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悪天候だからこそ、アルウィンが熱い。~カーテンの向こう側に見えた景色~


山雅サポの朝は早い。

キックオフは14時なのに、8時半にはアルウィンに到着しているサポーターがいるくらい、早い。

なぜそんなに早いのかというと、彼らの多くが開場までピクニックを楽しんでいるからなのだが、その話は晴れている日にするとしよう。


信州の民は、まるで風の谷の住人である。
山と空、そして風を読んで天候を察知するのだ。

私、薄荷はっかも、そんな地元に暮らす松本山雅FCサポーターである。

西の山にかかる雲が稜線を霞ませ、窓を開ければ冷たく湿った風。
遠い南の空は、すでに降り始めているようだ。雲から地表まで、薄いグレーのカーテンが下りていた。

今日の降水確率は80%、天気予報には雷マークもついている。

いつでも着られるように合羽を詰め込み、鞄を守るための45Lポリ袋を忍ばせ、足元はワークマンの防水シューズという完全防備で出発した。

滝行は覚悟の上。松本山雅FC vs 藤枝MYFCの試合のため、サンプロ アルウィンに行くのだ。


限定おやきを手に入れろ!

雨予報も悪くない。晴れの日より混雑が少なく、行動にも自然とゆとりが生まれるからだ。

なんて呑気に構えていたら、最寄りの無料駐車場に到着したのは11時。わずか5分前に満車となったようだ。無念……。
気を取り直して、少し奥まった陸上競技場の駐車場に停める。同じく無料で利用できるのだが、開放されない日があるため、注意が必要な場所である。

アルウィンまで、歩いて15分ほど。
松本空港から走る滑走路の隣をゆく遊歩道。ここを通るとき、私はいつも心が弾んでしまうのだ。

右手の金網の向こうに滑走路が走り、いつ飛行機が来るかとワクワクする!

まだ雨は降っていない。
スタジアムの外観を視界にとらえながら歩く。ジメっと汗ばむ梅雨らしい気候に、雷予報ともなれば、道ゆく人は普段よりずっと少なく感じた。
しめしめ。

もちろん入場者数は多いほうが良いけれど、キックオフにはまだ3時間も余裕がある。

私には、いていたら真っ先に行くと決めている、お目当ての場所があるのだ。

おやき工房 旬菜花』さんの限定おやきは、対戦相手やイベントにちなんで具材を毎回変更する、人気のスタグルである。
5月の今治戦で、この感謝おやきは、なんと30分と経たずに300個が完売してしまい、私は食すことができなかった。

今日のものは、まだ買えるだろうか。

すでに長く伸びているスタジアム入場待機列に、一抹の不安を覚えながらもずんずん歩く。

お願い、残っていて……!


祈りながら到着したキッチンカーには、

ある!

駆け寄って、限定おやき「わいんりんご」をいただく。なんと、最後のひとつだった!ぎりぎり間に合った……。

お会計をしていると、厨房のスタッフさんが私に気づいて「薄荷さん!ありがとー!」と笑顔を見せてくださった。私は目立つミントグリーンのプラクティスシャツを着ているので、分かりやすいのだ。
手を振ってお礼を返し、列を離れる時の私は、さぞかし嬉しそうな顔をしていたと思う。

こういうやりとりが、食べる前から幸せな気持ちにさせてくれる。

スタジアムに到着して、わずか5分。今日、来てよかったなぁ。

温かくて、固めの蒸しパンみたいな触感。ガンズくんが可愛い。
ごろごろの角切りリンゴにワインが染み込んでいる。
生地はイングリッシュマフィンくらいのふかふか感。

わいんりんごおやきは、まるで和製のアップルパイのようだった。

鼻に抜けるぶどうの香り。温かいから、香りがよく広がるのだ。しかし口の中を満たすのはリンゴの風味と、シャキシャキの触感である。酸味はほとんどなく、カスタードクリームを思わせるまろやかな甘みが、舌の奥に後味となって残る。
じっくりと見てみたのだが、クリームは入っていなかった。どうやってこの味わいになっているのか、想像がつかない。

おやきが、上品なスイーツになっている。

旬菜花さんのおかげで、新たなおやきの可能性にまた気づいてしまった。
貴重なひとつを大切に食べて、ますます幸せな気持ちである。ごちそうさまでした。

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