都会と距離を取ったら、ちょうどよい私になった。地方移住のはなし
◯◯年以上続いた、私の日常
朝起きて、シャワーを浴びて、朝ごはんを食べ終わったら、夫を駅前まで送って、パソコンの前に座りダカダカとタイピング音を立てる。
オンラインミーティング中に鳴り響くサイレンや飛行機の音に苛立ち、ひたすらに文字や数字を打ちまくって、日が暮れてもまったく気づかず、時計を見てやばい!と夕飯の支度を始める。
夫を迎えに行き、急いで作った夕飯を流し込み、ぼけーっと垂れ流されるアマプラやYouTubeを眺め、あぁもうこんな時間かと寝床に向かう。
これが、東京に生まれ、神奈川に生息してきた私の日常だった。
起きる・食べる・仕事・食べる・寝る。
恥ずかしながら、大学卒業後はずっとこんな暮らしをしてきたように思う。
ドアを開けて外に出れば、挨拶すらかわすことのない人であふれる街があり、誰もが目的地に向けて忙しなくうごめいている。
人波をかき分けて電車に乗れば、車中の誰もが俯いてスマホを眺め、都心部に着けば大量の人が吐き出されたり、飲み込まれたりを繰り返す。
これも、東京に生まれ、神奈川に生息してきた私の日常だった。
1分でも惜しい、急がなきゃ、間に合わない。
流れの速度に合わせなくては、飲み込まれるような恐怖感があった。
どれも私の当たり前の日常だった。
当たり前、だけどどうも自然ではなさそうだぞ。
そんな小さな違和感に気づいたのはいつだったか。
もう記憶は定かではない。
「地方移住」という夢物語
ただ、その頃から「地方移住」というキーワードがよく目に入るようになった。
「あ、なんかかっこいいな」と思った。
都会を手放すという選択ってアリなのか、と。
それと同時に、都会じゃないところで暮らしたことのない私にとっては、フワフワとした夢物語にも思えた。
どうしたら、その選択ができる?
失敗しない?逆になにをもって成功なの?
地方って日本中いっぱいあるけど、なにを持って選ぶの?
生活の価値観が地方に合う・合わないってなに?
そもそも価値観ってなにを指すの?
たくさんの「?」マークが浮かんで浮かんで、止まらなくなった。
そして、なにひとつ「!」マークはなかった。
わからん以上、「地方移住」にはなんだかときめくけどその選択はできないよねぇ。
地方出身者である夫と、なんとなく「地方移住っていいね」「いつかするのかなぁ」とふんわり話すに止まっていた。
仕事から現実味を帯びた「地方移住」
2020年の暮れだっただろうか。
仕事の手が少し空いてきたし、何か新しいスキルを手に入れたいなぁ。
忙しなくないとなんだか不安になる私は、Twitterに流れるbosyuを眺めていた。
そこで私の目に飛び込んできたのは、地方移住メディアのインタビューライターのbosyuだった。
以前からライティングには興味があったし、インタビューには営業時代のヒアリングスキルが活かせそうだ。
何より、地方移住の生の話が仕事で聞けるなんて!
私の中に生まれた大量の「?」の答えが手に入るかも知れない。
衝動的な応募から、面接、採用に至るまでそんなに時間は掛からなかった。
私は地方移住メディアのインタビューライターとして、サービス終了に伴う業務終了までの間、およそ10名の地方移住の先輩にインタビューをさせてもらった。
全国様々なエリアに移住をした人の話を聞かせてもらうなかで、
自分がなにを大切にして暮らしを送りたいか
なにに不安を感じるのか、それは回避できるのか
移住エリアの人とのつながるイメージを持てるか
この3つがクリアできれば地方移住は現実にできそうだと感じられるようになった。
ただ、当たり前に都会暮らしをしてきた私にとっては、今まで考えたことのないことばかり。
どう考えはじめたら良いのかすらわからない。
行動から埋もれた感覚を発掘
考える前に、ちょっと行動に起こしてみよう。
そうして、プチ地方移住のイメージで、神奈川県内の三浦エリアへ足を運んでみた。
建売に出ている家を見に行ってみたり、エリアを回ってみたりした。
結論、ちょっと私には合わないかも、と感じた。
なにが合わないのかと自分に問いかける中で、
人が多いエリアは苦手。(三浦あたりだと人が多く感じる)
でも人はいて欲しいし、程よいつながりも欲しい(寂しがり屋)
海際のエリア特有の活気は私の性に合わない(社交的だけど陰キャ)
ということがわかった。
考えるよりも行動した結果、自分の中の無意識になっていた暮らしの感覚を掴むことに成功したのだ。
夫も「海はなぁ、イメージないんだよなぁ」ということで、早々に我が家のなかで「海エリア」は除外されることが決まった。
漏れ出てきた、私の暮らしのイメージ
一度発掘した感覚は少しずつだが、表層に浮かび上がりやすくなった。
地方暮らしに飽きてしまったらどうしよう
移住先でトラブルが起きたらどうしよう
こんなふうに「不安」として湧き上がることが多かった。
恐れから、できない理由や問題を探し始めていたのだと今は思う。
本当はやりたい!と思っている時こそ、人はこうなるものだ。
これらの不安に対して、
息抜きに出かけたい、カフェやスポットがあること
移住者に寛容なエリアであること
があれば、移住はできそうとも思えた。
しかし、そんなに都合のよい場所があるだろうか。
そう考えたときに、少し前に那須に移住した友人へのインタビューをふと思い出した。
彼女へのインタビューから那須には開拓の歴史があり、移住者も多い地域であること、程よい観光地であることはわかっていた。
インタビューを行った地方移住の先輩たちが住むエリアの中では、最も印象に残っていたエリアだった。
当時コロナ禍だったこともあり、県を跨いだ移動となる那須にはなかなか訪問できずにいた。
ところが、別の友人を那須に移住した友人にどうしても会わせたい!と思う出来事が起こり、私は一念発起してこっそりと那須に向かうことになった。
彼女へのインタビューからは半年以上が経ってのことだった。
脱・ペーパードライバーをしたばかりの私が、片道4時間の高速道路を含む長距離ドライブで那須に向かった。
今思えば、よくそんな無謀な勇気が湧いたなと思うし、そんな私の車に乗ることを決めてくれた友人も、男性の友人を会わせたい!という私の突然の申し出を受け入れてくれた那須に移住した友人も、みんなめちゃくちゃ優しくて頭が上がらない。
結論、一泊二日という短すぎる滞在ではあったが、少し観光地特有の忙しさは感じながらも「いい塩梅のエリアだ」と感じた。
私のこの手の直感は、人生において外れることはほとんどない。
そうして、留守番をしてくれていた夫に「那須、移住先にどう思う?」と聞いてみたら、
「那須の雰囲気、俺好きだよ?」
「自分の実家も近くなるし。東京もそこまで遠くないし」
「あやちゃんが好きそうな場所とか空気感とか自然とか確かにいっぱいあるよね。ありじゃない?」
なんともありがたいことに、私よりもよほど私のことを夫はよく知ってくれていたのである。
私の新しい日常と変化
家庭の事情でバタバタして地方移住どころではない期間ののち、那須移住への準備が本格スタート。
2023年年末、2年越しの那須移住を叶えてもうすぐ4ヶ月が経とうとしている。
朝起きて、犬の散歩をして、コーヒーを淹れてゆっくりと作業に取り掛かる。
昼ごはんを作って、リモートワークになった夫と昼ごはんを食べ、犬と遊ぶ。
スキマ時間を見つけては庭しごとをし、日が暮れれば夕飯の支度をはじめ、仕事終わりの夫と今日はどうだったあぁだったと話をし、湯船に浸かって、それぞれに自分の時間や友人とのオンライン通話を楽しんで、ゆっくりと寝床に就く。
変わりすぎ、と自分でも思うくらい私の日常は変わった。
那須移住に向けて意識的に「変えた」部分もあったが、とにかく那須は日常の騒音・雑音が少なく、自分のことや家族のことに集中できるようになった。
音楽をやる身なのだから当然ではあるのだけれど、思った以上に私は音に敏感なタイプだということ。
そして、前まで「静か」と思っていた自宅の環境は「うるさい」環境だったということを知った。
実際住んでみると、私が大好きな美味しいものを扱うお店はどんどん見つかるし、オシャレなカフェもたくさんあるし、私が湧き立つお気に入りスポットも見つけることができた。
さらに有難いことに、那須の方とも少しずつご縁をいただいて、ご近所の方ともお話する機会もあり、私が前もって不安を感じそうだった程よい人とのつながりの部分はクリアになっている状態。
正直、なんの不自由もなくてびっくりする。
仕事の兼ね合いで、都内に出向くことは今もある。
片道1時間半、6000円程の小旅行。
都内の方が長年暮らし慣れた環境のはずなのに、都内に行くと音の多さと気忙しさから脈拍がギュインと上がり、呼吸が浅くなるから不思議だ。
都内で過ごすのは3泊4日が今の私の限界になっている。
そして、新幹線で那須に戻ると「あぁ、ただいまーーー!」と心底ほっとするのだ。
まだ4ヶ月しか住んでいないのに。
この先のことはどうなるかは神のみぞ知るだから、ひとまず置いて。
都会には行く、でも都会とも距離を取る。
そんな地方移住によって、日常は大きく変わった。
結果、私自身は穏やかになり、自分自身の感覚や感情を少しずつ信じたり感じたりできるようになった。
夫も穏やかになり、忙しなさが和らぎ、一緒にいろんな出来事や感覚を分かち合うことがことが出来るようになった。
愛犬は自然の中での散歩が毎日楽しそうだし、感情表現が豊かになった。
よって、今回の移住は私の人生においてすでに「大成功」なのだ!
那須に導いてくれたすべてのご縁と流れ、そしてタイミングを逃さずにちゃんと決意をしてくれた過去の夫と私に心から感謝を。
都会に住むすべての人にとって地方移住が成功!正解!とは思わないけれども、ひとつの例としてこのnoteが誰かの一助になれたら嬉しい。
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