それとこれとは話がべつ
コードバン側のステッチ部分の広範囲切れの修理で持ち込まれたベルト。コードバンの切れた箇所の裏に革を充てがい二本ステッチを入れて補強するという案で外注先に見積もり。ベルトの山部分にステッチを走らせるとステッチが歪むとのことで修理の仕上がりが良くなく修理代金に見合う仕上がりではない。お客様にそのことを伝えると修理キャンセルとなりベルトはそちらで処分してほしいとのことでそのベルトを私がもらいました。イレギュラーな修理というかカスタムでベルトとして使えるようになるのではとこういったベルト作製をしました。
ここでなぜこのアイデアをお客様に提案しなかったかというと、私がこの作業をやるとなると自宅でのミシンと漉き機を用いての作業となり就業時間外の仕事になること。その仕事をやることで何かしら手当がつくかといえばつかないこと。このアイデアを外注先の職人に伝えお客様とその職人の間に入ってやりとりをお客様と職人に伝えることも出来ないわけでもないのですが、正直そこまでの労力をする気になれない互いの要望を正確に伝えることに無理が生じること、どちらかといえばリスクのほうを強く感じてこのアイデアを提案することはしませんでした。自分の店で店内にそのミシンがあり自分が作業しお客様と直接打ち合わせが出来る環境ならそのアイデアを提案しやっていたかもしれません。仕事のやり甲斐と自分に入る収入と仕事量を考えればやり甲斐のみで仕事を受けることには抵抗があります。この提案をお客様に伝えないことで修理キャンセルになっても勤めている会社からしてみて損だと見られませんしたとえその提案でベルトを仕上げてお客様が喜んでくれたとして作業した自分の給与が上がるわけでもなく自分のプライベートの時間を削ることになるとそれをやる理由は少なくなる。
出来る出来ないは腕の良し悪しとはまた違うところに関係することがあります。
仕上がった二本のベルトはとても気に入っていますし満足感と達成感も得られ経験にもなったのでとても良かったです。私にとってお客様に喜んでもらうことは一番ではなく、自分が楽しんで出来ること失敗したとして自分だけが気にすれば良いということ他者が介在しないことでストレスがないことのほうを優先してしまう。
出来る出来ないと腕の良し悪しは違う、修理やカスタムはビスポークに近いとも感じる。
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