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『マリアブロン修道院からの旅』:ヘッセからKansasへの文学的旅路

「Journey from Mariabronn」という曲があります。
KansasのファーストアルバムのSide 1の最後の曲です。
この曲の邦題は「栄光への旅路」です。
ちなみに英和辞典には「Mariabronn」という単語はありません。
私は、ヘルマン・ヘッセを読むような子供ではなかったので、この曲の真意は相当長い間分かりませんでしたし、あろうことか、この邦題のおかげで、長年の間「Mariabronn」という単語は「栄光」のことなのかと思っていたほどでした。

1994年7月にThe Kansas Boxed Set(2枚組CDのコンピレーション)が発売され、そこに、Kerry Livgrenが書いた解説が載りました。そこで、初めて、この曲が、ヘッセの小説『ナルチスとゴルトムント』に由来しているということが分かったのです。

「ナルチスとゴルトムント」を読めば、冒頭に、いきなりこの名前が登場します。

マリアブロン修道院の入り口、二重の小さい柱にささえれられているアーチ型の門の前に、すぐ道にそって、一本のカスターニエンの木が立っていた。」

「知と愛」ヘルマン・ヘッセ 髙橋健二訳

修道院の名前だったんですね。
ヘルマン・ヘッセはMaulbronn(マウルブロン)修道院の神学校に、1891年から1892年まで在籍していました。この経験は彼に大きな影響を与え、その後の彼の作品にも反映されています。ヘッセは、この修道院での学びや生活が厳格であったため、神学校に対する反発や精神的な葛藤を経験しました。これらの経験は、この作品の重要な要素となっています。その「Maulbronn」の変名が「Mariabronn」であったようです。

世界遺産「マウルブロン修道院」

小説の詳細を書いてしまうのはいかがかと思いますので差し控えますが、「Journey from Mariabronn」の歌詞の翻訳を見てください。

二人が共に始め、一つとして生きた
互いに他者よりも深い友となり
共通の目的のために生きる
彼らは真実であり、お互いが全てが順調であることを知っていた

それでも年長者は、これが続かないことを知っていた
若者の過去の隠された記憶が
彼らを引き離した
二人とも、心の奥底で分かれる必要があることを知っていた
それぞれが独自の道を行く

私には不思議でならない、こんなにも近くにいながら世界は違う
そうか、私の記憶が初めから私の人生を引き裂いたのか
悪魔に叫んだ、私を放っておくように
天に呼びかけた、私を解放してくれるように
今日、答えを祈ったが、空の神々は誰一人として救ってはくれない

若者の心には富の夢が満ちる
希望を見つけるために世俗の方法を学ぶ
愛を求めて道を探る、光の日を見つけるために
彼の魂には、彼自身の道が見つかっていた

しかし、やがて二人は互いに戻る
運命が果たされ、彼らの言葉は永遠の炎を燃やす

by GPT4

「マリアブロン修道院からの旅」(Journey from Mariabronn)は、ヘルマン・ヘッセの『ナルチスとゴルトムント』の物語から強い影響を受けています。この曲は、ナルチスとゴルトムントの友情、彼らがたどる人生の道、そして最終的にはそれぞれの運命に向かう過程を象徴的に描いています。ナルチスとゴルトムントは、修道院で育ちながらも、全く異なる人生を歩むことになります。ナルチスは精神的な追求を続け、修道士としての道を選びます。一方、ゴルトムントはより感覚的で世俗的な冒険に身を投じます。彼らの物語は、個人的な発見と成長、そして深い人間関係の探求を描いており、Kansasの曲もこれを反映した内容となっています。

「栄光への旅路」というタイトルは、「マリアブロン修道院からの旅」という直訳や、『ナルチスとゴルトムント』の具体的な物語内容からは乖離があります。

元の曲名「マリアブロン修道院からの旅」や小説のテーマは、個人の内面的な成長や精神的な旅に重点を置いていますが、日本でのタイトル「栄光への旅路」は、もっと広範で普遍的な成功や達成を想起させます。このようなタイトル変更は、マーケティングの戦略に基づくことが多く、「栄光への旅路」というタイトルは、日本の聴衆にとって曲のテーマがより壮大で感動的に感じられるよう意図されたものだと思われます。

または、レコード会社の担当者やタイトルを決定するラインにいた方々が誰一人ヘッセのこの小説を知らなかったかどちらかです。もし知らなかったのだとしたら「Mariabronn」という単語の意味は知るよしもありませんから、壮大な曲調を聴いて適当につけたってことになりますね。本当のところはどうなのでしょうか?

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