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王神愁位伝 プロローグ 第2話

第2話 東塔と西塔


ー 前回 ー

ーーーーー


"ズキン、ズキン、ズキン"
「・・・うっ。」

オレンジ髪の少年が目を覚ますと、暗闇の中だった。
ひとまず身体を起こそうと力を入れてみるも、全身が刃で刺されているかのように痛く、上手く力を入れられなかった。
"ぬりぬりぬり"

そんな中、足元が何やらモゾモゾする。
オレンジ髪の少年が自身の足元に目をやると・・・

"ビクッ"
誰かいた。子供のようだ。ピンク髪の女の子・・・・・・・・。長くここにいる少年は、特徴的なピンク髪を見て誰か分かった。
ピンク髪の女の子は少年が起きたことに気づき、いきなり立ち上がるとそのまま駆けていってしまった。
少年が足元を触ると何か塗られていた。ツンと鼻につく匂いだったが、塗られた部分のみ肌の痛みが抑えられているようだった。

"シーン"
あたりは静まり返り、子供の泣く声も聞こえない。幸い、この敷地の建物は植物でどこもかしこも覆われており、フカフカの床のおかげで寒さなどはしのげていた。

「・・・労働の時間・・・・・。」

少年はボソッと呟くと、傷だらけの体を何とか起き上がらせた。
部屋の扉を開くと、外の光が差し込んできた。そんなに明るくないが、真っ暗闇の中にいた少年にとっては中々の明るさだ。
眩しそうに目をかすめながら、手のひらで光を遮った。

少しずつ光に目が慣れてくると、少年は塔の狭い階段をたどたどしく降りていく。苗木でできた塔は所々隙間があり、光が入ってきていた。
その隙間に少年は目を当て、外の様子を見た。
すると、ほうきやちりとりを持った子供達が、暗い表情で敷地内の掃除をしていた。
所々に、大きな狼たちが子供たちを見張っている。さぼろうものなら、狼たちの鋭い爪と牙が子供達を傷つけた。泣きべそをかく場合も一緒だった。

子供達は皆、右腕に太陽の刻印を所有する太陽族の子供たち・・・・・・・・だった。
どこに連れ去られたのかもわからない太陽族の子供たちは、ここに来て労働を強いられていた。
基本は敷地内の掃除や調理など、雑用だ。
5時間の睡眠以外は基本労働を課せられ、子供たちにとって自由のないこの状況は過酷だった。
食事も必要最低限1日1回しかもらえず、腹を空かせた子供たちは木の皮や井戸の水などを口にしていた。

オレンジ髪の少年は、他の子供達が掃除をしている様子を目にして、急ぎ塔の階段を降りた。外に出ると一面草原が広がり、新緑の匂いが鼻を掠めた。

敷地内は3つの塔以外は建物もなく、閑散としている。そのため、物も少なく管理や掃除がしやすかった。
敷地内は太い苗木で造られた高い壁に囲まれており、外は鬱蒼とした近づきがたい森が広がってる。
外には、より多くの狼たちが生息しており、この敷地から逃げ延びたとしても、狼たちに食べられ死んでいくという話は子供たちの中では有名だった。
オレンジ髪の少年は、狼たちの目を盗みながら掃除用具のある小さな小屋を目指した。

"そろり・・・そろり・・・"
いくらムチで打たれようが、傷つけられようが、労働をしない者は罰せられる。痛いのは誰も嫌いである。狼たちの目を盗んで少年は小屋についた。
オンボロな小屋は、誰が見てもいつか倒壊しそうな状態であった。
そんな小屋の扉をガタガタさせながら、力いっぱい少年は開けた。
開くと、外の光が差し込み、小屋の中には掃除道具が無造作に積み上げられていた。

"ガサゴソ"

ほうきとちりとりを探していると

"・・・サササッ"

「・・・?」
掃除用具が敷き詰められた小屋の奥から、何やら物音が聞こえる。
少年はその物音が聞こえる方に顔を向け、敷き詰められている掃除用具をどけた。

"ーキュ?"
そこにいたのはネズミ・・・だった。
全身土色の毛に覆われ、特徴的な青い瞳をしている。

『いいか。下等種族のてめぇらの仕事は、この場所を綺麗にしておくことだ。ネズミ1匹でも見つかったら・・・わかってるな?!?』
狼の青年が言っていた言葉を思い出す少年。
同時に、ネズミが見つかればまたあのムチで痛いほど叩かれることを想像する。
そして少年はコクリと頷き、ネズミに目を向けた。
黄色い瞳を光らせー

"ガッ・・・!"
少年がネズミを捕まえようとした。
しかし

"スッスッスッ"
気配に気づいたか、ネズミは少年から逃げた。少年はネズミを追い、捕まえようとする。少年も中々に瞬発力が良く機敏な動きだが、ネズミも負けじと逃げる。
そうこうしていると、ネズミが小屋から逃げ出した。
少年はもう掃除のことなど忘れ、ネズミを捕らえるのに必死だ。小屋から逃げ出したネズミを追いかける。

必死に追いかけている内に、とある塔の前・・・・・・に来ていた。そこは、少年たちがいる塔と反対側にあるもう一つの塔。
先ほどまでネズミに必死だった少年は、ふと立ち止まった。

ここにいる子供たちは、基本的にこの領地内の全体を掃除することが課せられている。
そんな敷地の中でも、子供たちが立ち入ってはいけない禁止区域・・・・がある。
中央にある大きな塔の最上階と、少年が目の前にしているこの塔だ。
子供たちは密かに、自分たちのいる塔を「東塔・・」、正反対にある塔を「西塔・・」と呼んでいた。
この西塔も、東塔と全く同じ外観をしていた。

なぜか狼の青年や狼たちは、この2か所の場所へ子供たちが近づくことを禁止していた。禁止という生易しいものではない。近づこうものなら、重い処罰を与えられる。
以前、掃除していた際に誤って近づいた子供は、半殺しにさせられるほど狼の青年にムチで打たれていた。

少年は思い出し、目の前の西塔を見つめた。立ち止まっていると、西塔に入ったネズミが、塔の隙間から顔を出し不意に少年を見つめる。
─ こっちにこないのか?
とでも言っている様だ。少年は、ネズミを逃した際の罰と、西塔に入った際の罰、どっちが痛そうかをふと考えた。
暫く悩んでいると

”アオーーーーン!”

(・・・!)

狼たちの鳴き声が聞こえ、少年は反射的に西塔に入った。暫く狼たちが近づいてこないか様子を見ていたが、西塔に入ってしまったことに遅れながら気づいた。
そして、暫くじっと何かを考えたが、入ってしまった事実はしょうがないと開き直り、ネズミを探し始めた。

入ってみるとやはり自分たちがいる東塔と同じ構造だった。
人一人が通れるくらいの細い螺旋階段をぐるぐる上がっていく。上まで上がると、一つの扉が現れた。
東塔との違いといえば、ここの扉は厳重に閉められていないところだ。
東塔の扉には、子供たちが逃げ出さないように、ツルのようなもので厳重に閉められていた。狼の青年がいつもの不思議な力・・・・・・・・・で行っているようだ。

この西塔。禁止区域とされているが、この塔には狼たちよりも大きな怪物がいると噂されていた。
以前、禁止区域に近づいてしまった子供の証言では、全身が真っ白で、赤い鋭い瞳に大きな鎌の様な腕を持つ大きなトカゲの怪物・・・・・・・・・が出たと大泣きしながら言っていた。
その禁止区域にいるトカゲの怪物は人間が好物、特に子供たちが好物なのだと、出所不明な噂が出ている。その噂が出てからは、子供たちの誰もが、怖がって近づかなくなっていた。

”チチ・・・”
そんな噂も関係なく、少年が扉より少し離れた階段まで登ると、扉の前にはネズミがいた。
ネズミを見て、少年は狙いを定めるようにネズミを凝視した。
じぃーっと見つめ、ネズミが逃げ出さないように静かに近づき・・・

”ドンっ!!!”
「・・・いっ!」
勢いよく捕まえようとしたが、同時に自分の頭を扉に思いっきり打ちつけた。あまりの痛さに、少年は頭を抱える。

「・・・誰・・・?」

頭を押さえてもがいていると、扉の中から声が聞こえた。少年はビクッと身体を強張らせる。
声色は高く細かったため狼の青年ではないだろうと察したが、誰かに見つかってはまた痛い思いをする可能性が高い。
ー まさか、ここに誰かいるとは・・・。
噂されていた怪物が本当にいるのだろうか。
どこか隠れる場所がないか、辺りを見渡すも細い階段があるのみだ。そうこうしている内に、目の前の扉が開けられた。

”ギィ・・・”
少年はなすすべもなく、開かれる扉をじっと見つめた。
するとー

「・・・あなたは・・・誰?」

そこにいたのは、同じ年齢くらいの少女・・・・・・・・・・が立っていた。
黄金の柔らかい長髪は、見惚れてしまうほど美しい。

”ジャラ・・・”

そして、少女の足首にはが付けられていた。


ー次回ー

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