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ビジネススクールの怖い先生に呆れられながら教わったこと

今週の月曜日、朝刊で横山禎徳先生の訃報に接した。不死身の人みたいなイメージだったので、不意を突かれた感じだった。

横山先生は、私の通っていたビジネススクールのトップで、それ以前にはかのマッキンゼーの日本トップだった人、膨大な知識を持った巨人。

授業で投げかけられる質問に私たちが答えられなければ、「何か言ってみろよ!」と詰め寄られ、的外れな答えをすると、「物を知らないんだなあ」と呆れられました。
事実、私たちの貧弱な知識量では横山先生に敵うわけもなく、先生の授業はいつもクラスが緊張感に包まれていました。

いい歳をした(40代後半)経営者が真正面からボコボコにされるわけです。

記憶している限り、私が頂いた最大級のお褒めの言葉は、「まあ、そうかなと思わなくもない」というものです。

正直、好き嫌いが分かれるタイプの方だったと思います。
私も怖いと感じていましたが、恐る恐る質問に行くと意外と(失礼)熱心に対応してくださったので、決して嫌いではありませんでした。(言われたことの半分も理解できませんでしたが…)

そんな知の巨人から教えていただいたことのなかでも、特に覚えていることを記しておきます。


■ ジャーゴンを使うな


ビジネススクールに通うような人間は、だいたい流行りの言葉を使いたがるのですね。
何でも良いのですが、例えばパーパス、SDGs、DX…そんなような言葉です。

そうすると、何か一端のことを言ったような気になる、賢くスマートに見える気がするのです。

そんなとき、横山先生は仰るわけです。「ジャーゴンを使うな!」と。

最初に聞いたとき「ジャーゴン」の意味がわかりませんでした。

ジャーゴン(又はジャルゴン)(: jargon)とは本来、「わけのわからない言葉」「意味不明な言葉」を意味する言葉であり、ヨーロッパ諸言語では日常語である。

Wikipedia

つまり、そんな流行り言葉を特に疑問も考えもなく使ってはならない、考え抜いた自分の言葉で語れ、そういうことを伝えたかったのです。

さらには、今の流行り言葉なんてこれまで何度も語られてきたことの焼き直しに過ぎない、そんな事も知らずに安易に流行り言葉を使うなということも聞きました。

そんな焼き直しの流行り言葉が散りばめられているベストセラーのビジネス書ではなく、オリジナルの古典を読め、読んで考えろ、そう言われました。

借りてきた言葉では人を動かすことはできない、自分で考え抜いた言葉じゃないと人を動かすことなんかできない。
私はそのように解釈しました。

■ vividに語れ


vividとは、鮮やかな、鮮明な、強烈なという意味です。
横山先生はよく「vividに語れ」と言われていました。

あいまいな言葉、流行りの耳障りの良い言葉、どちらとも取れる曖昧な言い方、自信のないしゃべり方、何かを言っていてその実何も言っていない安全策のスピーチ、そんなものは意味がない。

「自分が言いたいことを突き詰めて、迷いをなくし、相手に伝わるよう鮮明な言葉を表現を探しなさい」、そんなふうに伝えたかったのかなと解釈しています。

■ あれかこれかの話をするな


「あれかこれかの話をするな」=「二元論でものごとを考えるな」というのもよく聞きました。

AかBのどちらかではない。世の中は安直なロジックツリーで分類されるような硬直的なものではなく、時間の流れもあれば関係性もあるように流動的なものだ。

あれかこれかではなく、あれがあるからこれもあるんだ。
あれかこれかではなく、あれもこれもだ。

安易にものごとを切り分けて考えようとするとき、頭の中に浮かんできます。

■ 問題の裏返しの答えを出すな


「問題の裏返しの答えを出しても意味はないが、世の中にはそういう事が多い」
これは本当にそうだと思うんですよね。

例としては次のようなものです。
【問題】日本のものづくりが弱くなった→【答え】ものづくりを強化しよう
【問題】うちの会社は労災が多い→【答え】労災を減らそう

考えることを放棄している、あるいは考えることを放棄していることにすら気づいていない。よく陥りがちです。

そういう問題の裏返しの答えではなく、中核課題を捕まえろ。そのために悪循環を図に描けということで、授業では何枚も何枚も悪循環図を描きました。
なかなか満足行くものは描けず、少しはマシかなと思った悪循環図に対する先生の評価が前述した「まあ、そうかなと思わなくもない」だったわけですが。

まだまだ色々なことを教えていただいたのですが、私に理解できたのは半分もなかったでしょう。

そういえば卒業式で先生から学位記を授与されるとき、私は慣れないアカデミックガウンと角帽だったので、お辞儀をしたら角帽が演台のマイクに盛大にぶつかって大きな音がしてしまいました。
「しまった!」と思ったのですが、いつもは強面の先生がニヤッと笑われたことを鮮明に覚えています。

どうぞ安らかに。(と書くと、浄土真宗門徒だった先生にまた怒られるかもしれませんが)



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