角野栄子さんへ
拝啓 角野栄子様
先日、角野さんが館長を務める「魔法の文学館」へ初めて行きました。
そこで私が思い出した、とても大切な記憶があります。
小学生の頃、私は自分の家が安心できる場所ではありませんでした。友達との付き合いもうまくできない子でした。寂しい時、つまらない時、むしゃくしゃした時。
そんな時私が行くのは家の押入れ。
家の押入れを開けると、ぎっしりと入った本の背表紙が並んでいて、それを指で追いながら、今日会いたい人、今日行きたい国、今日見たい景色を私は頭の中で想像して、その本を手に取り、その場で寝そべってその世界へ入っていったものです。何度も何度も読むことで、本は私にとって〈とても近い〉別世界でした。その登場人物は、私が〈よく知っている〉人でした。角野さんがいう「本と友達になってくださいね」とは、そういう感覚なんじゃないかって思いました。
私の母は、私にとても厳しかったけれど、本だけは惜しまずに買ってくれました。
休みの日になるといつも本屋さんに連れて行ってくれました。あの頃は気づかなかったけど、両親がたくさんの本に出会わせてくれたことが私をこうして幸せにしてくれたと思います。
魔女の研究を、世界中を旅してされたんですね。
再現されていたアトリエに、見たこともないような魔女に関する分厚い本がたくさん並んでいるのを、私は目を輝かせて眺めました。実は私、今さらなのですが、「ハリーポッター」にハマっているのです!初めて書籍であの物語を読んでいます。魔法の図鑑も買いました。ハリーポッターを書かれたあのJ.K.ローリングさんも、角野さんと同じように、書き始めた時は主婦だったとか。きっとJ.K.ローリングさんも魔法について熱心に研究されたのかな、と私は角野さんとJ.K.ローリンングさんを重ねて想像していました。
角野さん、私も角野さんと同じ年頃に、書くことを仕事にしたいと決意しました。角野さんの経歴を見ると、憧れちゃう。そんな立派な経歴や、そんな立派な受賞歴も私とは無縁かもしれない。
だけど、一つ。
きっと、あの頃の角野さんと今の私は同じ。
子ども時代に、絵本や児童文学を手にとって、震えた心、熱くなる気持ち、本をひらけばどこへでも行ける、どんな人にも会える、あのワクワクした気持ちを小さい頃から私は与えてもらいました。
すごく遠い方だけど、きっとすごく近い方だって、あの魔法の文学館へ行って思ったんです。
今、5歳の娘が角野さんの「おばけのアッチ」が大好きです。角野さんの作品の登場人物のセルフって、とても〈子どもらしくて〉。正直に怒ったり、すねたり、喜んだり。今の時代に、〈子どもらしさ〉は尊いです。少しおりこうタイプの娘に、私は角野さんの作品をたくさん浴びせてあげたいなって思って、文学館のお土産に娘に「りんごちゃん」の本を買って帰りました。娘はこの本をとても気に入ったのですが、りんごちゃんより、チャンピョンくんが好きだそうです。
最後に、文学館で出会ったこの言葉をここに残させてください。
私にとって、〈絵本や本との思い出〉は、まさに〈私自身の生きる力〉でした。
押入れにいた私の思い出は決して孤独で悲しいものではなくて、
自由と広い世界に胸をワクワクさせていた、希望の自分自身でした。
敬具
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