見出し画像

ねこの島のもりもとさん | どんだけ大馬鹿かー! って


1つ前の「ねこの島のもりもとさん | あと3年したら…」はこちら

子猫もいねえけど、子どももいねえんだこの島は。先月…違う3月か。3月16日か。小学校を2人卒業して、それで生徒ゼロだ。小学校はからっぽ。
まだキレイな小学校なんだよ。でも通う子どもがいなけりゃしょうがねえさ。だから先生たちの寮なんかも空っぽ。もったいないよねえ。幼稚園はも〜っと前から空っぽ。

「小さい島の小学校に通いたい子も、通わせたい親も、いるんじゃないだろうか」って。「ビリでもなんでもいいから、おれを市議会議員にさせてください! 応援をお願いします!」って、何年前だったかね、若えのが来て島のみんなに話をして頭を下げてったんだよ。
よし、それじゃあばあちゃんたちもみんなで応援してやるかって。そしたら、見事当選したよ。トップ当選。

あんたが来た朝1番の船は10時半発だったろ? それじゃ小学校には通えないさ。だから、朝の船の時間を、ちょうど学校に間に合う時間に変えようとしてたんだよ。それから、島を出る最終便も。今の3時半だとギリギリで、学校終わったら一目散に港向かわなきゃなんないから。4時かもう少し遅くするかって。

…でもダメになっちゃったねぇ…。計画は御破算。中止さ。
だってほら、午後になったら波高くなって、船が出なくなることもあんだろ、海だから。そりゃそうさ海だから。その時に泊まれる施設が島にないからダメだって。子どもたちどうすんだって。
あれはなんていうっけか。そうアンケートか。それが来て、「1泊か2泊か泊めてやっていいよって家はねえか」って。そしたら、うちともう一軒しかなかったんだって。それで2軒じゃ無理だって。計画は御破算。中止。
「子どもになんかあったら困るから」って。「責任取れねぇから」って。そうそう。

…まあ分かるけど、でもそれじゃ誰もいなくなっちまうだろ? だって島で子どもがもう何年も産まれてないんだから。長いこと幼稚園も空っぽさ。ほら、いなくなっちゃった…。
「さっき小学校の前を通ったらキレイだった」って? そりゃそうだよ。だって市が何千万円だかかけて新しくして、まーだいくらも経ってねえんだもん。

ユネスコスクールは、ユネスコ憲章に示されたユネスコの理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校です。
別名「市民サブセンター」らしい。

「立派な漁業センターもあった」? 馬鹿かーって。ばあちゃんに言わせりゃ馬鹿たれー! って。どんだけ大馬鹿かーって。
「囲碁やったり将棋やったり、島のお年寄りの皆さんにはそんな風に使っていただけますよ。集会所とか、災害避難所がなきゃ困るでしょう。造って差し上げます」って、市が何千万円だか出して造ってくれたんだけど、だーれも使ってない。漁業だ畑仕事だって、この島の年寄りは忙しいんだよ。それに市に全額出させちまったもんだから、島の人間はなんも言えねえんだ。
乗っ取られたんだな。飲み食いしちゃダメだ。あれしちゃダメこれしちゃダメって。言い過ぎかもしんねっけど、乗っ取られたんだな。
あんたさっき行ったんだろ、誰かいたかい? うん、そうだろそうだろ。いつ行っても暇そうな職員と猫がいるだけだ。

この文章は、ほろ酔いのおれがおばあちゃんから聞いた話を元に創作したフィクションです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?