見出し画像

お酒と私。私と同居人。

うだる暑さだった今年の8月、34歳の私は、彼氏と一緒に、アメリカのカリフォルニアから千葉県にやってきた。

私たちは、千葉に来る前、北カリフォルニアのパロアルトという場所で出会い、しばらくそこで暮らしていた。パロアルトは、いわばシリコンバレーの中心地であり、スタンフォード大学があり、Apple社創業者の故スティーブ・ジョブズの家もある。
私たちは、そのきらびやかな場所で、珍しく三流大学出身同士であり、いたって平凡な会社に所属、そして志向も、極めて庶民体質だった。一方で、私たちはアメリカと深い関係を持っており、アイデンティティは複雑だった。

私たちは、学生時代、プロの音楽家を目指していた。本気で音楽に魂を注ぎ、砕け散った。挫折したからこそ見えてくる世界を、私たちは共有していた。
そんな私たちは、初めてのデートでサンフランシスコ交響楽団のコンサートに行き、その後家でBill EvansのBGMを流しながら、スーパーで買った15ドルくらいのカリフォルニアワインを、チーズと共に楽しんだ。音楽の話、アメリカの話、家族の話、私たちは、ときに饒舌に、ときに途切れ途切れになりながら、会話をした。

それからというものの、毎週末パロアルトの家で、さまざまな音楽をBGMに、ワインを2人であけるようになった。お互いのアイデンティティを語り合い、酔っ払って、2人で寝た。次の日は二日酔いで、大抵の場合2人とも一日中寝ていた。

私たちは付き合うようになり、やがて週末のワインの時間に、ひとりふたりとメンバーが加わるようになった。研究者、専業主婦、起業家、資産家、さまざまな人と、ワインを片手に語り合うようになった。

本当に多くの人と語り合ったが、私たちは個人の持つ苦しみや悩み、喜び、考え方、価値観、こんなものをアップデートしたい欲求にかられていたように思う。そこには、いわば精神性を高め合いたい物同士の、独特の空間があった。

私たちは、その生活に一区切りをつけ、今、千葉に住んでいる。
そして、私は今、近所のお酒のセレクトショップで働き始め、日本酒の勉強をしている。
今は、同居人と、週に一度くらい、2人で日本酒を飲んでいる。語り合う話は特になく、どうでもいい話を私が一方的にしている。
人を招いて家で飲む計画をたてるも、日程は決まらずじまいだ。
そんなこの千葉の生活も、なかなか味わいが深く、染み入るものがある。

そろそろ鍋の季節だ。カセットコンロと電気鍋をどちらを買うかをたまに話し合うが、結局まだ買っていない。
鍋に合う日本酒は、すでに用意してある。
さて、どんなBGMを流そうか。私たちは、いつか鍋をする日を思い描き、今日も生活している。

#いい時間とお酒

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?