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season7-4幕 黒影紳士〜「黒水晶の息吹」〜第五章 天空に独り


ちょっと待ったー‼️待ってお願いです、待って‼️
間違えて1日前に更新しちゃいました!
一枚もう一枚、挿し絵描きたかったです!
明日読むか、挿し絵だけ明日観にきてね♪💦

第五章で本幕はラストスパートですよ^ ^🎩🌹
さぁ、御手を拝借。
走り抜けましょう♪

第五章 天空に独り

「……はっ……はっ……」
 黒影は未だ息も整わぬうちに立ちあがろうとした。
「先輩!……幾らなんでも無理ですよ!」
 サダノブの言葉を気にも止めず、黒影は鳳凰の炎揺らぐその瞳を更に燃える様に真っ赤にさせ、上空を睨み立ち上がった。
「無理とか……出来るかじゃあないんだよ。……他に誰がやる。此処にいる全員の命を見捨てろと言うのかっ!何が何でもやらなきゃいけない時って言うのは、今しかないだろ!」
 そう上を見上げ言った黒影の後ろ姿に、サダノブは絶句する。
 一歩も怯む事ないその姿……炎を纏った漆黒のロングコートは、其の震える怒りの様に騒めき熱風に鳴った。
 バサバサッと鳥の群れが羽ばたく……まさに其の瞬間の音の様に……。
 其の威圧も凄まじい物であったが、サダノブが絶句したのは其方では無い。
 黒影の本気の姿も怒りも見て来た。だけど……
「其の翼でまさか飛ぶって言うんじゃないですよね!?」
 サダノブは珍しく黒影に憤りを打つける。
 黒影の背にあった翼は、地面との激しい衝突で折れ曲がり骨が露出していた。
 其の骨からの血は背まで伝い、背を見れば翼の付け根からも出血が滲んでいる。
 ぽたり……ぽたりと、地面に落ちた鮮血。
 黒影は横顔だけ見せ、振り向き切らずにこう言った。


「サダノブ……お前は今、正論を言っている。僕を護る者ならば、止めるのが当然だ。……だがな……聞いてくれ。如何か忠犬でも無く、僕の友人として。……此の物質は風に乗り、軈ては多くの食物をも枯らし、生物を狂わせるだろう。僕には此の存在を許したくは無い理由がある。そして…………こんな事を許せる程、甘ったるい自分がいるならば、僕は僕を許せない。……僕が上空の悪魔に加勢し始めたら、鳳凰陣に粉々に砕いた氷を叩き込め!……良いな!誰よりも、お前を信じて託すんだ。」
 黒影はそう指示すると、口元だけで軽く微笑んで見せた。

 ……hav1024と聞いてしまったからには……此れ以上……お前を苦しませたりはしない……

「先輩!」
 サダノブは黒影が死に急いでいる様に見えて、其の背に手を伸ばした。
 けれど……そうだ。何時だって此の人は待ってはくれない。
 だけど、其の先に立ち止まっているんだ。
 待っていたとでも言う様に、何時も涼しい顔してさ。止めても無駄だ。だったら、一緒に……やるっきゃないって……時だって言いたいんだ。
 久しぶりで……大人になって……変に忘れ掛けていました。
「信じてますよ!」
 サダノブはそう黒影の背に言った。黒影は走り出す様に上を見詰め乍ら、状態を低くした。
「当たり前だ。……翼は此れだけでは無い!……朱雀炎翼臨!」
 黒影は守りの鳳凰の翼を、朱雀に変えた。
 燃え盛る怒りの炎と地を反動に蹴り出し、直線上に猛スピードで飛び昇って行く。
 鳳凰の様に使える技は少ない。だが、圧倒的な力と速さが必要だった。
 此れは翼を持つ者同士の闘い……。上空では既に激しい衝突や爆発音が響き渡っている。
 人間なら、本気を出せば爪先を鳴らす一瞬で殺せる悪魔が苦戦していのだ。
 ……此れが……正義再生域が持ち過ぎたと言う、有り余る力……。
 近付く程に、其の戦闘の激しさは増したが、下から観察していた黒影は怒りで恐怖を打ち消す。
 思惑通りにはさせない。……黒水晶が駄目ならば、答えは実にシンプルだ。
 何方かの物質を変えれば結合してもhav1024は産まれない。其の方法は……
 ……大気の方を変える!
「先輩!言われた通りにやりますからね――――!!」
 サダノブは黒影が上空の二人に辿り着くと同時に、こうなりゃ社訓「やってみるしかない!」根性だと、腕を振り翳し思いっきり鳳凰陣に拳を叩き込み氷を流すと、更にバキバキッと何度も其れを砕いた。
 鳳凰陣から連なり、十方位鳳連斬の陣の全体から砕けた氷が一斉に上空に放たれた。
 犯人も悪魔も其の気配に、一時互いに離れ下を見た。
 悪魔が闘い乍らも吸収していた細やかな黒紫の光に、太陽の輝きがキラキラと混ざる。
「黒影、此れは一体?!」
 悪魔は黒影に何をしているのかと聞いた。
「大気自体を変えるんです。其処の邪魔者は一先ず引きつけておいてくれませんか。……今僕は……サダノブと、初めてキャッチボールして遊ぶんですからねっ!」
 そう言って黒影はニヤッと笑うと腕を引いて朱雀剣を手に出現させた。砕かれた小さな氷が届くと黒影は炎の渦巻く朱雀剣の熱風で、回転切りをする様に舞った。
 其の熱風により美しく舞い上がったダイヤモンドダストは勢いで飛散し溶かされ、霧雨となる。
「此れで雨が物質を洗いながす……」
 黒影は下にいるサダノブを見詰めていた。
 此れで悪魔が黒水晶を吸い取りきれば……そう思えた。
「黒影、確かに此れで下にいる全員の体内に入ってしまったhav1024は黒水晶を私が吸い、貴殿が此の辺り周辺の融合する大気を変えた事で無事だ。然し……我々が闘い、黒影が起こした熱風の風で既に此処以外の周囲に飛散し始めている」
 と、悪魔は冷静に顎の下に長い爪を添えて、分析して言うではないか。
「何ですって?!見えるんですか?」
 黒影は悪魔を見て聞く。
「我々悪魔は長い時を行き交う。ペストや流行風邪、色んな感染病もついて回る。だから、こう言ったものには敏感なのだよ」
 悪魔は当然の如く答えるのだ。
「そんな……。仕方無い広域に拡大するしか……」
 また鳳凰の奥義を使えば……鳳凰陣は拡大する。
 其の最大値でやるしか……。
 黒影は苦渋の決断に顔を顰める。
 そして両手を後ろに掲げ、震える手で最終奥義を唱え始めた。
「……鳳凰……」
 後は……「来義……君臨」と言うだけ……。
 其の言葉が喉を支えて出て来ない。
 鳳凰に戻った途端に先程迄の翼に戻る。
 背中の痛みも、最終奥義を先程連続で出した体力の消耗も……甘水だけで回復出来る範疇では無かった。
 確実に……落下する……。
 此の一言だけで良い……言う勇気があれば……。
 ……否……其れは如何だろう?
 唱え切ったところで、地上で何とかサダノブが助けたとしても、再び朱雀に戻る迄……己の身体は耐えられるだろうか……。
 守りたいものがあるのに……こんなにも!
 だから無謀でも良いのか?完全な敗北が見える勝負に身を投じる事程愚かなものは無い。
 そんな終わりの為に……命を掛けて真実を追って来た訳では無い……。

  黒影の動きを止め、鼓動だけを速める。
 其れは紛れも無い、迷いと言う感情だった。
 迷う暇等無いと、他の凡ゆる観察力と洞察力で潜り抜けて来たものが、今……音を立てて崩れようとしていた。
 漠然と何も出来ない己の、剣を持たぬ片手を凝視する。
 ……人は己の限界を知る時がある。
 其れが……こんなにも守りたいものを前に……訪れてしまうとは……。
 迷いは不安を纏い、恐怖は怒りで忘れた痛みを思い出させる。
「……僕は……」
 ……如何したら良い?……そうは誰にも聞けず、孤独だけを感じ、其の言葉を押し殺した。
 誰かの命を守るからには……誰かに間違って怪我をさせるかも知れないから……己の判断に揺るぎない自信を持ち、確実性も常に求められて来た。
 けれど……今……指示を受けたいと、誰よりも願っているのは己だと気付く。
 霧雨が身体を冷やすのに、朱雀の翼は背中の傷だけに響く。
 下を見ればサダノブが凍らせた重機の氷が次第に溶けたのか横たわっている。
 丁度……上からは、木々から、ショベルカーのフォークだけが見えた。
 黒影は其の時、余りの恐怖に目を逸らした。
 其の景色こそ……予知夢で見た影絵其の物だ。
 ただ、被害者のご遺体だけが転がっていない。
 其の意味に……気付いてしまった。
 力を失い……翼も失い……落下死した己に違いないと、確信してしまったからだ。
 ……僕が……死ぬ予知夢だったのか。
 だから……あの予知の絵……「真実の絵」を、見せたく無かった。
 其れでも見てしまった。
 其れでも……サダノブが無闇に傷付くのは見たくは無いと、此の景色に辿り着いてしまった。
 たった一人……犯人を追うだけだった。
 意地を張って探偵になったが、これからが不安だった。
 サダノブが変えてくれたんだ。
 だから……此れで運命を変えられなかったとしても、僕は……もう後悔はしない。
 ……白雪……鸞……すまない……。

「……鳳凰来義……君臨!」
 黒影は目を閉じて覚悟を決め、最後になるであろう略経を唱えた。
 此のまま朱雀でいても、状況が変わらないのであれば、少しでも状況を動かし、一秒でも先の己を見て死のうと思った。
 然し、不思議と身体が落下する感覚が無いのだ。
 黒影はゆっくり目を開ける……。
 未だ上空にいた。
 ……片手には朱雀が炎の渦巻き轟々と燃え盛っている。
 後ろでは、ギリギリと硝子に爪を立てる様な音がした。
 きっと、悪魔があの長い爪で闘っている。
 漠然と凝視した朱雀剣の渦の中に、次第に小さな白い物が見え隠れしだしたのだ。
「……此れは……まさか……」
 思わず口にした。
 朱雀剣が幾度と無く花の形を成す理由にやっと気付いたからだ。
 朱雀剣の渦の中がみるみる白く染まって行く。
 其処に見えたのは……足元に咲いていた、亡き父と母を想った雪柳の花が埋め尽くそうとしているのだ。
 ……二人が今……黒影に思う事……。

 願い……祈り……だ。

 其れが朱雀剣の形、力を変える物だと気付いたのだ。
「サダノブ!足りないっ!もっとだ、もっと雹でも霰でも何でも良い!さっさと巻き上げろっ!」
 黒影は下の鳳凰陣から黒影を見上げるサダノブに聞こえる様、叫んだ。
 如何なるかなんて分からない。
 でも、其れが未来ってものじゃあないか。
 可能性が一つだけ出来た。
 そんな物に賭けてみる人生も悪く無い。
 二人が僕に残した祈りならば……僕を助けない筈は無い。
 何時かは二人に絶望も抱いた。
 けれど……其れでも、憎み切れなかった。
 鸞がいて……白雪がいる。……父親になった今だから、分かる事もある。
 大人は子供の指針で在りたいと願い努力しても、間違いも弱さもある……やはり人間なのだ。
 そして其の全てが伝われば良いとも思わない。
 だからこそ、我が子の可能性を未来に信じる事が出来るのだから。
 ……如何か……願いや祈りが……僕からも届くのならば、有難うと……此の声が……聞こえて欲しい……。

「サダノブ、さては疲れてきたな。本気で粒を投げてきた」
 黒影は呆れて言ったが笑顔であった。
 何が起こるか……予知夢通り、己が死ぬかも知れないと言うのに。
 真っ白な小さな花が渦巻く朱雀剣を今度は大きく舞う様に振り翳し真横に薙ぎ払いの様に振った。
 美しく真っ白な雪が当たり一面の空を彩る。
 其れは静かに優雅に広がり風に乗った。軈てどれもが其の小さな花に炎の火種の様に花弁と共に勢い良く散るではないか。
 ――朱雀剣•改 白華龍翔炎斬(はくかりゅうしょうえんざん)――――
 の、誕生である。流れる様に線を成し熱風と巻いて飛び、次々と発火してはサダノブの放った氷に付着し溶かし切る。
 たった小さな花弁が、火薬の様に強い真っ赤な火を上げ、雨を広域に降らせた。
 より遠く迄……其の炎と氷が降らせる雨が降り続く。

「黒影!良い加減何か追加注文してくれないか?!此奴はずっとあれやこれやと融合させて武器を作る」
 と、珍しく血相を掻いた悪魔が黒影に泣き付くでは無いか。
「……そうか……そうだった」
 黒影は思い出した。悪魔が自分で自分の願いを叶えるのは御法度だと。
「勿論、此れは特別キャンペーン価格ですよね?」
 と、黒影は今更乍らに、魂すら一瞬で奪える悪魔が苦戦するなんて、余程犯人の能力は上だが、知恵だけは己には敵わないだろうと……其れこそ悪魔の様にニヒルな笑みを浮かべた。
「うっ……足元を見よって……。貴殿ならば仕方あるまい!何でも良い、願いだ!契約だっ!」
 悪魔は犯人が飛ばしてくる大量の爆弾を忙しなく払い退け乍ら悲壮に言うのだ。
 黒影は其の姿にくすくすと笑い乍ら、
「能力犯罪者専用の刑務所があるんです。其処の何処でも良いから空き独房に、其奴を閉じ込めるのが願い。対価は……ウィスキーだ。今度、僕等と一杯しましょうよ。雪柳が咲く頃には、枝垂れ桜が綺麗なんです」
 と、黒影は対価とは名ばかりの、お花見への誘いをした。
 此れが片付いたら、花見に行こう。
 そして……満開の華の下……サダノブと、キャッチボールでもしようか……。
 そんな事を想った。
「成る程、それでも対価は対価だ。……謹んでその盃の席に呼ばれよう。人間界は本では分からぬ知らぬ事ばかりだ。好奇心には勝てまい……契約成立としよう」
 悪魔はそう答えるなり、長い爪をバッと片腕と共に広げた。
 そして其の掌が閉じる頃にはもう……魔法の様に……否、失礼。正しくは悪魔が使ったのだから、「の様に」は取って魔法で、握り潰したかの様にその場から消し去ってしまったのだ。
 能力犯罪者専用刑務所ならば、監獄は総ての能力が使えない様に個々に遮断されている。此れはFBIの能力者の紹介で、封じる事を得意とする能力者との協力で作られた、日本で唯一、安全に能力を持つ犯罪者を勾留出来る場所となっている。
 次第に増える能力者による犯罪により、何時かこの先……もう一つの専用刑務所が産まれる事だろう。

 ……其れでも、鸞が担う明日から少しでも……犯罪の悲しみの無い世を残せたら、僕は其れだけで今の自分を許せる気がするんだ。

 ――――「黒影紳士世界」遥か上空……大時計時刻……0時30分……
 season7-4幕に刻まれた記憶である。

 ――――――――
 其の頃、穂がマンションに戻った後、白雪は黒影達を案じ疲れ束の間の転寝をしてしまう。
 酷い汗を掻いて……。
 凡そ20年前の勲が追っている事件を夢に見ていたからだ。
 白雪の特殊な予知夢……起こり始めた事件を犯人の視点で追って行く能力だ。
「白雪!……白雪!」
 帰宅した黒影は苦しみ乍ら眠っている白雪の姿を見付け、慌てて帽子を取り走り寄る。
 椅子に凭れたまま、きっと心配して緊張疲れだと言う事も、今日の事件が20年程前の事件と繋がっている限り、何方かの事件の夢だろうと、想像はついた。
 本当は起こさずに白雪が夢を見た方が……事件の解決は早いのは分かっている。
 其れでも思わず声を掛けてしまったのは、何よりも守りたい人の場所へ戻って来れたから。
 小さな変わらない喜びでも良い……。ありふれた今日を共に感謝したかったからである。
 やはり……読んだが、夢に苦しみ起きてはくれなかった。
 大切な人の安眠の為に、早く事件を終わらせたい。
 そう思って走って来た。
 けれど時々思ってしまう。大事な人の隣に寄り添う事が、一番単純で……一番難しいが……案外、大切な事なのだろうと。

 黒影はせめて……と、何時もの様に汗をタオルで拭い、椅子を近づけ隣の席に座ると、白雪の頭に己の頭を軽く乗せて、手を取り目を閉じた。
 こんな事をしても、何が見える訳でも無い。
 其れでも……少しだけ、君の考えて見ている近くにいられる気がするんだ。

 ――――――――
 其のリゾート地は未だ沢山の輝かしいビルに、辺りを囲む道が在った。
 20年前の……オリジナル正義崩壊域だ。
 遠くで沢山の建築を反対する立札や貼り紙が山の様に見える。
「即刻、撤退せよ!」「其処は我々の聖なる土地だ!」「黒水晶の地を汚す罰当たり!!」
 そんな文字が並ぶ。

 ……黒水晶の地?
 白雪は不思議に思って夢の中で足元をよく見て歩き出す。未だ開発中の立ち入り禁止の道路の行き止まり。犯人になっている白雪は平気で其処に入って行く。
 割れた地面から見えたのは黒紫にキラキラ銀色に光る、黒水晶の大きな結晶だ。それが夥しくあり、無惨にも土と共に雑に掘り起こされ砕けている。
 ……犯人が此れを見たと言う事は、此処を訪れる迄知らなかった。
 この土地の事を知らないのだから建築会社の関係者ではない。
……雇われたんだわ……。
 白雪がそう思っていると、空の色が変わって夜になる。
 日付が変わったらしかった。

 白雪が同調している犯人はある男とリゾート地でも一番大きなメインビル前で待ち合わせ、合流しビルを見上げた。
「行けそうか?」
 男が確認する。
「ああ、此のくらいの範囲ならば時など、僕の自由さ」
 と、犯人は笑っている。
 何の悪気も無く……此れから人殺しをするのに?
 白雪は犯人に憤りを覚えたが何一つ言えない。
 だって此れは夢なのだから。
「其れは良かった。じゃあ、段取り通りに……」
 そう言うと、犯人は男と別れて行動するようだ。
 中に入ると大きなロビーで寛ぐのだが、時計をしきりに気にした。
 軈てある女と出逢う。
 同調している白雪は不思議な気分になった。
 ……なぁに?ドキドキする……気になる……。
 ……まさか!此れから殺人を犯すのに、恋に落ちたって言うの?!
 白雪は呆れて夢から覚めたいがそうも行かない。
 彼女と部屋に入った時、彼女は先にシャワーを浴びていた。犯人は思っている。
 次は僕がシャワーを浴びて、きっと財布でも擦られて彼女は消えてしまう。
 何とか、次に繋がる方法をと、犯人は画策するのだ。
 そして取った行動は、先程の男へ連絡を入れる。
「少し状況が変わった。少し予定時間より爆発を早めてくれないか」
「何を言っているんだ!組織の指示通りに動け!」
 先程の仲間であろう声の主の男は言った。
 ……組織?建築会社じゃないの……?
 白雪は疑問に思う。
「後で説明はする。能力の調整をしたい。頼む!」
 と、犯人は言った。
「まぁ……そんなに言うなら仕方ない。此のミッションはお前がいないと始まらないからな」
 男は妥協した。
「すみません、有難う御座います。では、後15分後に」
 犯人は時間を指定する。
「15分後だな、分かった」
 そうして通話は終わった。
女がシャワーから上がり、犯人はシャワー室に入るが、シャワーの蛇口を捻るだけで時計を見た。
 時間になると爆発音がする。
 その後……犯人はなんと彼女だけを逃したのだ。
 彼女を逃した後、犯人は軽々と背に落ちた天井の壁を払い退ける様に、静かに立ち上がる。
「……彼女と違う時に生きても……生きていれば……何時か……」
 犯人は食い入る様に彼女の逃げた先を見詰めた。
 逃げ切って欲しいと切に願いながら。
 ……だったら……其の気持ちが分かるなら何故?……
 白雪には此れが殺人犯の気持ちだとは思えなかった。
 結局、雇われって事なのかしらん?
 そう思えた直後だ。
 爆発する火が宙で静止している。揺らいでいた周りに燃え移った火も、揺らぎを止めたのだ。
 ……時が……止まってる?
 白雪は暫くして其の状況に気付く。
 先程の男が走って来る。
「残党は大体片付けた。時間を戻せ」
 と、言うのだ。
 犯人は腕時計を見て軽く触れた。
 視線を上げると……再び周りの火が動き出す。
「さっさと、此処を出るぞ!」
 男は犯人に言う。
「あっ、ああ……」
 犯人は男と正面玄関から外に出る。
 本当は彼女を追いたい気持ちが伝わる。
 彼女がさ去った先を何度も見た。
「如何した?」
 男は犯人に聞く。
「否……何でも無い。さっさと任務を完了しましょう」
 犯人はそう言った。
「此のビルの一階のフロアを抉り黒水晶を破壊した。融合があれば、見なくとも簡単さ。……此のビルの高さで言うと……そうだな。三階辺りが強度が弱い。一階の破壊したフロアの残骸を三階の天井と融合しよう。一気に移動する事で、間は床も天井も跡形もなくなる。…………よし、出来た。さっさと、撤収だ。俺達まで実験台になる必要は無い。組織司令部に報告するぞ」
 と、男は言う。
 男は殺しを……此の犯人は殺しの片棒を担いだ。
 どんなに此の時、彼女の去った道へ走りたかったかが、痛切に伝わって来るでは無いか。

 人生で一瞬で決めた道が……一生の後悔になる事もある。

 そんな犯人の言葉で目覚めた。

 ――――――――――
「黒影?……お帰り……えっ……」
 黒影が帰って来ていた様で白雪の肩にズルズルと頭を下げて置くと眠ってしまった様だ。
 其の黒影を抱き締めた時、背中に汗では無い、嫌な滑りを感じて不思議に思ったのだ。
 白雪は首を伸ばして黒影の背中を見た。
 触った自分の手を離すと、真っ赤だ。
「嫌だ!何で怪我してるって、先に言わないのよ!病院は如何したの?」
 と、白雪は黒影を揺らす。黒影は、
「……あっ……あんまり揺らすと痛い。早く帰って安心したかったんだ」
 と、寝ぼけ眼で黒影は答えるのだ。
「もう……私の仕事増やして……。」
 白雪は口を尖らせ、救急箱を取りに行った。
 そして戻ってくるなりこう呟く。

「……一番に帰ってこようと思えた帰省本能だけは誉めて上げるわ。」
 と。
 夢見を心配して慌てて帰って来て……。
 困った人……。
 其れでも私の隣には何時も……大好きな貴方……。
 お疲れ様……。
 今日も変わらない幸せを……有難う。

 ――――――――――
 サダノブは事務所で調べ物をしていた。
 例の男の方だ。
 やはり正義再生域から来たとあって、FBIや警察の前科を当たったが、該当する人物がいない。
「先輩〜データが無いですね」
 と、サダノブが言うのだ。
 黒影はがっかりする訳でも無く、
「ハヤブサだ。ハヤブサを使う(※裏社会に精通する情報屋)。「黒影紳士世界」で表立って動けないのだから、裏で生息しているに違いない」
 黒影はそう言ったが、サダノブに頼みはしなかった。
 ハヤブサと連絡を付けるには独特な方法があるからだ。サダノブは其れを知ってはいるが、到底解けるものではない。
 黒影は白雪から治療されると、包帯を巻かれた上半身を隠す様に、ワイシャツをサッと着込み乍ら、リビングから事務所の方へ移動する。
 ノートPCを起動するとまた数字と記号を眺めている。
 バックグラウンド(背景)にはcountdownが表示されている。此のTime limit内に此れらの暗号にしか見えない数学や科学式を解かないとログイン出来ず、失敗すると強いウィルスに感染し逃げられてしまう。
「後、一問!」
 黒影は全集中力を使って眉間に皺を寄せ、前のめりになって解いて行く。
 サダノブには全く分からないが、此の時間制限が中々に厄介らしい。
 黒影は横に用意して開いていたメモ帳や電卓機能をフル活用し、時には事務所の電話横用のメモにもスラスラとボールペンで数字を書き込んで行った。
「入ったぞ!」
 黒影は小さなガッツポーズを取るが、何だか楽しそうだ。
 其れは毎回、ハヤブサとゲームでもしている感覚なのだろう。
 ――――知りたいのは結合する男だな?――――
 ハヤブサの方が先にチャットで話し掛けてきた。
 ――――ああ、そうだ。分かるか?――――
 黒影だとはもう分かっているらしい。
 ――勿論。高く買い取って頂けると思って既に調べ済みです――
 と、ハヤブサは答える
 ――足元みるなよ。……仕方無い、じゃあ何時もの所で――
 黒影は情報を買うと言っているらしい。
 ――――毎度あり――――

 此れだけログインが困難で会話は完結に終わるのだ。

 翌日、黒影の馴染みの純喫茶で落ち合う。
 時間は送られてきたスマホだ。仕事が終わったら、解約される。
 黒影は一人珈琲を頼む。
 ハヤブサは其の名の如く先にいたので、黒影は真後ろの席にいた。顔を見ずに互いに会話する。
「……組織が如何のと、白雪が夢見で見たらしいが?」
 詳細情報を聞くと、黒影は聞いた。
「其の建築会社は末端に過ぎないよ。正義再生域の輩が牛耳っているらしいが、未だ詳細はだれも……。正義崩壊域の輩と、時々ドンぱちしてるよ。……黒影……」
「……ん?」
 ハヤブサの呼び掛けに黒影は珈琲を飲む手を止めた。
「……早くしないと、裏の秩序が崩れる。警察なんか手に負えない事態になりつつある。どの輩も恐れを成して、再生か崩壊かと騒ぎ立て何方に付くか考えているよ。奴ら殺しが上手いからねぇ……。大金を動かせるのさ。……黒影はFBIのバック付きだから、言うんだよ。俺も随分とやり辛くなった。……期待してるよ」
 と、ハヤブサは最後に言うと去って行った。
 料金はFBIから小切手が行くので問題ない。
 黒影は犯人の男の詳細情報をメモ等の形には決して残さず、頭に叩き込み家路へと急いだ。

 ――――――――
 氏名 小平 鳴彦(こひら なるひこ)
 年齢 28才
 能力 結合、融合
 出身 正義再生域
 組織の末端に属している
 組織名……未だ不明。
 備考
 現在、能力犯罪者刑務所にて勾留中
 20年前程の正義崩壊域を崩壊させ、近隣村人を殺害。
 其の数……46名。
 高梨 光輝(別途報告書あり)と、共犯である。

 ――――――――
 世界は少しずつ端から崩壊を辿っている
 一見平和な「黒影紳士」の世界は静かに……気付かれる事も無く。

 だが今は……此の静けさに少しだけ興じさせてくれ。
 ほんの鳳凰の羽根休め。
 此の世界の何処かの様に枝垂れ桜が柔らかな風に揺れ、その淡い花弁を崩壊の様に夜空へ崩れ……舞上げて行く。
 此の儚さは……止められないと分かっているから。
 其れでも……此の美しい夜がある此の世界を……愛して止まない。

 漆黒のロングコートを白く僅かな紅を差した花弁が、模様の様に鮮やかに乗る。



「せんぱーいっ!聞いてくださいよー。山田 太郎(悪魔)が、ウイスキーで酔ったら態度でかいんすよ。事務は私の方が出来るとかマウント取り出すんすよっ!歴が違うと思うでしょう?先輩!?」
 と、サダノブが泣きついてくるのだ。
「お前もジンライム、飲み過ぎだよ!人が風情を楽しんでいたら……物思いに耽る暇もないよ!」
 そう言って黒影は酒の席に戻る。

 ……そうだな。
 この優美を前に憂う暇無し。
 そんな夜は……今に興じる己を許し
 微笑む帽子を静めた紳士に桜が笑う
 嫋やかに揺れくすくすと
 現実の夢現に他の夢等今は無用
 孤独を忘れる事も良し

 琥珀酒の水面にひらり花弁が揺れた
 捕まえたいものは
 浮かんでは沈む……擦り抜け遊ぶ「真実」哉

 舞い上がれ……闇に妖艶な紫の光を放つ
 その謎の中に眠る哀愁
 ――――――

「……さっき、黒影から連絡がありました。高梨 光輝さん……このビル群の崩壊当日……貴方だけ逃した後、この観光施設の時を止めました。その為にあの日、此処にいたそうです。止めた後……他の能力者が、村の者を残らず殺しました。今は未来の能力を持つ犯罪者専用の刑務所にいます」
 勲は、今回の件を寄子に話した。
「時を止めただけでしょう?殺して無いんでしょう?私を助けてくれたじゃない!」
 寄子は冷たく淡々と話した勲が信じられないと言う様に、両腕を持ち縋る様に揺らした。
「じゃあ……言わせて貰います。時さえ止められなかったら、何人かは逃げ伸びる事が出来ました。大量殺人に加担したのは確かです。貴方を迎えに行くか、組織に従うか考え……組織を選んだ。僕には其の組織の恐ろしさは如何なるものかは存じ上げません。ですが……如何なる理由であれ、貴方を見捨てた事実は変えられ無い。時間はあります。……私は愛だの約束等、無形の物は信用しない。目の前にある「事実」だけです。調査があるので失礼しますよ。……貴方が其れでも未来へ行くと決めたなら黒影に再度依頼します。寺に連絡して下さい……では」
 勲はその場から立ち去ろうとした。

 ……「もしもし、黒影です。……寄子さんの事なんですがね……本当に此方に来たいのかな?」
 黒影は勲に今回の報告を上げる際、こんな事を聞いた。
「……何故、そんな事を私に?寄子さんに言われた様に黒影に頼んだ筈ですよ」
 と、勲は不思議がる。
「……寄子さん……こっちに来ても、頼る場所も食い扶持も無いのでしょう?」
 それから、高梨 光輝の刑期の長さを大凡で言った。そして……
「勲さん。彼女の面倒……見て上げれば良いじゃないですか?また腰巾着切りに戻るだけなんですから」
 と、黒影は暢気に言うのだ。
「はい?今何と言われました?私はただでさえ居候の身ですよ。赤の他人の面倒なんか……」
「……勲さん」
「はい……」
 否定しようとすると、黒影は宥めるように一度落ち着かせた。
「君は……誰も信じない。だから独りでも強い。影一つあれば生きていけるだろう。独りでも構わない。其れは何人でも構わないと同じ。君は多分自分の強さに……酔っているのだよ。自分しか守っていないのに。……僕は彼此約20年……妻を守って来た。……カラン……(何故か音がする)。勲さんが強いのなら、女一人増えたところで足枷にもならんのだろう?……賭けをしよう!20年後……勲さんが寄子さんを守っていられたのなら、勲さんの勝ちだ。未来と勝負するなんて楽しいだろう?」
 と、黒影はとんでもない賭けをしようと言い始めた。
「黒影殿!……良い加減にして頂きたいな。君、先程から報告をするのに、酒を煽っているのではないですか?今の……氷が溶けた音ですね?何て体たらくな!……そんな賭けをして、上手く押し付けようとしても無駄ですからね」
 勲はまんまと黒影が花見から帰って、気分良くまた一杯被っているのを見破った。
「勲さん……。君に足りないものが寄子さんにある気がします。其れに君もまた……井の中の蛙だ」
 と、ふっと笑うと黒影は通話を切ってしまったのだ。

「勲さんまで……行かないでよ……」
 寄子がギュッと手を握り、光る涙を落とし言った。
「ですから、私は誰かの面倒を見る様な余裕は……」
 勲は少し泣かせてしまった罪悪感に慌てふためき言う。
「……なら良いわ!勲さんが捕まえるまで、私……また他人様の財布を擦って生きるから!私には……私は……そんな生き方しか知らないの!光輝は私を助けてくれた。生まれて初めて助けてくれた。其の助けた手の温もりが忘れられないの。それなのに……走っても、逃げても逃げても……来てはくれなかった。「逃げろ、走れ」……その言葉が、消えない……。止めてよ!……他に私を救った人がいないのだから……勲さんしかいないのよっ!」
 寄子はそんな言葉を苦しそうに言うのだ。

 ……井の中の蛙……か。

 勲はふっと笑いこう言った。
「私は警察ではありません。ほんの手伝いをしているだけなのです。適当な流れ者の生き方しか、私も知りません。……けれど、少なくとも他人様の財布を狙う生き方でも無い。教えるだけです。もう一度だけ……寄子さんに言います。……もう……逃げる必要はありません。……もし、逃げるのならば、私が必ず……今度は捕まえる。

 ……迎えに……来ましたよ」



 その男は冷たい影を持つが
 誰よりも温かい手で、丁寧なお辞儀をすると私の手を取った。
 其の時……私は気付いたの。
 井の中の蛙は……やっと安心な、外の世界を覗いた。
 其の日の空は突き抜ける様に真っ青で、微塵の汚れも無い。

 私には分かるの。
 きっと、この先ずっと……勲は私を守るだろう。
 やっと……迎えに来てくれた……
 私を井戸から出してくれた人……

「きゃー、勲さん……また、昔に戻してしまいました」
古くから変わらぬ寺に響き渡る。

「はい?……あっ!私が持ちますから……其れも触るの、ちょっと待って下さい!」

「ちょと待ったは……御座いません」

 ―――season7-4幕「黒水晶の息吹」おわり――

次のseason7-5幕「色彩の氷塊」第一巻最終回を読む↓

第一章

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読書感想文

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。