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王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第12話

第12話 太陽のコウモリたち-2-

ーー前回ーー

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「おーーーまーーえーーーー!!本当に隊長としての自覚があんのかよ!?ただでさえ、ロストチャイルドの件・・・・・・・・・・で孤立した状態の今、こんな事して揚げ足取られたらどうするんだよ!そうしたらこの弱小部隊なんて即終わりなんだぞ!?!おい!!」
バンが坂上に怒りをぶつけている隣で、緑色の瞳をした女性が幸十に近づきじっと見た。

「ふーーん。それにしても本当に治療うけたの?凄い傷だらけよ?」
「やっぱりさっちゃん、医療室あそこで酷い仕打ちを受けて・・・」
琥樹あんたは、どうせぎゃーぎゃー騒いでたからでしょ。」
女性が幸十の傷だらけの肌を見て聞くと、琥樹こたつが真っ青な顔で幸十を見た。
そんな二人のやり取りの間に、黒髪の青年が割り込む。

「へぇ、あんさん、サチト言うんかい。俺は洋一よういち。よろしくな!」
「おいそこ!!勝手によろしくするな!!」
洋一と名乗る青年が幸十に握手を求めると、すかさずバンが止めた。
しかし、洋一は関係なしに他の隊員の紹介を始めた。

「このグレー髪のすかした奴が、ココロ。我ら戦術班・・・の天才と言われておるんや。まぁ、性格は腹黒だから気ぃつけてな。」
”ゴン!”
「馬鹿に言われたくないよ。」
思いっきり叩かれる洋一。痛そうにしていると、再度女性が前に出てきた。

「私はミドリ。コウモリ部隊の戦術班にいるの。」
各々好きなように話しだし、ブレーキの効かない状態にバンはため息をついた。
「はぁ・・・そもそも太陽族なのか?幸十その子は。」
「ちょっと失礼。」

ココロが幸十の右腕の袖をまくり、幸十の傷だらけの腕に太陽の刻印があることを確認する。
「太陽族ではありますね。」

その印を見た後、ココロは幸十の肩に目がいった。
「これは・・・数字の?」

ココロの問いかけに、その場にいた全員が幸十の肩に注視した。
「ん?なんや、マジックで書いたんか?」
「んなわけないでしょ。これは・・焼き印?・・・自分でいれたの?」

ココロがまじまじと肩の刻印を見て聞くと、幸十はココロの方に目を向けた。
「ううん。これはドレイの印。ヒナギクの塔で入れられるものだよ。」

その幸十の言葉に、部屋に沈黙が流れた。
幸十はみんなの顔を見ると、何処となく驚いていた。
坂上はバンから離れ、幸十の方に来た。
「ー幸十くんは・・・奴隷だったのですか?」

坂上は幸十を傷つけないようにと、幸十の傷だらけの手を優しく包み、優しい声色で聞いた。
しかし、幸十は当たり前のよういに答えた。
「うん。そうだ。俺はドレイだ。毎日労働する必要がある。でもヒナギクの塔にいたはずなのに、いつの間にかここにいたんだ。俺はいつ帰れる?じゃないとまた怒られる。」
「ー帰る・・・とはどこにですか?」
「東塔。そこにみんないるから。」
「・・・みんな?みんなとは?」
「?みんなはみんな。乖理かいりや・・・志都は西塔にいるけど。心配なんだ。狼たちに痛い思いさせられてないか。結構痛いんだ。俺は鈍いから大丈夫だけど。みんなあのムチに当たると、暫く動けなくなっちゃうから。」
幸十の話を皆、注視して聞いていた。先ほどとは部屋の雰囲気が変わっていた。

「その・・・カイリさん?やシズさん・・・とは?」
「志都は・・・よくわからない。西塔にいる女の子。美味しいクッキーを持ってるんだ。乖理かいりは俺と一緒。太陽族の人間って言ってた。」
「カイリさんは・・・幸十くんと同じくらいの年齢でした?」
「?うーーん。背は俺より小さいから、年齢は・・・あ、そう言えばゴサイって言ってた。」
坂上は少し考えると、もしやという顔で聞いた。

「その・・・東塔にいるみんなというのは、それくらいの子供たちでしたか?みんな幸十くんと同じ太陽族?」
「うん。そうだよ。俺は中でも古株って。みんな俺より背が小さかった。」
そこからは、沈黙が走った。みんな黙って何かを考えている。
そして、琥樹こたつが人差し指で頬を掻きながら、気まずそうに聞いた。

「ねぇ。セカンドの俺でもなんとなく思ってるんだけど・・・。これ・・・俺たちが探していたロストチャイルド・・・・・・・・・の件に関係あるんじゃないの?」
その言葉に、皆息をのんだ。
そして、目の前の幸十に視線が注がれる。皆、幸十の素性を何か探るようにじっと見つめてきた。
幸十は何のことか訳わからず頭を傾けていると、奥にいたバンが言った。

「おい!坂上!今すぐ上に報告だ!!」
机を叩き、バンは何やら焦った表情で言った。

「・・・・・。」
「何を迷ってるんだ!?これは大きな手掛かり・・・・・・・になるかもしれないんだぞ!?ちゃんと報告を・・・」
暫く坂上は考えると、何か決めたように再び幸十に視線を戻した。

「幸十くん。太陽の泉・・・・に行きましょうか。」
”ガクっ・・・”
坂上の言葉に、一同拍子抜けした。

「何で今・・・!」
「えーーー!シャムス地方・・・・・・の?!俺も行きたい!!」
「俺も!俺も行くで!!」
「え、私も行きたいわよ!!こんなくたびれた部屋にいたら心までくたびれるわ!!」
”ゴキっ”
はしゃぐ琥樹こたつと洋一とミドリに、バンが指を鳴らす。
その瞬間、3人は静まり返った。バンはため息をつき、坂上に視線を戻す。

「ー坂上。流石に今回の件は、俺たちだけの問題じゃない。ロストチャイルドに関係があると思われることはちゃんと・・・」
「バンくん。何故ロストチャイルドの件、私たちだけが問題視しているか分かってますか?」
坂上の問いかけに、言葉に詰まるバン。

「ーだが・・・太陽族であったとしても、ロストチャイルドの関係者である可能性もあれば身元もよく分からねぇ奴を入れるわけにはいかないだろ?何かあってからじゃ・・・」
「俺もバンさんの意見に賛成ですよ。いくら何でも、何の承認もなしに、幸十をこの部隊に入れるのは危険すぎます。」
ココロもバンに続いた。

「大丈夫です。彼の身元は分かりませんが、危険ではありません。」
「何でわかるん・・・」
バンが反論しようとした時ー

”ス・・・”
「にゃぁ~」
「え」
どこともなく現れたクロが、幸十の膝に座ると、そこでくつろぎ始めた。
その光景に、そこにいた坂上以外の人間が驚いた表情を見せた。

「え、あのクロが?」
「坂上さん以外の人間には懐かないクロが?!」
「えーーいいなぁ!私も触りたい!!」
その様子に、坂上はにこっと笑った。

「ね?動物の本能は人間よりも敏感だと言います。クロがこれだけ懐いているのです。少なくとも私たちに危害を加えるつもりは、本人はないでしょう。」
坂上の笑顔の圧に皆黙り、幸十の膝の上で、クロは欠伸しながら目を閉じた。

しかし、全員が幸十の入隊に納得しているようではなかった。


――次回――

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