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#小説

📕小説(ショート)【ノスタルジー】 794

📕小説(ショート)【ノスタルジー】 794

 出席番号だって、血液型だって、誕生日だって、実家のある場所だって覚えている。
なのにLINEもメアドも電話番号も知らない。
出席番号19番も、B型も、7月24日も、今では何の役にも立たない。
 あのとき、もし同窓会に合流していたら?
「写真ありがとう。筆跡で判ったよ」
と伝えていたら?

 マサミとは中学2年の1年間、同じクラスになっただけの間柄。
特に何かがあった訳ではないけれど、どちらかとい

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連載小説 魔女の囁き:5

連載小説 魔女の囁き:5

 一週間後の試合を迎えた。ホームのナイトゲームで、私が球場入りしてほどなく試合前のスターティングメンバーの発表がおこなわれた。対戦相手の先発投手の名前は聞くまでもなかった。ローテーションの変更はなく、事前の調査で予測していた通り、今回岩瀬が攻略法を考えた例の投手がマウンドにあがる。
 私はこの試合を岩瀬と柴田と三人で球場で観戦することにしていた。観客席の最上階にある関係者専用の特別観覧室で、前面は

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四半横臥・毒薬未満(掌編)

四半横臥・毒薬未満(掌編)

 少し羽を休ませなさい、どんな風にしてたって君は君なんだから。内蔵。大丈夫だよ。

 むくどりさんが小さな子どもに悪い秘密を打ち明けるみたいな言い方をした。

 石ころ。なぐさめるつもりじゃないんだけれど。緑の底。お願い、そのまま、静かに聞いてくれる? ラフなさみだれ。

 もちろん。むくどりさんが何か聞かせてくれるなら聞いてみたい。網戸を閉じているのにどこからぼくの部屋に入ってきたのか、教えてく

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短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
 わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
 傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。

 (一)

 妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
その始まりはた

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【小説】紫陽花の道

【小説】紫陽花の道

 休憩室の窓を開けても、隣の薄汚れたビルの壁が見えるだけ。空なんか見えない。それでも生ぬるい風が微かに流れて、窒息しそうな苦しさは少し和らぐ……ような気がする。だから私はいつも、休憩時間中いっぱい、窓を開け放つ。

 社割で買った鳥そぼろ弁当を食べていると、休憩室のドアからチーフが顔を出した。
「高崎さん、休憩14時までですよね? 今、ちょっといいですか。あ、全然、食べながらでいいんで」

 私た

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犬に似ていた人生だった。

犬に似ていた人生だった。

昔から、鏡がきらいだ。
映るもの、写すものが苦手なのかもしれない。
高校生の時もほとんど鏡を学校にもって行ったことがない。

白雪姫の継母の気持ちが今一つわからない。

高校生の時、調理実習の授業の時に、私たちのチームだけ包丁が一瞬、消えた。

先生、包丁がありませんって言っていたら、
チームにひとつずつ用意してあるよって
言われて探していた。

同じチームのヤマシタが窓際の灯りのそばで
その包丁

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エッセイ | noteで個人企画に参加するということ。企画への愛を語りたい。

エッセイ | noteで個人企画に参加するということ。企画への愛を語りたい。

 なぜ今なのかは自分でも不明ですが、偏見たっぷりに語ってみたいと思います。



はじまり

 わたしが自分で書いた文章を、恐れ多くも〝作品〟などと呼び始めたきっかけは、超ショートショートを書いたことでした。

 初めは自分で考えた〝お題〟で書きました。それに飽きてきた頃、知人から〝お題〟をもらうようになりました。
 それが楽しくなって、5作くらい出来上がったところでnoteにやって来ました。そ

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📕小説(ショート)【チェンジ】 785

📕小説(ショート)【チェンジ】 785

 いつの間にかアジサイがこんなに咲いてたんだね。
毎日通っているのに気がつかなかったな。
アジサイの花言葉は確か
「移り気」「浮気」「変節」
青色なら
「冷淡」「無情」か……

 俺が変わったって思ってるんだろうな、きっと。
そう思わせた俺が悪いの?
そんなつもりはなかったんだけどな。
これってさぁ、俺が悪かったって思わなくちゃいけないことなの?
「ごめん」
とかいわなくちゃ駄目なの?
どうして謝

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ショートショート_明日

ショートショート_明日

金魚鉢の透き通る印象は夏の季節を思い起こさせる。とうとう台風1号が発生し、夏だとは思うのだが、もうひとつ、大切な季節を通り越さねば本物の夏はやって来ない。それは、梅雨という季節である。

梅雨というと、長雨、ジメジメ、憂鬱などという感じがするのだが、雑草を含めて植物性の花粉症の私にとっては、ようやくマスクがとれる季節を意味する。確かにうざったい感じもするが、ようやく夏を感じる季節でもある。

沖縄

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日記 | 知人とGeminiとわたし。

日記 | 知人とGeminiとわたし。

今日は知人とランチでした。
忙しい知人に、三度目の推敲が終わった長編小説を読んでもらいます。

村上方式により、二度目の推敲が終わった段階で知人に一度細かくチェックしてもらい、たくさん質問をもらって書き直しました。

村上さんの場合は、最初が奥様、次が編集者にチェックしてもらうようですが、私には頼る相手が知人しかいないので、二度目もお願いしました。

それでも、〝あ

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致死量の悔恨 第1話 かまくらの中

致死量の悔恨 第1話 かまくらの中

あらすじ(300文字)
※あらすじは全話終了後に更新します。

 まるでかまくらの中に居るように、外界と遮断されていた。左肩にのしかかる人の様な黒い塊を担いで、啓太郎は闇の中から出ることができるのか。

 付きまとわれたはずの千花が、イチョウに載って晋太郎を追いかける。千花が感じていた「怖い」は、今、晋太郎が感じている怖いになった。晋太郎はこの恐怖から逃げ切ることができるのか。

本文

プロロー

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【小説】Rain

【小説】Rain

 玉ねぎ、人参、じゃがいもと、薄い豚肉を煮込んだら、あとは市販のカレールーを入れるだけ。飯盒で炊いたご飯もつやつやと光っていて、はじめてにしてはなかなかの出来栄えだ。中学二年生。宿泊学習のキャンプ第一日目は、とても順調に過ぎていった。
 キャンプ場は青い草の匂いがして、ひんやりした空気を胸いっぱいに吸い込んだら、鼻の奥が少しツンとする。湿気を帯びた風がゆるく吹いていて、ポニーテールのうなじがくすぐ

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掌編小説 | ニセモノ | シロクマ文芸部

掌編小説 | ニセモノ | シロクマ文芸部

金魚鉢、ではなくてホルマリン漬けの瓶だ。
生きた金魚を悠々と泳がせる、それこそが金魚鉢の役目であり、あるべき姿なんだ。死んだ出目金を晒す容器と一緒にしちゃあいけない。

だいたい、どうして古着屋にこんなに沢山の出目金の死骸を並べているんだろう。その前に、これは本物? それとも偽物なの?

「ナニコレって思ってるでしょ」
若髭のオーナーが声をかけてきた。若髭って

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📕小説(ショート)【フォール】 775(ヘッダー画像差し替え5/22AM)

📕小説(ショート)【フォール】 775(ヘッダー画像差し替え5/22AM)

 私への関心が恋ではないことなど、最初から判り切っていたのに。

 好きになったのは私の勝手。
まさか恋におちるとは思ってもいなかった。
今頃、あの人はこの「誤算」を悔いているかもしれない。
 後悔。

 共通点なんかまるで無いのに、不思議と気になる存在だった。
調子の良いときには応援したくなる。
落ち込んでいるときには
「そんなに自分を責めないで」
と慰めたくなる。
「私はいつでも味方です」

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