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いつまでも蕎麦にあると思っていたよ

夫と付き合っていた頃、お気に入りのおそば屋さんがあった。
島の外にデートに行ったときは、早めの夕飯としてそこのつけ蕎麦を食べて、最終の船に乗って帰るというのが、我々の定番コースだった。

メインのメニューは鶏のつけ蕎麦。
ラー油の効いたピリ辛のつけ汁に、ぷりぷりの鶏肉。たっぷりのきざみ海苔。
生卵を投入すれば、まろやかな味になるところもお気に入りポイント。
最後に行ったのは、いつだっただろうか。

結婚して、わたしたちは夫の地元に引っ越した。
ほどなくしてコロナウイルスが流行し、わたしの地元に帰ることも、ままならなくなった。

なんとなく、自粛のムードも落ち着いてきた頃、久しぶりに実家に帰省した。
両親や祖父母の元気な姿をみて、安心した帰り道。時間があったので、お気に入りのおそば屋さんでお昼食べて帰ろうという話になった。

「あそこ美味しかったよね」「久しぶりだね」とワクワクしながら、開店時間を調べるために、お店の名前を検索した。

「ねえ、夫くん。おそば屋さん無くなっちゃった」

スマホの画面には、お店の名前と閉店の赤い文字。

夫もわたしも、ものすごくショックだった。
「おそば屋さん無くなっちゃった」「悲しいね」
二人ともしょんぼりしてしまい、結局その日のランチはどこで食べたのか覚えていない。

あの頃、そうやってひっそり無くなったお店が結構あったように思う。
あのおそば屋さんも、ほんの数ヶ月前まで、新メニューの写真や、「出前もします」という内容が、SNSに投稿されていた。それが余計に寂しかった。

「最後にもう一回食べよう」ということもできないまま、あの鶏そばはわたしたちの前から消えてしまった。

この話を書きながら、わたしの頭の中には、向かい合ってお蕎麦を食べる我々夫婦の姿が浮かんでいた。


珈琲次郎さんの、仲良し夫婦サークルに参加しました。
今週のテーマは「パートナーとの特別な料理」

二度と食べられない幻の鶏そばのお話でした。








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