身者の調査研究もしています。マッチングアプリで出会ってお付き合いを始めた中高年者も結構いましたね。そのうちの多くは、離別者でした。離別者のほうが積極的のようです。子育てを考えなくてよいので、純粋に恋愛出来るんですね。

インタビュー調査をした50代の女性は、2回の結婚を経験していました。1回目はDVが原因で、2回目は浮気が原因で離婚しているのですが、それでもまた結婚したいそうです。日常的に信頼できる相手がほしいんですね。

インタビューを終えて

日本人はリスクを恐れる傾向が強い。山田先生にも過去ご参加いただいた「有識者による少子化・未婚化を考えるアドバイザリーボード」でも同様の指摘がありました。
例えば、特に若い世代は、身近な人と交際をしてうまくいかないリスクを回避する傾向があります。この傾向に対し、マッチングアプリがこれまでになかった新たな出会いを提供することで彼・彼女たちのニーズにもこたえられるのではないか、という指摘もありました。

こうした日本人特有の課題、若い世代特有の課題を含めて、マッチングアプリが少子化や未婚化の解決の一助となるには何ができるのか。
先生のお話を踏まえて今後さらに考えていきたい、そう感じるインタビューでした。

山田先生、ありがとうございました。

さいごに

今回インタビューにご協力いただいた山田先生にもご参加いただいている、外部有識者による「少子化・未婚化の改善について考えるアドバイザリーボード」の記事を掲載しています。ぜひ、ご覧ください。
https://note.pairs.lv/n/nea9fd4a4a20e


Pairs (ペアーズ)は、エウレカが運営するマッチングアプリです。ペアーズは、日本で最も使われているマッチングアプリ※として、日本が抱える少子化・未婚化という課題に対して、「出会い」の創出という観点から解決策を提示し、社会に貢献していきたいと考えています。
※MMD研究所「2022年マッチングサービス・アプリの利用実態調査」2022年9月時点。