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エフェクターに付いているトリマーは触らない方がいいという話


導入

 売られているエフェクターの一部では、ユーザーがトリマーで調整できるようなものもあります。例えば以下のような製品ですね。Vemuramは製品のほとんどが筐体上部からトリマーにアクセス可能です。ディレイやモジュレーション系では素子が安定した動作点となるように調整されているものが多いです。また、ビンテージファズのコピーモデルを作っている場合は、トランジスタのバイアスを調整するために用いられていることもあります。今回はこの『トリマー』に焦点を当ててお話していきます。

そもそもトリマーとは?

 日本語では『半固定抵抗』と言います。半固定抵抗については以下の引用で説明されています。

ボリウムやポテンショメータなどの可変抵抗器は、セットのパネル面にツマミを付けてユーザが回すためのものですから、膨大な回数の設定が繰り返されることを想定して設計されています。これに対して、半固定抵抗器(サーメットトリマ , トリマ)は、機器内部で回路の抵抗値を微妙に合わせ込むことで、他の部品のバラツキなどによる個体差を取り除くトリミング(Trimming)のための部品ですから、設定される回数はわずかです。

https://jp.rs-online.com/web/content/discovery/ideas-and-advice/trimmer-resistors-guide

 日本語で半固定抵抗というように、一般的な可変抵抗とは異なり測定機器の較正のような1度きり(若しくはそれに近い回数)の調整をすることを目的としています。また、固定を前提としていますから、可変抵抗と比べて長期的な抵抗値の安定性に優れています

一般的な可変抵抗(Pot)との比較

 まず、例として東京コスモス製のトリマーのデータシートを見てみましょう。

引用元: https://www.tocos-j.co.jp/tocos-j-wp/wp-content/uploads/2019/06/GF063_Series-1.pdf

 表の上から2番目の回転寿命の項を見てみると100サイクルとなっています。

 100サイクルというのはどれくらいの値なのでしょうか?次に、エフェクター等で一般的に用いられるAlpha製の可変抵抗のデータシートを見てみましょう。

引用元:http://www.taiwanalpha.com/downloads?target=products&id=94

 表の一番下、"Rotation Life"項を見ると、15,000サイクルとあり、トリマーと比べると100倍以上寿命が長いことがわかります。測定条件が異なることから厳密に比較することはできませんが、とにかく可変抵抗の方が桁違いに回転寿命が長いことがわかると思います。

 東京コスモスに限らず、Bourns製のトリマーであっても200サイクルとある(下リンク先にデータシートがあります)のでメーカーに限らず、トリマーは数百サイクル程度で寿命であるといえます。

何が問題か?

 前項でトリマーが可変抵抗と比べて桁違いに回転寿命が少ないことがわかったと思います。一般に回転寿命を超過すると、全抵抗値(1,3番の端子間の抵抗値)が基準値内に収まることを保証できなくなります。東京コスモスのトリマーの場合は±(2Ω+3%)が基準となっているようです。

 導入で挙げた例のうち、空間系やモジュレーション系の場合では基本的に調整は出荷前の一度きりで問題なさそうですが、Vemuramのようにユーザーがアクセス可能な場合どうでしょうか。(ビンテージファズの場合、そもそもトリマーを使っている場所にも問題がありますが、それについては長くなるので今回は割愛します。今後noteで書きますので、是非フォローしてお待ちいただければと思います。)

 抵抗値だけ見ると、そこまで抵抗値にシビアではないエフェクターでは問題ないように感じます。ですが回転寿命から考察できることとして、割と現実的な回数であっても回せば回すほど、設計時の抵抗値から離れ、摺動ノイズが増え、接点不良が起こるリスクが上がっていきます。接点不良になれば意図した音が出なくなったり、最悪のケースでは音が出なくなります。

 そもそも機械パーツ全般に当てはまる話ですがほとんどの場合において、寿命になった瞬間それまで元気だったのに突然ポックリ逝く訳ではありません。徐々に劣化していき、寿命はあくまでメーカーの基準値から外れることを保証できなくなることを示すものです。

対策

 本来はユーザーがアクセスできないところに実装するものなので触る機会はないはずです。そうでなくても、一番の対策は触らないことです。そもそも半固定抵抗は名前の通り、固定することを前提としていますから日常的な調節は考えられていません。常識的な設計であれば、ユーザーが触ることは想定されていないでしょう。仮に、ユーザーによる調整の余地があるのであれば一度調整して、あとは触らないように気を付ければいいと思います。筐体を開けずともアクセスができる場合はマスキングテープとかで封印してしまいましょう。

 問題になるのは中古で買った時です。前のオーナーがどれくらい触っているかは買ってみるまで分からないですし、触りすぎて劣化している可能性も十分考えられます。そういった製品の中古は避けるのが無難です。中古で買った場合無償修理も受け付けられない場合がほとんどなので、修理の場合は余計な出費となります。

まとめ

 結論としては、ユーザーは『触るな』です。回路設計に関係なく100回程度回せば寿命ですから、調整は必要最小限に留めるべきです。

 それ以前に、ユーザーがトリマーを調整するという設計自体有り得ないものですからメーカーは反省してください。仮に半固定抵抗に関する知識が無くてもデータシートを読めば一目瞭然ですから、そういった設計をしているメーカーはデータシートを読んでいないことがバレバレです。

 今回は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。

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