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記念誌がかなり面白い

私は庶務課でもなんでもないのですが、会社のかつて倉庫だった部屋で一人、ノートパソコンを広げて仕事をしている怪しげな男です。そんな事情があるため、部屋の中にはミシンがあったり、遺影があったり、大量の社内文書が保管されていたりと、摩訶不思議なものを今でも発見したりします。

約1年前のことだったでしょうか。そんな部屋の本棚の中から『天神の旗~都心界四十年の歩み~』(平成元年発行)という記念誌を発見したのですが、これがかなり面白い。だいたい都心界って何よと思って読んでいくと、戦後間もない昭和23年に、福岡市の天神地区のデパート(すなわち現在のパルコビルにあった岩田屋デパート)と、そこを取り巻く4つの商店街・市場(新天町、西鉄街、因幡町商店街、天神市場)が結束して発展しようとのことで発足した会だったらしいのです(そして今でも存続しているようです)。発足当時は岩田屋顧問だった神戸大学名誉教授(当時)の平井泰太郎氏から「福岡は東京都みたいに都じゃない。福岡都とはまた大きくでたもんですねえ」と冷やかされたそうですが、当時の都心界メンバーは「いつか博多地区を追い抜く福岡の都心にしよう」との野望は持っていたと思いますが、天神地区が西日本を代表する商都になるとは思ってもみなかったでしょうね。

というわけでこの記念誌から様々なことを学びました。詳しくは過去記事を読んでほしいのですが、

〇天神とは明治通りの天神様(菅原道真)を祀る水鏡天満宮が由来。水鏡天満宮は道真が大宰府への都落ちの途上、水面に移った自身のやつれた姿を見て嘆いたという故事から薬院中庄(現在の中央区今泉)に建てられたのち、初代黒田藩主が福岡城から見て鬼門(陰陽道によれば東北)を封じるために今の場所に遷移させた。


水鏡天満宮(Wikipediaより)

〇因幡町(現在の天神1丁目付近)の由来は黒田24騎(長政を入れれば25騎)の一人である衣笠因幡景信の屋敷があったからであり、天神・因幡町一帯は黒田節で有名な母里太兵衛など大身武士の屋敷が散在し、人影まばらな閑静な屋敷街だった。

衣笠因幡景信(Wikipediaより)

〇明治43年の第13回九州沖縄8県連合共進会(共進会)の会場となるのに伴い、福博電気軌道と博多電気軌道(共に西日本鉄道の前進)のチンチン電車の交差点となり、肥前堀を埋めて広大な敷地を作ったことが天神地区の飛躍のきっかけ。

〇とはいえ大正13年当時でも天神町交差点の交通量は1日534人(!)。大正14年には九州鉄道の急行電車(福岡-久留米)が開通し、天神交差点に福岡駅ができるが、県庁、市役所、福岡日日新聞社など公官庁の街並みとなっていく。

天神交差点(昭和42年)

〇公官庁街だった天神が商業の街に変わるきっかけは、昭和11年に天神交差点に進出した岩田屋デパートだが、博多部ではなく福岡部に進出したことに「あーあ、これで岩田屋さんも立派にしまえ(破産)なさる」と気の毒がられたという。

旧岩田屋(現福岡パルコ、Wikipediaより)

〇昭和20年の福岡大空襲で焼け野原になる。戦後、闇市が発生するが、国は闇市を廃止し、引揚者や戦災者に商店街を供与する。

西鉄街跡地に「天神コア」が建てられ、天神のシンボルとなるが、現在は解体(Wikipediaより)

――といった感じで今の天神の礎ができるのですが、その後は、第1次から第6次におよぶ「天神流通戦争」により切磋琢磨され、本当に商都と呼ばれるようになるのですね。

ところで、高島宗一郎・現市長が高層ビル建て替えを促進する「天神ビッグバン」を掲げたことで、商都天神は岐路に立っています。因幡町商店街の跡地に建てられた「天神ビブレ」、旧西鉄街の「天神コア」、西日本鉄道の本社があった「福岡ビル」はいずれも解体されました。三位一体になり2025年春にオープンする新福ビル(仮称)の下層階は商業フロアになりますが、中層・高層はオフィスフロアになります(最上階はホテル)。そのほかイムズやらメディアモール天神やらがいずれも解体され、現在は爆心地のような更地に一生けんめい重機が動いている状態です。


「天神ビッグバン」第一号の天神ビジネスセンターは開業したものの、渡辺通東側はいずれも工事中。

渡辺通りの東側はそんな状態なのですが、西側の天神西通りもアパレル店が徐々に撤退しており、空き室が目立つ状態です。オフィスの空室率も臨界点といわれる5%をついに超えてしまい、福岡市の地価が高騰する中、天神地区のみが横ばいという状況になってしまいました。

天神を愛するものとして、本当にこれからどうなっていくのか、心配でたまらないのですが、これからも天神の歴史と未来を注視していきたいと思います。

ちなみにこの記念誌をきっかけに、以下の記事を書いたのと、ウィキペディアにも「因幡町商店街」という記事を載せました。よかったら読んでね。

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