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民間法制審議会家族法制部会部会長 弁護士・北村晴男さん衆議院 法務委員会 共同親権法案 令和6年4月3日【文字起こし】

衆議院 法務委員会 共同親権法案

令和6年4月3日


012 民間法制審議会家族法制部会部会長 弁護士・北村晴男

◯民間法制審議会家族法制部会部会長 弁護士(北村晴男 君) 

まず、このような機会を与えて頂き、ありがとうございます。

今回の法案につきましては、新聞等で原則共同親権などと見出しを打っているものがありますが、この見出しは誤りでございます。共同親権も選択可能にというのが正解です。この法案は、海外に向けて「わが国も共同親権にしましたよ」というアピールができるという意味では、意味があるのかもしれませんが、原則共同親権とは、程遠い内容であり、その実態は骨抜き共同親権、まやかし共同親権でございます。

まず、最初に、大事な事ですので、なぜ、私が原則共同親権にすべき、と申し上げるのか、この理由をご説明します。

説明の便宜上大部分の子どもや、親に当てはまる理由や事情についてお話します。

立法行為っていうのは、最大公約数に寄り添って、そして、例外的なものを充分救済する。これが当たり前の事ですので、これを先に申し上げます。
これまでわが国が採用してきた、離婚後単独親権という制度は、子どもも親も不幸のどん底に突き落とす、とんでもない悪法でございます。

子どもは親が離婚すると、それだけで大きな悲しみを味わいます。のみならず、単独親権の下では、親が離婚すると自動的に大好きな親をひとり失います。そして、それに連なる祖父母・親戚もすべて失います。子供にとって双方の親から、双方の祖父母から、双方の親戚から、愛情を持って育てられ、見守り見守られ重層的に見守られながら成長する事、これが極めて重要である。

そもそも、そういう生活を子どもは望んでいます。子どもは、パパにもママにも、父ちゃん、お母ちゃんにも、しょっちゅう会いたいんです。

離婚後単独親権は、こうして当たり前の幸せを奪うとんでもない悪法です。
子どもは無力であり、両親の離婚を止めることはできません。

だから両親と一緒に住む事は出来ない。けれども、せめて、日常的にふたりの親と、それぞれ一緒に生活する時間を充分に取ってあげなければいけない。これが社会の義務である。国の義務でございます。

これまでのように、例えば、母と一緒に暮らす子どもが、父親とひと月に1回、監視付き試行的面会交流施設でしか会えない、などというのは、子どもや父親の人間性を無視した間違った制度です。

離婚後単独親権という制度は、子の幸せと成長の機会を同時に奪う、とんでもない悪法なのでございます。加えて、例えば、親権を獲得した母親は、自分が嫌いになった元・夫にわが子を会わせたくないと考える。そういうケースが多いです。そのため、父親と会ってきたわが子が、楽しそうに父親について語ると、顔を曇らせ不機嫌になります。子どもは、母親の感情を敏感に感じ取り、父親の話をしなくなるばかりか、間もなく、大好きだった父親に会いたくないと言い出し、父親を嫌悪し、激しい誹謗中傷を繰り返すようになる。これが、片親障害症候群です。

一緒に暮らす母親の愛情を失わないため、子どもの生存戦略であります。気の毒としか言いようがありません。こうした中での子どもに掛かるストレスや、子どもに及ぼす悪影響は、計り知れないものがあります。

では、親にとってはどうでしょうか。単独親権制度では、離婚すると、必ず一方の親は愛する子を失い、それに連なる祖父母・親戚。祖父母は孫と2度と会えなくなります。これによる悲劇が全国各地で起きており、子どもに会えない絶望から自殺される事例も少なくありません。

弁護士をしていれば、子に会えない親、孫に会えない親、祖父母の嘆き悲しむ姿に心を痛めた事のない人は少ないでしょう。

そのために、必然的に親権争いは苛烈になり、父親・母親は、それぞれ本来全く必要のないはずの、多額の弁護士費用を払うことになり、儲かるのは弁護士だけというとんでもない事態を生んでいます。

弁護士は、どこの夫婦にでもある、取るに足らない程度の夫婦喧嘩でさえ、DVがあったと主張し、DV主張合戦に発展する事も多い。それが、親権獲得のための法的テクニックであるとか、あるいは虚偽DV訴訟、と言われて社会問題化しており、我々弁護士が認識するだけでなく、裁判官も異例の指摘をするに立っています。

資料1をご覧ください。このような事態は、現に世の中に存在する救済可能な深刻なDVを埋もれさせてしまう、と。そういう恐れすらあるんです。
つまり、子にとっても親にとっても、人間性に反するとんでもない悪方が離婚後単独親権。そういう制度です。

これに対し、離婚後も、父親と子ども、母親と子ども、それぞれの交流を充分に行うことが出来る離婚後共同親権。これは人間として当たり前の制度であり、先進・欧米諸国では、早くから『単独親権の非間性』に気付き、共同親権制度に移行して30年、40年の実績を積み重ねています。

海外の映画やテレビドラマを観れば、父親・母親・子ども、双方の祖父母・父親・母親の再婚相手などが、当然の制度として、受け入れる社会に浸透している事がわかります。

日本で、一部主張されているような、共同親権になれば、元・配偶者による暴力は防げないであるとか、子の虐待につながるなどという実態はありません。

この主張は、日本人だけが共同親権の下では、元・配偶者による暴力を防ぐ、制度設計が出来ない無能なものである、という風に言っているのに等しいものです。

他方、日本では、両親の離婚後に、母親の恋人や、再婚相手から子どもが虐待され、死亡にまで至るという悲惨な事件が後を絶ちません。心に問題を抱えた母親が、単独親権者となり、子どもに手を掛けてしまった事例もあります。

資料2をご覧ください。

これらの事件は、共同親権制度の下で、父親による日常的な見守りがあれば、早い段階で、子に対する虐待の痕跡などを発見する事が出来、これらを防ぐ事が出来た可能性は充分にあるのです。そのところ、よくお考え頂きたい。

では、原則共同親権とすべき、との立場から、この法案がいかに骨抜きなのか、まやかし法案なのかについてご説明いたします。
そもそも、政府が共同親権の検討法制審議会に促したのは、国際結婚での『子の連れ去り問題』で、日本が国際社会から、『子どもの拉致国家』という不名誉極まりない非難を繰り返し受けた事、これが原因です。これが契機です。

国際結婚で海外に居住していても、長年にわたる悪法、離婚後単独親権に慣れきった日本人の妻は、夫と別れたいと考えると、全く罪の意識なく、突然、子どもを連れて帰国し、居住国の司法当局から、拉致誘拐犯として逮捕状が発行され、国際指名手配を受ける事になります。

これは、日本人の妻が悪いのではありません。長年の悪法によって、国民を洗脳し続けた法律の問題です。法律が、悪いんです。

日本は、ハーグ条約加盟国ですから、こういった場合に直ちに子どもを元の居住国に返せば何の問題もない。しかし、日本はハーブ条約の国内実施法に、巧妙且つ不合理な抜け穴を用意し、子どもを返さない。その抜け穴は何かというと、『子どもを連れ去った者が、連れ去られた者から、暴力などを受ける「おそれ」がある場合』、この場合には子どもを返さなくてもいいという、返還拒否事由です。

この規定を盛り込ましたために、日本の裁判所は、この『おそれ』、この『おそれ』を、簡単に認めてしまうために、子を返さないんです。子どもを返さない。

これは、ハーグ条約にはない情報です。ハーグ条約では、DVとの関係では、『子どもが虐待を受ける重大な危険がある場合』しか、返還を拒めないんです。これ、当たり前なんです。

なお、この抜け穴条項の暴力などには、『子どもに心理的外傷を与えるような暴力など』、というもっともらしい限定が付されていますが、この限定は、日本の裁判官に判断不能なんです。だから、結局この『おそれ』は、結局、裁判所が簡単に認めてしまって、機能しませんでした。

そのため、連れ去られた子どもを返そうとしない日本は、『子どもの拉致国家』という、極めて不名誉な非難を浴びる事になったのです。

連れ去った者に対する、暴力の『おそれ』がある場合、そういう場合には、警察の助力を得るとか、親族などの第三者が元の居住国に子を連れて行くとか。連れ去られた側に日本に迎えに来てもらう、など。工夫次第で、いかようにも対処可能であるにもか関わらず、返還拒否事由に強引に入れてしまっています。不合理、極まりない。

これは、女性を暴力から守る、という誰もが認める大義名分を必要以上に、過度に強調する事によって、本来の立法目的を歪めてしまった例です。

そして、この日本のハーグ条約・骨抜き条項と、全く同じ条項がこの法案にも、盛り込まれています。それは何かというと、この法案によれば、例えば、母親が自分だけを親権者にして欲しいと主張。父親が、共同親権にして欲しいと主張した場合。こういうケース。裁判所が、これをどちらか決めるわけですけど、その判断基準の中に、父母の一方が、他の一方から暴力などを受ける『おそれ』があれば、単独親権とせよという規定があるんです。
もっとも、共同親権とすると、その場合にですね、『子の利益を害すると認められるとき』という限定条項は付いてはいますが、裁判所には、これも判断不能です。

これはハーグ条約・骨抜き条項と全く同様で、歯止めには100%なりません。

これは、『単独親権誘導条項』ともいうべきものです。

母親が父親から暴力を受ける『おそれ』があれば、子どもの受け渡しは、親戚などの第三者に任せるとか、第三者機関に委ねるとか、場合によっては、警察の助力を得る、弁護士の助力を得るなど、工夫次第でいかようにも防ぐことが可能です。にも関わらず、女性を暴力から守るという大義名分を過度に、不必要に強調した結果、この共同親権が骨抜きになっているんです。
ハーグ条約では、そもそも、ハーグ条約加盟・絶対反対!という活動家の方々がおられ、その方々の強力な工作によって、意図的に国内実施法に抜け穴が造られましたが、この法案の場合も、共同親権・絶対反対!という活動家の方々。その方々の強力な工作によって、この骨抜き条項が、『単独親権誘導条項』が設けられています。

そして、この『単独親権誘導条項』を含めた法案全体に蔓延っているのは、ある、とんでもない認識です。これは誤った認識です。それは、共同親権制度はそもそも仲のいい元・夫婦同士でしか機能しないんだ。高葛藤の凄く仲の悪い元・夫婦間では、単独親権がいいんだ、と、この誤った認識が、共同原則、共同親権の実現を阻んでいます。

しかし、かなり、仲の悪かった夫婦でも、知恵と工夫次第では、円滑に共同親権を行使できる制度を設計する事が可能です。

そして、それこそ、これまで親の離婚によって、取り残されてきた子どもの福祉に適うものです。欧米に、良い模範となる国が数々あるのですから、制度設計は、実に簡単です。我々、民間法制審議会は、欧米の専門家も委員に迎えて、次のような共同親の制度設計を行ない、改正条文を作成しました。

一、未成年の子どもがいる夫婦における、離婚の届出に当たっては、共同監護計画の提出を義務付ける。その際、子供が進学先など両親の意見が異なる場合の決定方法を、予め決めておく。

二、未成年の子供がいる夫婦の離婚に当たっては、両親に離婚による子どもの心身に対する影響や、子どもを傷つけないために注意すべき言動などについて、学ぶガイダンスの受講を義務付ける。

三、共同監護計画の作成や、その変更等について、両親の協議が整わない場合に、気軽に利用できるADRを整備する。裁判所に、いちいち頼る必要は全くありません。

四、子どもを傷つける恐れのある親と、子の交流については、毎月、面会交流施設の利用を促す。

五、元・配偶者に対する暴力などの恐れがあると懸念される場合には、共同監護に必要な、子の受け渡しに当たって、第三者機関を利用し、場合によっては警察の助力を得る。

共同監護計画の義務付けに関しましては、共同親権制度を中身のあるものにするために、極めて重要である。我々は認識しています。

共同監護計画というのは、離婚する夫婦が行う、子の養育に関する取り決めの事です。養育費も、当然含まれています。私たち、民間法制審議会は、離婚の際に共同監護計画を作成して、これを離婚届に添付する事、これを義務付ける、制度を提案しました。

共同監護計画の作成は、他の先進・諸外国では、当たり前の制度ですが、わが国ではこれまで存在しないどころか、議論さえほとんどされていません。
残念ながら、今国会では、我々の案は議論の俎上にさえあがっていませんけれども、共同監護計画策定の義務付けこそが、真に子どもの利益を第一に置いた共同親権制度の肝なのです。

考えてみて下さい。わが国においては、離婚は、協議離婚は、夫婦が署名・押印さえすれば、紙切れ1枚で簡単に出来ます。裁判所も含めて、誰もが離婚の際に一番重要なのは、「子どもの福祉だ」と口にします。にも関わらず、離婚の90%を占める協議離婚に於いて、子どもの事について、何も決めなくても、紙紙切れ1枚で離婚出来てしまう。こんな矛盾、理不尽はありません。

本法案で、子の共同監護計画に作成に関する条項が一切、盛り込まれなかった事は、我々、共同法制審議会・民間法制審議会だけでなく、広くこの問題に関心を寄せ、出てこられた国民にとって、痛恨の極みです。願わくば、この法案が成立・施行された、その実施状況に鑑み、早い時期に改めて、子の共同監護計画の義務付け導入について議論して頂きたい、と強く希望しています。

ちなみに、我々、民間法制審議会の案では、例外的に単独親権にする必要がある場合は、条約では、子が虐待を受ける重大な危険がある場合に該当するんですが、その場合に、現行に規定されている、しかし、現在ほとんど死文化している『親権喪失』または『親権停止』の規定を積極的に活用する事で、対応するべきだと考えています。

親権喪失や親権停止に該当する事由もなく、ただ離婚しただけで、親権が奪われる。現行制度の、制度としての大変バランスの悪さ、これも是正して頂きたい、というふうに考えています。

いずれにしても、最初に申し上げた原則共同親権こそが、子の幸せのために、親や祖父母が人間らしく生きるために、取り入れる唯一の制度であるという事を、ご理解下さい。

そして、離婚にあって、『親子の絆まで断ち切る』という、愚かな行為を、もうやめ、本当の意味で、子の幸せを一番に据えた、民法改正をお願いしたいと思います。

ありがとうございました。

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