ツリーと、彰と、葛藤と。
今年初めて、自宅にクリスマスツリーを飾った。
180cmのアルザスツリー。
遠目で見ると、葉の感じがとてもリアルで、すっきりした佇まいも美しい。夜にライトアップさせるのが毎日の楽しみになっている。
ツリーに強い想いがあったわけではない。
そもそも、クリスマスに特別な過ごし方をしたいという願望もあまりない。
イベントやお祝い事に全くの無関心である夫と一緒になってからは、年々その傾向が強くなっていた。
ただ、子が生まれると、状況は一変する。
「無風こそ人生」を体現しているような夫が、長男が初めて迎えるクリスマスに、ついに風を起こしたのである。
「クリスマスは何かするの?」という、なんとも人任せで小さなつむじ風だったとはいえ、ほぼ完全にスルーしてきた数年を思えば、驚くべき変化だった。
勢いに身を任せてステーキを焼き、当時2ヶ月だった長男にサンタ帽をかぶせ、にわかクリスマスパーティーをしたのが6年前。
ここ数年は、クリスマスマーケットに足を運んだり、サンタやトナカイをモチーフに子ども向けにパーティーメニューを作ったり、もちろんプレゼントも用意したりと、毎年それなりに楽しんでいる。
ただ、結婚前に同棲をはじめた1LDKで窮屈に暮らしていたから、さすがにツリーは飾るスペースはなく、卓上サイズですら置き場所がなかった。
そして去年の冬、「絶対に来年はでっかりツリーが飾れる広さの家に引っ越している!引っ越せ!何があっても引っ越せ!」と自らに圧をかけるが如く、思い切って購入したのだ。
180cmアルザスツリー、足元隠しの布とオーナメントセット、LEDライト込み込みで約2万が、なんとお値打ち価格6千円程度。秒でポチった。
家に、ツリーがある。
それだけで、しみじみ嬉しい。
組み立てて見せると、子どもたちもぴょんぴょん飛び上がって喜んだ。
ズリバイをする9ヶ月の娘が、日中、枝葉にちょんちょん触っている姿も微笑ましい。
そんな子どもたちの姿に、私の心はほこほこと温まった。
ほこほこしながら、私はある葛藤に悩まされていた。
ツリーを飾る程度にクリスマスに向き合うなら、もっとルーツであるキリスト教のことを勉強すべきではないか…?
クリスマスが本来どういう行事なのか、オーナメントのモチーフ一つひとつにはどういう意味があって、食卓に並ぶ料理はどんな文化が根付いているのか?
今まであまりきちんと向き合ってこなかった分、クリスマスまわりには知らないことが渋滞している。
私にとってクリスマスは、知欲の鉱脈と言って差し支えないだろう。
知欲は本来、刺激的で楽しい欲求であるのだから、素直に従えばいい。
ただ同時に、その鉱脈の果てしなさを、私は知っていた。
表面を知るだけでも楽しいけれど、知るうちに、もっと知りたくなる。あまりに影響範囲が広く、深く、果てしない。
そう、この楽しさは、「苦しみが透けて見える楽しさ」だ。
ツリーを飾ることで、私はその苦楽の入り口に立ってしまったのである。
子どもたちが産まれて、季節の行事を楽しむようになってから、基本的には行事ごとに文化的背景を学びなおすようにしているし、それがとても楽しい。
知りたがり気質だし、知らないと気持ち悪い。
(ストレングスファインダーが、上から「収集心、内省、着想、学習欲、共感性」なので、もうこれは逃れようのない気質)
日本の行事は、過去、知識の断片に何かしら触れていることが多い。
小学校で習っていたり、別の行事と関連があったり、点が多い分、線に繋げやすい。
ところがキリスト教はどうだろう。
日本とも関わりは深く、日常生活に点がたくさんあるくせに、繋いでも繋いでも、自分の中で一向に「線」になっていかない感覚がある。とにかく複雑なのだ。
そもそも聖書が厄介である。
聖書、人出てきすぎじゃない…?
え?このヤコブとあのヤコブは別人だよね、このヨセフは…ヨセフって前どこで出てきたっけ?あーーー…キリストの養父そうそう、そうだった、で、このヨセフはえーっと…
前途多難である。
全体をざっくり理解したいな〜と、聖書の関係図みたいなやつ見ると、すべてを諦めさせる威圧的なボリュームと難解さがそこにある。
どこまでいっても、「概要」のごくごくわずかなところしか触れられない。
さて、どうしたものか…。
部屋の片隅にあるツリーを眺めながら、私は無意識に、「池上彰」「家庭教師」で検索をしていた。
脳が、「誰かに頼れ」と指示している。
彰(以下敬称略)なら、全てを解決してくれそうな気がした。
彰よ、私のために、この難解なキリスト教まわりのすべてを、日本人視点でスッキリ分かりやすく教えてくれ…
検索結果の上から3つめに、とある質問サイトが表示された。
Q:池上彰が家庭教師のバイトをしたら、時給何円くらいでしょうか?
き、気になる!
ドンズバではないけれど、そもそも「池上彰」「家庭教師」で何を得たいのか、目的をぼやっとさせたまま調べていたのだ、一歩現実世界に引き戻してくれる感じが、さすがGoogleである。
A:彼のギャラは1時間で100万円と言われています。
たっけぇぇェェェ!!涙
私の中のイマジナリー彰は、光の速さで遠ざかっていった。
せめて一瞬でも、微笑んで欲しかった。
夢が散るまでの時間およそ1秒弱、Google検索は世知辛い。
そういえば今年、「池上彰がいかにして日々情報を取得し処理しているか」という本を走り読みしたのだけれど、確かにえげつない。
(ちょっとした思考の古さはあるし、特殊な仕事の人向けな感じはするけど、学ぶことはあるしとにかくインプット量に圧倒される)
どの道のプロも、膨大な努力をしている。
私ごときが、彰から1時間を奪おうなど、おこがましいにもほどがあるのだ。
私はおとなしく、彰が書いたキリスト教関連の本をポチった。
もしかして、私が買ったアルザスツリーには、池上彰につながる何かしらの広告が仕込んであったのかもしれない。
ぼーっと眺めているだけで、彰を思い起こす何かしらの作用が。
まぁ、結果、学びにつながったので、それでいい。
彼の多大なインプットと、分かりやすいアウトプットにも、敬意も示したい。
本の購入という貢献、それは私と彰の愛の形である。一方的ぃぃィ!!
ツリーのオーナメントのことなどは、Google先生が教えてくれた。
へぇ、そもそもツリーはキリスト教を起源に持つわけじゃないんだ(諸説あり)。
とか、あの、よく見る丸いオーナメントボールには、アダムとイブの実の意味があるのね。とか、少し調べるだけでもいろいろと面白い。
来年はこういうオーナメントを飾ってみたいな〜と、新しい楽しみも増えた。
少しずつ、いろんな角度から、楽しんで知っていけばいいこともある。
今年はイルミネーションも見に行きたい。
0歳3歳6歳とセットだと、まだちょっと難しいかなぁ。
カルディで、メルティングスノーマンを買ったから、ホットミルクに溶かして飲むのが楽しみだ。
可愛い〜激甘そーーー
ツリーの下に置くプレゼント、そろそろ買わないと。
せっかくだから、洋画でよく見る感じの、プレゼントがもりもりー!みたいな感じにしたい。
ツリーを組み立てたとき以上の笑顔が見られれば、何よりである。
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